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水森飛鳥と各ルートⅠ(獅子堂要ルートⅢ・vs“武器持ち”)


 まあ、神頼みしたところで、すぐに状況が変わるわけでもないし、どうにか自分たちで考えて、対処するしかないわけで。

 対処しようと思えば出来るけど、声が出ない以上は無意味な私と、戦闘系異能持ちではない上に護身術しか使えない会長。

 対する相手は、戦闘系異能持ちではあるのだろうが、中でも“武器持ち”と呼ばれる異能者(だと思われる)。


「……」

「……」

「……」


 正直、このまま睨み合っていても時間の無駄なので、この膠着(こうちゃく)状態を脱却したいところでもある。


「ーー」


 ああ、やっぱり無駄か。

 少しは声を出せるかと思ったけど、まだまだ声を出せないらしい。

 心の中で唱えたり出来ないわけではないが、それを知らない会長と息を合わせられるかどうかを問われると、自信が無い。


「……戻るか」


 それが、現状としては最善なのだろうが、再度脱出する際のことを考えると、それは後々の行動を難しくすることだ。

 繋いだままの先輩の手を軽く引き、首を横に振る。


「じゃあ、どうする?」


 私の行動を見た先輩だけではなく、誘拐犯の男が問い掛けてくる。


『先輩。私の自業自得とはいえ、少し面倒ですが、手を繋いだまま会話をしましょう』


 修学旅行中、立ち聞きする際に使った方法を変えてみただけで、ぶっちゃけテレパシー的なものなのだが、先輩が完全に顔を向けてきたことで、ちゃんと伝わったことは分かった。


「で?」

『はい?』

「この状況を打破する方法について、どうするつもりだ」

『そうですね……』


 思い付いた案(一、窓から飛び降りる。二、誘拐犯から剣を奪って脱出を試みる)を言ってみれば、顔を顰められた。


「アホか」

『後者に関しては、私がしますから問題ありませんよ?』

「大有りだろうが。さっきも言ったが、お前に何かあったりしたら、いろいろと大変なんだよ!」


 何故分からないんだ、と言いたげにされても、困るんだが……この状況って、誘拐犯から見たら会長一人が私に文句言ってるみたいですよねー。


『でもまあ、ご心配なく。剣を奪うだけなので』


 まあ、あれから(・・・・)それなりに経ってるから、どれくらいで感覚が戻ってくるのかは分からないけどーー今、手を離したことで、心配そうにしている会長を安心させなければ。


「お前が相手するんだな」


 一歩前に出れば、誘拐犯の方も察したらしい。

 でも、私は声が出せないことから何も言えないので、笑みを浮かべるだけに留める。


「余裕なのか、()められてるのか……」


 どっちも違います。

 けどまあ、訂正するつもりはない。

 ただ一つだけ気になるのは、スカートであることだけなんだけど、気にしてると本気で剣を横取りできないから、なるべく意識の外に追いやる。


「……」


 下手に傷を負って、さっきから顔を顰めっぱなしな先輩の心配を助長させ、後々行動を封じられても面倒だ。


 ーー速攻で、決める。


 改めて、剣を構え直した誘拐犯に、瞬時に姿勢を低くし、距離を詰め、足払いを仕掛ける。


「ーーっ、!?」


 相手は驚いてくれたみたいだけど、剣は手放してはくれない。

 だから、次は剣を持つ手を狙う。

 利き手にダメージを受ければ、日常生活にも支障が出るだろうが、犯罪者相手にこっちが気にしてやるまでもない。


「っ、あんまりーー調子に乗るなよ!」


 だが、起き上がり掛けた誘拐犯によりーー角度等も無茶苦茶だがーー、剣が振るわれたことで、私の髪が数本ばかり宙に舞う。

 そんな私が一度()を取れば、誘拐犯は誘拐犯で、完全に立ち上がる。


(あーあ、絶好の機会(チャンス)だったのに)


 無駄にしてしまったわけだが、また作れば良いだけのこと。


「女。お前、何者だ?」

「……」

「普通、“武器持ち”相手に丸腰のまま突っ込んでくる馬鹿はいないぞ」


 でしょうね。

 あと、『私が何者か』っていう質問は聞き飽きた。ここに来る前後で、何度聞かれたと思ってるんだ。


 ーーカン!


