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水森飛鳥と波乱の学園祭Ⅷ(終了ギリギリのその時まで)


 油断した。はっきり言って、ものすごく油断した。


「……」

「ほらほら、早く!」


 雛宮先輩たちと別れ、「話を聞いて思ったけどさ。あの二人、本人たちが気づいてないだけで、両想いとまでは行かなくとも、それっぽい感情はあるように見えたんだけど」「あー、行動も行動だしなぁ」的なことを夏樹と話しながら歩いていたら、桜峰さんたちに捕まった。

 そう、桜峰さん『たち』である。

 ここまでの流れから推測できるかもしれないが、現時点での彼女の隣にいるのは、鳴宮君と鷺坂君という書記・庶務ペアである。

 何故、こうなった?


   ☆★☆   


「ご注文は?」


 場所は移動して、鳴宮君のクラスである。

 なお、現在のメンバーは、私と桜峰さん、夏樹に鳴宮君に鷺坂君の五人。

 つか、鷺坂君よ。君、二度目だよな? 今更気づく私も私だが。


「アイスコーヒーで」

「俺もアイスコーヒー」

「カフェオレ。ミルク少なめで」

「ココアかな」


 まあ、そんなこんなで注文を言う。

 ちなみに、私たちのテーブル担当は鳴宮君である。

 お客として来たはずなのに、彼が何故接客しているのかといえば、当番の人がまだ来て居らず、来るまでの穴埋めだとか。


「未夜先輩の所でも思ったけど、飛鳥って、苦いものが好きなの?」

「どっちでもないよ。それに、あれで苦いって事は、咲希が子供なだけでしょ」

「ひどーい」


 そう言いながら、頬を膨らませる桜峰さん。


「酷くない。というか、抹茶(味系)かコーヒーのどっちかには慣れろ」


 まあ、食べれない・飲めないと子供というわけではないけど、苦いもの系に関しては、どうしても大人は食べれる・飲める的なイメージというのがあるからね。少なくとも、小さい頃はそうだったし。

 そんな桜峰さんの膨らんだ頬を突っつき、潰れたところをびよーんと伸ばして遊んでいれば、鳴宮君が注文したものを持ってくる。


「お待たせ……って、何してるの」

「いや、何も?」


 注文したものが来たから、桜峰さんで遊ぶのは()める。


「飛鳥先輩が咲希先輩で遊んでたんだよ」


 そして、あっさりバラす後輩。

 一瞬、空気がピリッとしたけど、誰も何も言わないし、桜峰さんも気づいてないみたいだから、聞かれない限り、私からは何も言わない。

 ……あれ、そういえば、鷺坂君からは初めて名前を呼ばれた?

 覚えていてくれたことにもびっくり……というか、うん。覚えていてくれたことに関しては、聞いてたから知っているけど、この前は「親友さん」なんて呼ばれ方してたからなぁ。うーん。


