水森飛鳥と御子柴夏樹の関係はⅠ(警戒を怠った日)
今日も今日とて一日が始まるのと同時に、一週間もまた始まった。
「……」
「……」
朝起きて、朝食を済まし、身支度して、学校に向かうーーのだが、正直、昨日の今日で風弥とは顔を会わせづらい。
「ほら、さっさと行くぞ」
「……夏樹に戸惑いとかは無いんだ」
「完全に無いって言ったら嘘になるが、お前が無駄に気にしまくっているし、小暮の前でもそわそわしっぱなしだと、疑われかねんぞ」
無駄って何だ。無駄って。
けど、夏樹の言っていることも事実なわけで。
「でもなぁ……う~……」
だって、こうして悩むのも仕方がないじゃないか。相手は普通の友達とかではなく、小学校から付き合いがある風弥なのだから。
「大丈夫だよ。相手は付き合いが長い風弥なんだ。ちゃんと話すって約束したなら、ちゃんと話せるはずだ」
「……そうだね」
けれど、付き合いが長いからこそ、きちんと話さなくてはならない。
それがたとえ、どんな結論を出すことになろうとも。
☆★☆
さて、桜咲学園の方である。
「どうやら、ちゃんと来れたみたいですね」
気持ち悪いぐらいの満面の笑みで、迎えてくれた副会長を見て、一瞬にしてイラッとした。
見事なまでにその感情を塗り替えられたせいで、せっかくの気分が台無しである。
「貴方は一体、私のことをどう思っているんですか。一度ぐらい、じっくり話し合う必要があるような気がするんですが」
ちなみに、昨日のお礼とこれとはまた別の話である。
「まあまあ、二人とも。落ち着いて」
私と副会長の間の空気を察したのか、桜峰さんが宥めてくる。
「落ち着いてる」
「落ち着いてます」
「落ち着いてない人の台詞だよね、それ」
まさか、桜峰さんに指摘されるとは。
「私が指摘したぐらいで驚かないでよ」
「いや、だって咲希に指摘されることなんて、あまり無かったから……」
「だとしても、驚きすぎだよ」
ぷいっ、という効果音が付きそうな感じで、桜峰さんが顔を背ける。
「ほらほら、早く教室に行くよー」
どうせ私が来るまで話していたんだろうし、副会長には「それじゃ」と軽く声を掛けて、桜峰さんの背中を押しながら教室に向かう。
「飛鳥」
「んー?」
「押さなくても、歩けるよ?」
なら、と手を離す。
「飛鳥さぁ、何かあった?」
「何もありませんよー?」
風弥のことを除けば、いつも通りである。
「なら、良いんだけどさ。何かいつもと違ったように見えたから、昨日、何かあったのかなぁって」
昨日、何があったかなんて、こっそり後を付いてきていたから、知ってると思うんだけどなぁ。
けどまあ……
「昨日?」
「あっ!」
素直だなぁ。
今の反応で、何があったのかを知っているのを暴露しているようなものなんだけど。
これと比べたら、夏樹の方がまだ隠し方が上手いんだよな。何か隠してることは、すぐに分かるけど。
「何だよ」
「いや、何でもないよ。咲希と比べたら、夏樹は隠すのが上手いよね、って思っただけ」
「それ、褒めてんのか、貶してるのかどっちだよ」
どっちと言われてもなぁ。
「さぁね」
私にもそれは分からないけど、多分そのことは夏樹も分かっていることだろうから。
「何だよ、それ」
「ほら、咲希。どうせバレバレなんだから、言い訳考えても無駄だからね?」
「む、無駄って何さー!」
桜峰さんが噛みついてきた上に力加減は軽い(ように感じる)ものの、ぽこぽこと叩いてくる。
「ちょっ、痛い。ごめん、私が悪かったから」
でも、叩かれる方としても痛いものは痛いので、早々に謝る羽目となった。
ただーーきっと油断していた部分もあったのだ。
以前、同じことがあったにも関わらず、いつもなら警戒しているであろうこういう瞬間でさえ、警戒を緩めたことを私は後で後悔することとなる。
そしてーー……
「ーーあらあら。随分とまあ、楽しそうよねぇ」
そんな私たちの姿を遠目で見ていた女神は、一つの手紙を手に、くすくすと微笑んだ。