 高く上げられた靴と振り下ろされた剣が当たっただけなのに甲高い音が響き、それを警戒したのだろう、今度は誘拐犯が距離を取るーー否、取ろうとする。

 でも、取らせない。

 距離を空けられた分、こちらから詰め、回転による加速を追加した蹴りを奴の腹に向かって繰り出すが、剣で防がれる。


「ーー」


 ーーウザい。

 もう、気絶に追い込んでやろうか。この男。

 そうと決まれば、再度距離を取り、脳震盪(のうしんとう)を狙いつつ、まずは(あご)から狙いますか。で、少しばかりの殺気(ほんき)もプラスして、本気で気絶し(ねむっ)てもらおう。


「ーーッツ!?」


 警戒し直したって遅い。

 速度ならーー圧倒的に私の方が速いのだから。


「ガッ……!」


 誘拐犯がその場で片膝を着くが、やはり剣を手放さない。


「なぁる、ほどなぁ……」


 誘拐犯がこっちをじっと見てくる。


「お前の攻撃パターンは、拳を突き出すっていうより、蹴りで相手を片付けるタイプだな。どこの流派だか知らねぇが、一定の動きや法則性があるみたいだから、どこかの流派の技であるのは間違いないはずだ」

「……」


 うーん、思いっきり外れてはいないのだが、あれ(・・)を流派と呼んで良いのかは疑問だ。

 ……まあ、こうやって話している間も、攻撃する手は緩めていないないのだが。


「ーーっ、!?」

「水森!」


 刃が頬を掠っただけなのだが、先輩が焦ったような声を上げる。

 掠った部分を親指で拭ってみれば、血は出ていたらしく、赤くなった指をぺろりと舐める。


「怪我をしながらも怯えたような様子も無いとは……お前、本当に女か?」


 ついに性別まで疑われたし。

 だから、笑みを浮かべて蹴り飛ばしてやった。


「ぐっ……」


 もう気付いたら一階には居たので、脱出も容易なのだが、私としてはやはり携帯を取り戻したいところである。

 会長には()らばっくれたが、携帯から雛宮先輩たちとの関係がバレるのは避けたい。

 起き上がろうとした誘拐犯の動きを封じるべく、奴の腹の上に足を置く。剣も使われては困るので、剣を持っている方の手も踏みつける。


「……お前、鬼だな」


 会長が若干引いた様子で言う。

 今まで言われた中では、まだマシな方なんだけど……「そうですか?」と言いたげに首を傾げてみる。

 とりあえず、剣を誘拐犯の手から抜き取り、持ってみる。


「……剣っていうのは、初心者や素人が簡単に扱えるような代物じゃねぇぞ」


 さすが、この剣の使い手だけあって、よく分かっているらしい。

 それにしても、ここまでしておいて、何も返してやらないというのもどうかと思うので、誘拐犯の手を握れば、びくりと肩を揺らされる。


『そんなこと、言われるまでもない』


 それだけ言って、手を離せば、固まったままこちらを見てくる誘拐犯。

 それを無視して歩き出せば、慌てたように声を掛けてくる。


「まさか、それを持ったまま、あいつらと()り合うつもりか?」

あいつら(・・・・)?」


 足を止め、振り返りはしたが、同じく疑問に思ったのだろうタイミング良く会長が尋ねる。


「ああ、お前たちが行ったところで返り討ちにあって、あの部屋に逆戻りになるだけだ」


 つまり、私の異能が何人かに防がれたってことか。


「どうする。このまま脱出するか?」

「……」


 少しばかり考える。……いや、考えている暇なんて、本当は無いのだ。

 あれだけの音をさせておいて、他の誘拐犯たちが気付かないはずがないのだから、脱出するなら今のうちにしておいた方が妥当だろう。

 いくら剣を手にしたとしても、相手できる人数なんて限りがある。


「馬鹿なことを考えるなよ。命あっての物種だ」


 そうだ。携帯なんて、神様に頼めば何とか出来るはずだし、今は脱出してーー


「ーーあら。中々戻ってこないものだから、様子を見に来てみれば……何てザマなのかしらね。修人(しゅうと)

翔子(しょうこ)さん……」


 突然現れた翔子と呼ばれた女の人を見た、修人と呼ばれた誘拐犯の男は顔を青ざめさせる。


「その様子じゃ、貴方が出したってわけじゃなさそうね」

「すみません……」


 顔を歪めて謝罪する修人に、くすりと翔子は笑みを浮かべる。


「それにしても、修人をそんな風にしたのは、貴方? それとも貴女?」


 会長と私に、それぞれ目を向けられる。

 剣を持っているのは私なのだから、見比べるまでもなく予想ついているだろうに。


「正直、“武器持ち”の修人からどうやってその剣を取り上げたのか、気になるところだけど……」


 その言葉とともに向けられた視線に、ぞくりとする。


 ーーああ、これはマズい。


 直感的に、そう判断する。

 手にしていた剣を握り直してしまうほどに、この翔子という女はヤバいらしい。


「大人しく、部屋に戻ってくれない?」

「……」


 ああ、こんな時に何で声を出せないんだ。


「翔子さん。そいつ、話せないみたいです」

「どういうこと?」

「気絶した奴らに使った異能のデメリットみたいです」

「なるほどねぇ……」


 修人からの情報を聞いて、面白そうにーーそれはもう、面白そうに、翔子は笑みを浮かべる。


「でも、態度で示せるんじゃない? もう一回、聞くわ。ーー部屋に戻ってくれない?」



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