水森飛鳥と波乱の学園祭Ⅶ(そして、四人は協力者となる)
「結局、あの後どんな行動をしても、私たちはあちらへ戻ることは出来なかった」
あの後、魚住先輩の感情は桜峰さんに向くことはなく、ずっとそのままで、雛宮先輩も魚住先輩とどうするのか作戦会議もしたらしい。
「向こうで自分たちがどうなっているのかすら、分からない状況だったからな。なるべく早く終わらせたかったんだ」
だが、それも虚しく、ループは繰り返されることとなったらしい。
「けどね」
先輩たちが私たちを見る。
「今度は貴女たち二人が来た」
「どういう仕組みかは知らないが、君たちが来たことは、神崎からの連絡で知った」
「そして、部外者が入っても怪しまれない日について考えていたら、文化祭があるっていうから、文化祭開催日を実行する日に決めて、どうやって接触するべきか計画してたんだけど……」
「そしたら、あいつが「だったら連絡云々も含めて任せて」って、言ってきてな」
「それで、あの連絡になるのか」
夏樹が携帯を見ながら言う。
「でも、空き教室があって良かったよ。桜咲の文化部の出し物って、所属してる人が多いと二部屋使うことなんて、あるぐらいだし」
「まあ、今でも余裕で余ってますけどね」
まあ、学園の空き教室の話は置いておくとして、だ。
「とにもかくにも、だ。やり直しは利くといえば利くが、実質、チャンスは一回だ」
「失敗すれば、貴女たちも私たちのように、この世界に閉じ込められることになる」
自分たちという前例がある以上、先輩方の言葉には説得力がある。
「大丈夫です。私たちも、閉じ込められるのだけはお断りなので」
私の場合、両親が共働きだから、ハルを一人にはしたくない。
しかも、今の状態は、以前のように事故に遭ってこちらに来ているのではなく、生身で来ているため、この世界に閉じ込められれば、行方不明者扱いになるに決まってる。
それに、あちらの友人たちと会えなくなるのも嫌だ。
「それもそうよね。あ、そうだ」
雛宮先輩が携帯(というかスマホ)を出して言う。
「相談したい時や何かあったりした時のためにも、番号とメルアドを交換しておこうか」
「そうだな」
雛宮先輩に魚住先輩が同意する。
そして、交換を終えれば、魚住先輩が夏樹を教室の隅に引っ張っていったのだが、それを見ていた私も雛宮先輩に教室の隅にまで引っ張っていかれた。
「あの、先輩……?」
戸惑いながら声を掛ければ、雛宮先輩は真面目な顔をして、告げてきた。
「これから先、おそらく貴女は一人にさせられる。だからもし、御子柴君が彼女に甘い言葉を掛けるようになっただけなら、まだマシな方だと思っておきなさい。私はあの時、獅子堂君よりも気にしていたのは魚住君ぐらいだったけど、話から察するに、貴女は攻略対象組とも仲良くしちゃってることから、いろんな意味で私たちよりも酷い目に遭うだろうし」
「酷い目、ですか」
少し突っ込みたいところもあったけど、今は大人しく聞いておく。
それに、先輩の言う『酷い目』というのがどれくらい酷いのかは分からないが、もし耐えられるなら耐えられるところまで耐えてみようと思う。
「それに、“悪役令嬢”という位置にいながらも、私は『断罪』はされなかったかったけど、貴女が代わりに立たされる可能性もあるから気をつけて」
立つ、ではなく立たされる。
「まあ、結果がどちらに転ぶとしても、神崎君たちがいろんな加護を付けてまで貴女たちを信じて任せたなら、私たちは貴女たちに賭けるし、出来る範囲で全力でサポートしてあげる」
「……」
ああ、この人たちはこの世界に閉じ込められ続けても、諦めてないんだ。
いつか絶対に、あちらへ戻るって。
「そんなこと言われたら、ますます負けられないじゃないですか」
「それなら勝ってみせてよ。私たちの希望なんだから」
私たちの相手は桜峰さんたちじゃない。この状況を作り出した女神だ。
「任せてください。絶対に勝ってみせますから。雛宮先輩」
絶対に、この世界の時間を進めてみせる。
私たちだけではなく、この世界の人たちのためにもーー




