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水森飛鳥と体育祭Ⅰ(前半の部)


 さて、文化祭が終われば、次は体育祭である。


「……で、同じチームである副会長はまだしも、何故違うチームの会長たちまで居るんですか?」


 現在、開会式を終え、第一競技が開始、第二競技の出場選手の召集アナウンスが流れてちょっとしてから、生徒会役員が桜峰さんの周りに陣取っていた。

 ちなみに、私の両隣は夏樹と鳴宮君である。

 同じクラスである夏樹はともかく、何故君まで来た。


「悪いか?」

「いえ、別に。ただ、最初から自分のチームに居なくていいのか、気になったものですから」

「問題ない。ちゃんと自分の競技には出るし、別に俺が居なくて困るような奴らでもないしな」

「ならいいですけど」


 うーん……? 何か会長、様子が変わった?


「ま、今回はこんなチーム分けになったけど、負けないよ。副会長に咲希先輩」

「未夜先輩には宣戦布告しといて、俺たちには無しか。そうかそうか」


 鳴宮君が鷺坂君を(いじ)りだす。

 朝っぱらからよくやるよなぁ。


「よくあんな元気があるよなぁ」


 あ、夏樹も似たようなことは思ってたのね。


「インドア派には辛い一日だなぁ」

「お前、インドア派でも何でも無いだろうが」

「だが、アウトドア派でもない!」

「自信持って言うことじゃねーだろ」


 体育祭中は基本的に外だから暇だ。話すこと以外、何も無い。


「……」

「……」


 ネタ切れである。

 完全にネタ切れとは言えないけど、人前で話すような内容ではない。

 それに、私たちは自分から話しかけることは、あまりない。それなりに話すことは話すけど、家族や友人といった知り合い以外はあまり話さない方だと思う。

 ……隣の人たちは別として。


「……あ、そういや」

「ん?」

「……いや、やっぱいいや」

「あっそ」


 何か思い出したかのように声が上がったから聞いてみれば、何でもなかったらしい。

 本当に何でもなかったのか、単に人前で話せるような内容じゃなかったのかは分からないけど。

 目を向ければ第二競技が始まっていた。


「咲希、次でしょ。そろそろアナウンス入ると思うよ」

「あ、そうだね」


 真面目に(・・・・)チームメイトを応援していた桜峰さんに召集のことを告げれば、彼女が立ち上がるのと同時に放送が入る。


『次の競技に出場する人はーー』

「じゃあ、行ってくるね」

「頑張って」


 さすがに負けるのだけは嫌だから、応援はする。


「うん」


 そのまま去っていく桜峰さんを見送りつつ、異能を発動する。

 昨日のこと、忘れたわけじゃないし。


「ねぇ、飛鳥先輩はどの競技に出るの?」

「その前にさ。私、君に名前呼ぶの、許したっけ?」

「え」


 鷺坂君が固まる。

 うん、けどさ。こっちには君と接した回数って、ゼロから数えた方が早いんだよね。


「あー、飛鳥。それはないわ」

「ほとんど同類の夏樹に言われたくないんだけど」


 イラッとしたので、そう返す。


「ひ、酷い。咲希先輩は、あっさり許可してくれたのに」

「全部が全部、咲希みたいに許可すると思わないこと。……あ、咲希だ」


 体育祭競技リストと今からの第三競技ーー障害物競争を照らし合わせていれば、咲希が準備のために白線の内側(コース)へ立つ。


「……」


 咲希の前の走者を目視で確認する。

 で、知識上の咲希の運動神経からすると……うん。


「……二人まで抜かされても大丈夫かな」


 確証はない。

 そうこうしていれば、咲希がバトンを受け取り、走り出す。

 ちなみに、咲希の障害物は平均台である。懐かしい。


「頑張ってください、咲希!」

「咲希せんぱーい! 頑張ってー!」


 ……うるさい。

 ちなみに、会長と鷹藤君は第四競技出場選手のため不在だし、夏樹は夏樹で、もうすでに耳を塞いでいる。

 つか、チーム戦なのに、桜峰さんだけ個人名応援ってどうなの。しかも、はっきりと名前出しちゃってるし。


「いやー。やっぱ桜峰、早いなぁ」

「言ってる場合? うちのチームとそんなに点差ないけど」

「あれ? 水森さんって、こういうの気にするタイプだったっけ」

「気にはしないけど、負けるのが嫌なだけ」


 五点差とかならまだしも、一点差で負けるとか何か嫌だ。


「ちなみに、こいつ。足早いから」


 夏樹が何か情報を提供しやがった。

 そして、私は夏樹が言うほど早くないし、こっちでだと加護とかのブーストが怖いんだけど、その点に関しては去年の体育祭で検証済みだ。


「そういえば、去年も上位には居たよね」

「よく順位まで覚えてるね」


 去年のこととはいえ、他人に順位まで覚えられているとか、何か嫌だ。


「え!? あー……うん」


 顔を引きつらせたかと思えば、次の瞬間には落ち込んでいた。

 何気なく桜峰さんの方を見れば、彼女はもう走り終わったのか、アンカー同士が走っていた。


「それじゃ、そろそろ行ってくるから、咲希に言っておいてくださいね」

「え、未夜先輩。200(メーター)に出るの!?」

「そうですが……言ってませんでしたっけ?」

「聞いてない!」


 副会長に噛みつく二人だけど、どうやら本当に言ってなかったらしい。

 それにしても、揃いも揃って200(メートル)走(予選)に出場か。何だか騒がしくなりそうだなぁ。


「頑張ってください。私と夏樹は応援できませんが、咲希たちなら見れると思いますよ」

「ああ、順番的にはそうなりますね」


 チームメイトの出場競技を覚えている副会長のことだから、通じるかと思って言ってみたら、通じたらしい。


「あれ? 確か、次って……」

「4×100mの予選」

「俺は4×200の方な」


 夏樹の場合、200mは見ようと思えば見れるのだが、召集のアナウンスが掛かるのを知っておきながら用意しない奴でもないので、時間が来るまでは桜峰さんたちの観察でもするのだろう。


『次の競技に出場する人はーー』

「ほらほら、召集アナウンスが掛かりましたよ。さっさと行ってきてください」

「ずっと思ってましたけど、君、僕たちが嫌いですよね?」

「嫌いというより、嫌なだけですが」


 桜峰さんが関わろうが関わらまいが、嫌なものは嫌だ。


「容赦ねぇな、お前」


 夏樹が苦笑いするが、時にははっきり言わないと分からない奴らも居るんだぞ?


「それでは、行ってきます」

「頑張ってください」


 ただこれだけは本音なので、そう言って三人を見送った。



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