水森飛鳥と短いようで長い修学旅行Ⅶ(猛禽類と向日葵(ひまわり))
鷲尾隼人と日向葵。
鳴宮君の説明通り、喫茶店の店長と店員という関係で働いている二人は、『鳴宮郁斗』と『鷹藤晃』のどちらかのルートに入っていた場合、彼らの行きつけでもある喫茶店に入ることが出来るのだが……そこで二人と出会うのだ。
まあ後は、想像は容易く、鳴宮・鷹藤の両名から進路変更して、彼らを攻略すればクリア、である(与えられた知識より抜粋)。
つか、この隠しキャラ勢。
彼ら(のルート)って、メインキャラ勢から主人公を寝取っているようなものなんだよなぁ。ぶっちゃけ横取りとも言えるが、もう少しまともな方法が合っただろうに、何故女神はこうしたのだろうか。
そもそも普通、ゲームの隠しキャラって、ある程度の条件を満たさないと出てこないはずなのに、何この異常とも思えるエンカウント率。バグってるの? ……あ、この状態がバグですか。
とまあ、そんな状態の私たちが遭遇していないのは、会長と副会長絡みの隠しキャラ。会長の場合はもう、雛宮先輩と魚住先輩で良くないか? あと、副会長はなぁ……。
さて、そんな現実逃避も程々にして、鷲尾さんたちに目を向ける。
今は場所を移して、喫茶店みたいな所にいるのだが、自己紹介はそこまでの移動中にもう済ませてある。
ちなみに、ナンパ野郎どもの時に聞こえてきた先生の声は、私の異能によるものなので、遅刻の心配は無かったりする。
「いやー。それにしても、あの二人を相手に、よくあそこまで言ったよねー。普通、言い返せないでしょ」
日向さんが笑いながら言ってくる。
まあ、桜峰さんみたいにビビるのが当たり前だろうが、こっちはこいつらと会うためのイベントかと思ったら、内心イライラしっぱなしだ。
手のひらサイズのフクロウさんよ。いきなり働けとは言わないから、せめて厄介なことは来ないようにしてくれ。
「まあ、この子を連れて行かれたら困るので」
本当にそれな。桜峰さんが居なくなると、私の存在意義が無くなりかねない。
ちなみに、私の両サイドは桜峰さんと夏樹が座っている。で、桜峰さんの隣に鳴宮君、その向かい側に鷹藤君と鷲尾さんたち……という順で座っている。あと、これは余談だが、席に座る際に桜峰さんと鳴宮君が睨み合ってた。
「まあ、居るはずの生徒がいないとなると、桜咲レベルの学校だと、問題になるわなぁ」
笑い事じゃないんだけどなぁ。
「で、どっちが郁斗と晃の彼女?」
「えっ!?」
「ごふっ……!」
日向さんの(ある意味)爆弾発言に、桜峰さんが驚きを露わにし、ジュースを口にしていた鳴宮君が噎せる。
「どっちも違いますよ」
「ふーん?」
動揺することすら無かった(ように見える)鷹藤君が返すも、日向さんは疑いの眼差しを浮かべたままである。
「タイプの違う女の子たちが一緒なのにー?」
これは……あれか。せっかくの修学旅行なんだから、付き合ってる子がいないなら、今のうちに作っちゃえ的な。
桜峰さんはともかく、私はなぁ。
「だ、だからって、二人に手は出さないでくださいよ!?」
あ、鳴宮君。それ、駄目な発言……。
せっかく鷹藤君が誤魔化してくれたのに、自分からほぼ暴露してどうする。
「出さないよ」
「つか、何だ。やっぱ居るんじゃねぇか。気になってる奴」
鷲尾さん、日向さんの順で返してくるが、せっかく逸らしてくれた鷹藤君は頭を抱えている。
「どっちだ? ん?」
明らかに面白がっている日向さんに、「葵」と鷲尾さんが声を掛けるが、「後輩の恋愛相談に乗るのも、先輩の役目だぞー」と言われ、顔を引きつらせている。
「『先輩』……?」
「俺たち、桜咲の卒業生なんだよ。学校の近くに店が出来たのは偶然だけどね」
私の疑問に、鷲尾さんが返してくれる。
「だから、『先輩』」
「そういうこと」
鷲尾さんが笑みを浮かべて、肯定する。
ちなみに、二人が桜咲の卒業生であることは、知識には無かったので、この周から女神が新たに設定を付け加えたのだろう。
「飛鳥」
「何?」
「そろそろ喫茶店を出る用意しないと、間に合わなくなるぞ」
夏樹に言われて、喫茶店の時計で時間を確認すれば、本当に目的の時間になろうとしていた。
「うわ、マジか。咲希。そろそろ行かないと、バスに間に合わなくなる」
「え、もう?」
「何なら、後で走る? 私は構わないけど」
「う……」
おー、迷ってる迷ってる。
桜峰さんが食後に走りたがらないのを知ってるから、試しに言ってみたのだが、最終的にどうするのか迷った挙句、残っていたケーキを無理に口の中に押し込んでいた。
「……ぐ」
「ああもう、無理して押し込むから……」
まだ口を付けていなかった水を桜峰さんに渡せば、ごくごくと飲んでいく。
「死ぬかと思った……」
「自業自得でしょうが。もう、どれだけ走りたくないの……」
思わず呆れた目を向ければ、「えへへ」と返される。
「ほら、鳴宮君たちも引き上げる準備する」
「あ、うん」
そんな調子で時間が時間なだけに男性陣を急かしつつ、バタバタしていたのだが、自分たちの注文分まで鷲尾さんたちに払わせるわけにもいかないので、財布を出そうとしたらーー……
「あ、お金は出さなくて良いよー」
「今回は奢り。お金を落とすなら、うちの店で落としてくれると助かるかな」
そう言われてしまった。
「本当に良いんですか?」
「構わないよ。どうしても気になるのなら、うちの店に来てくれれば良いからさ」
差し出されたのは、鷲尾さんの名詞と一体化された鷲尾さんたちの喫茶店のカード。
「分かりました」
ちゃんと自分の店の宣伝してくるとか、さすがである。
カードをしまって、再度お礼を言う。
「お代の方、払ってもらってありがとうございました。それでは、失礼します」
「うん、それじゃあね」
そのまま、彼らに背を向け、目的地に向かう。
「水森さん、あの二人と何話してたの?」
「払ってもらったから、お礼を言ってただけ」
「なら、良いけど……」
全く、何を心配したのかは知らないけど、こんな公衆の面前で馬鹿をやるような人たちでないことぐらい、あの二人と知り合いの鳴宮君なら分かってるだろうに。
ーーで、残った二人は、といえば。
「いやー、愉快愉快」
「からかいすぎだぞ、葵」
けらけらと笑う日向に、鷲尾はやりすぎだと咎める。
「それにしても、晃は『どっちが彼女?』という問いについては『いない』とはっきり言ってたけど、『好きな奴がいない』とは言ってなかったよなぁ」
「おい……」
あくどい笑みを浮かべる日向に、嫌な予感がした鷲尾がまさかとでも言いたげな顔をする。
「まあ、郁斗の好きな子があの二人のどちらか、っていうのが分かったのは、大きな収穫だな」
「さあ、今度あいつらが店に来たとき、からかいまくるぞー」という日向に、鷲尾はいつか来るであろうその日を思い、頭を抱えるのだった。