「……そうなんだ」


 接客担当だからか、あっさり表情を切り替える鳴宮君だけど、一瞬、何か言いたそうな表情を向けてきた気がする。


「そういえば、食べ物系は頼んでなかったけど良かったの?」

「うん。本当は食べたかったけど、さすがに食べ過ぎは良くないからね」


 尋ねる鳴宮君に、残念そうに返す桜峰さん。


「もー、郁斗先輩。集客数や売り上げを稼ぎたいからって、押しつけるのは駄目だよー」

「うっさい。それに今のは確認だ。確認」


 何やら言い合いに発展しかねないので、無視して頼んだものに口を付ける。


「……」


 うん、美味しい。


「ねぇ、飛鳥」

「ん?」

「もしかして、髪伸びた?」


 切ったりはしてないから、多少、伸びてはいると思うんだけど……


「咲希、よく気づいたね」


 よく見てない限り、普通は気づかないぞ。


「え? あっ……!?」


 はっとしたように口を塞ぐ桜峰さん。

 うん、私に気づかれないように何かしてたんだね。

 それも、よく見てるとかのレベルじゃなくて。


「……ストーキングはしてないよね?」

「し、してないよ!」


 まさか、と思って聞いてみれば、桜峰さんが慌てたように否定してくる。

 そりゃあ、公衆の面前だし、直接は言わないだろうけどさ。

 けれど、もし、隠れてしてたら……正直、引くぞ。いろんな意味で。


「ま、冬も近いから、多分、このままかな」

「そっか」


 そう頷くと、桜峰さんは頼んだ飲み物に口を付けた。


「……鳴宮、追加注文。いいか?」

「別に構わないが……何だ?」


 しばらくは会話が無かったのだが、夏樹が鳴宮君にそう切り出した。


「ミックスサンド。二つな」

「分かった」


 頷いて、注文したものを取りに行く鳴宮君を一瞥し、夏樹に尋ねる。


「どうして、サンドイッチ?」

「消去法だ。今は腹に溜まるものは食べたくないし、甘いものも気分的に違うから、除外しただけだ」

「ふーん」


 夏樹は甘いものは好きでも嫌いでもないからなぁ。


「……なーんかさぁ」


 今度は鷺坂君が話し出した。


「これって、ダブルデートみたいですよねぇ」

「えっ!?」

「……」

「……」


 素直に驚く桜峰さんには悪いが、飲んでる最中に噴き出さなかった私たちを褒めてほしい(とはいえ、夏樹は無理に耐えたのか、器官に入ったらしく、()せていたが)。


「だ、ダブルデートって……じょ、冗談だよね?」

「さぁ、どうなんでしょう?」

「どうなんでしょう、って……」


 うう、と頬を赤らめる桜峰さんに対し、にこにこと笑みを浮かべる鷺坂君。

 これを狙ってやっているのなら、(たち)が悪い。

 そこで、鳴宮君が夏樹の頼んだサンドイッチを持ってくる。


「お待たせしました。ミックスサンドです。……また、何かあった?」

「まあ、ちょっとね」


 この場が修羅場になるのは、誰も望まないし。


「……お前ら、食うか?」


 夏樹が私たちの方へと、ミックスサンドの乗った皿を差し出してくる。


「最初から、そのつもりだったくせに」


 そう言いつつ、遠慮なく私はサンドイッチを手に取る。

 うん、美味しい。


「……ん?」


 携帯のバイブが鳴ったので、とりあえず先に相手だけ確認する。

 肝心の相手は、といえばーー


『神崎先輩(神様)』


 となっていたので、後回しである。


「出なくて良かったの?」

「大丈夫。メールだったし」


 嘘は言ってない。

 それに、夏樹に届いた様子が無いって事は、今回は私から見せろってことなんだろう。

 纏めて送信すればいいものを、いちいち面倒くさい方法で連絡してくるなぁ。あの人。


「なら、いいんだけど」


 桜峰さんも、メールなら、と特に気にしないらしい。


「けど、急ぎの用件じゃなきゃ、良いですけどね」


 この、後輩は……っ! 桜峰さんと二人っきりじゃないからって、僻みやがって。


「心配してくれなくても、大した用件じゃないと思うから、中身を見るのは後でも問題ないよ」


 嘘。神崎先輩からってことは、私たちに関することだから、周囲に誰も居なければ確認してます。


「別に心配はしていませんよ? 大変なのは、先輩の方だろうと思っただけですし」

「別に、そんなに大変じゃないと思うけどね」


 すでに火花が散り始めているとか、そんなの無視だ。


「どうしてそう、ひねくれた解釈しか出来ないんですか?」

「私自身はひねくれてはないと思うんだけど……あれ? 私って、君とそんなに親しくした覚えはないんだけど、気のせいかな?」


 嫌味には嫌味で返すのだが……鷺坂君との接触は数えられるほどのはずだ。

 仮に、私を利用して、桜峰さんにアピールするという理由だとしても。


「お前らなぁ……」


 夏樹が片手で頭を抱えながら、溜め息を吐く。


「二人とも、どちらかといえば口が悪いんだから、もう少し気をつけて……」

「へぇ……」

「ふーん……」


 口が悪いと思ってたんだ。

 仮にそれを認めたとしても、後輩庶務と同じっていうのが何か嫌だ。


「え、何」

「桜峰。何となくで察しろ。あとそれ、普通なら悪口な。つか、本人の前で『口が悪い』なんて言うもんでもないぞ」


 うん、『察しろ』の所は同意するけど、夏樹も夏樹で本人を前に『口が悪い』って言ってるじゃん。


「いや、そんなつもりは……」

「桜峰には無くても、飛鳥たちが悪口だと受け取ったら悪口になるんだよ。ある意味、偏見だろうがな」

「……ううん。御子柴君の言う通りだよ」


 しゅん、と落ち込む桜峰さん。

 ……って、あれ? 二人って、互いに名字で呼び合っていたっけ?


「ごめんね、二人とも。気を悪くしていたら、本当にごめん」

「いいよ。気にしないで」

「というか、咲希先輩は(いじ)りやすいんだよ。すぐに表情(かお)に出るし、反応もしてくれるし」


 「だから、飛鳥先輩にも弄られるんだよ」と鷺坂君が言う。

 何故、彼は一言多いのだろうか。


「うぅ、私もポーカーフェイスになるべきかなぁ……」

()めなさい。あと、そうやって気にせずに受け流してみせなさいよ」


 そう返しつつ、最後の一口を飲みきる。

 多分、桜峰さんはポーカーフェイス以前に、ポーカー自体向かないと思う。

 何となくだが、彼女は良いカードや組み合わせが来たら喜び、嫌なカードや組み合わせが来たら眉間に皺を作りそうだからだ。

 まあ、何というか、分かりやすい。雰囲気からして、そうなのだが。


「それじゃ、私はもう行くから」

「え? この後も一緒じゃないの?」

「別に一緒でもいいけど、待ってる人たち見たら、食べ終わったのに出ないわけに行かないじゃん」

「そっか。そうだよね」


 うん、と小さく頷く桜峰さんを見ていれば、視線を感じたのでそちらに目を向ける。


「……何」

「いや、何も?」


 視線の主は夏樹だったけど、目が「この、お人好し」と語っていた。

 それにしてもーー





 桜峰さんは天才でも馬鹿でもないはずだが、何故、彼女の言葉の端々から頭の回転の鈍さ(馬鹿っぽさ)を感じてしまったのだろうか?




以前、飛鳥の成績は良い方だと言いましたが、咲希の成績も良い方です。



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