水森飛鳥と短いようで長い修学旅行Ⅱ(行ったり来たりの一日目)
さて、修学旅行当日である。
私と夏樹は向こうと何度も行き来しては、時折神崎先輩と話し、修学旅行の準備をしていた(その際、雛宮先輩たちにも念のために連絡はしておいた)。
本当、何で修学旅行同士が同日に激突してるんだよ。みんな以上に疲れる自信があるぞ。
「飛鳥ちゃん、桜峰ちゃん。お菓子食べる?」
「あ、ありがとう。奏ちゃん」
「あ、ありがとう」
奏ちゃんの申し出に、私と隣同士で座っていた桜峰さんが戸惑いながら、前に座っていた彼女からお菓子を受け取る。
私に対する積極さはどうしたんだ、と思いつつ、私も奏ちゃんから受け取って、口に入れれば、ぱきんと棒状のチョコレート菓子が割れる。
外の風景を見ながら、修学旅行先が国内で良かった、と思う。
金持ち校だと、修学旅行は国外みたいなイメージがあるけど、桜咲学園はそんなことは無いらしく、国内と国外の交互で、私たちの代は国内になったらしい。
国外だと、行き先次第では治安の心配があるし、校外とはいえ、女神の影響が無いとも言えない。
「……それにしても、良かったね。奏ちゃんたちが一緒の班になってくれて」
「あ、うん。二人とも、ありがとう」
まあ、さすがに桜峰さんも、女子たちから距離を置かれていることには、気付いてるみたいだし。
「気にしないで。クラスメイトじゃん」
「相原さん……」
今まで同性から言われたことが無いってぐらいに、嬉しそうな顔をする桜峰さんに、奏ちゃんと顔を見合わせ、肩を竦める。
「ありがとう」
「はいはい。修学旅行は始まったばかりなんだから、泣かないの」
ぽんぽん、と頭を撫でてやる。
「泣いてないもん」
「いや、泣いてるし。私たちが虐めてるみたいだから、とりあえず、涙引っ込めてくれない?」
そして、このことを知った生徒会陣営が怖い。
私たちは虐めてないよ? 桜峰さんが、予想外に感動して泣いただけで。
「見えてきたみたいだよ。目的地」
真由美さんが声を掛けてくる。
「咲希」
「なぁに?」
涙を拭きながら、桜峰さんが目を向けてくる。
「何があるか分からないけど、何かあったら、すぐに呼ぶように」
目的地に着いて、荷物を手にしながら、桜峰さんに言う。
「え? あ、うん」
戸惑い気味に桜峰さんが頷く。
まあ、文化祭での件もあるから、注意のようなものだ。
況してや校外なのだから、警戒しておいて損はないだろう。
☆★☆
大きな荷物は宿のそれぞれの部屋に置いて、貴重品や必要なものを手にしたら、クラスごとのバスに再度乗り込む。
ここで、やはり日程の組み方がおかしいと言ってはいけない。
日程の組み方は、きっと女神辺りがイベント優先で考えたのだろう。だからか、班行動が二日目と三日目になっているんだと思う。
「……ったく、無理に関連づけなくとも、他にも方法はあったでしょうに」
班の子たちとバラバラになった桜峰さんが、偶然とはいえ彼女を見かけた鳴宮君たちに助けられる、とかさ。パターンはいくらでもあっただろうに。
「……」
ちなみに、夏樹は今ぼんやりとしている。
おそらく、向こうに意識を飛ばしているのだろう。それなら、と私も元の世界に顔を出すべく、意識を向こうに向けてみる。
「……」
あ、眩しい。
そっと目を開けば、見慣れたクラスメイトたち。
こちらも修学旅行一日目だが、あちらとは違って、班行動である。
「ぼんやりしているけど、大丈夫?」
「だいじょーぶ」
向こうと違って、こちらは歩いたりしないといけないからね。
班編成は『仲良し四人組』ーー小学校からの付き合いの三人と組んだ班である。つまり、夏樹も一緒。
「一日目だが、調子はどうだ?」
「始まって数時間だけど、残りの日数、持つかどうか。もう不安」
知識があるだけに、下手に手出しも出来ない。
「こっちはこっちで、あの二人の進展具合を見てないとなぁ」
目の前に居るのは、一組の男女ーー私たちの友人にして、親友である。
「修学旅行中にくっつくと思うか?」
「無理だろうね。期間が短すぎる」
けれど、一年という期間が決められてる向こうよりは、余裕があるだろうし、マシだと思う。
二人を見ながら、デジカメで二人を撮る。うん、よく撮れてる。
「二人とも、移動するよー」
「今行くー」
呼ばれたので、二人の方に歩いていく。
「なぁに、話してたの?」
「何でも無いよ。ただ、撮ってただけ」
ちなみに、デジカメ撮影はあちらでは行っていない。
「二人も撮ろうか?」
「別にいいよ。まだ明日もあるし」
向こうと違って、こっちでは時間のほとんどをこのメンバーで過ごすことになりそうだしね。
……いつも通りだという突っ込みは引き受けない。つーか、一緒に居る面々なんて、決まっているようなものでしょ?
「夏樹」
「何だ?」
「お互い、頑張ろうね」
こっそり話し掛ければ、同じようにこっそり返される。
向こうでは、そろそろバスから降りないといけない頃だろうか。
「タイミング見ながら、戻らないとねー」
夏樹を一瞥すれば、「ああ、そうだな」と小さく頷かれたけど、どのタイミングで抜けようか。
「無理だけはするなよ」
「しないよ。そっちこそ、無茶だけはしないでよ」
そう言って、予定を確認する。
「……何こそこそしてるのよ」
疑いの眼差しを向けられた。
「あ、あー! 小夜も風弥も。そろそろ移動し始めるんでしょ? 早くしないと、行く予定してた場所も回りきれなくなるから、早く行かないと……」
「まあ、そうなんだけど、誰のせいだと……って、マズっ! 電車の時間、迫ってるし!」
そんな小夜の言葉に、慌てて移動を始める。
「ったく、本当に慌ただしい一日目だなぁっ!」
本当にね。




