水森飛鳥と学園祭準備期間Ⅱ(クラスの出し物について)
学園祭。
それは、学校行事の一つである。
「そういえば、聞き忘れてたけど、水森さんの所は何するの?」
いつも通り、屋上に居れば(今回は先客がいないか確認した)、これまたいつも通りに私の後にやってきた鳴宮君がそう尋ねてくる。
「オリジナルの劇。姫と王子が主役のね」
まあ、鳴宮君たちが見ていたのはピアノでのBGM作成の所だったから、そこから私たちの出し物が劇だと推測するのは難しいのかもしれない。
……いや、桜峰さんが言ってたら、分からないけど。
「内容、言っちゃって良かったの?」
「私が言ったのは、主役が姫と王子のオリジナル劇という部分だけだし、最終的にどんなオチになるかなんて、話してないから問題ないでしょ」
確かに、と鳴宮君が返してくる。
「俺の所は喫茶店やるんだ。良かったら来てね」
「うん。時間が空いてたらね」
全ては発表時間次第だけど、それ以前に桜峰さんから「郁斗君のところに行こう」とか言われそうだ。
「俺も劇、見に行くから」
「うん。前にも言ったけど、私は裏方だから」
桜峰さん目的だとしても、これだけは先に言っておく。
まあ、ピアノでBGMの一部を作ってた時点で分かってるとは思うけど。
「あー、そういえばそうだったね」
苦笑する鳴宮君に対し、私は耳を澄ます。
『もー、どこに行ったんだろう……』
『あ、咲希先輩』
『蓮君』
どうやら、誰かを捜してるときに後輩庶務……鷺坂君と会ったらしい。
『ねぇ、飛鳥を見なかった?』
ん? 私?
『飛鳥って……ああ、咲希先輩の親友さん』
『そうそう』
そうそう、じゃないけどね。
『委員長に、捜してくるように頼まれたんだよね』
『そうなんだ』
委員長が捜してたって、まさかBGMのやり直し?
『携帯は? この前、交換してましたよね?』
『それが、電源切ってるのか、中々通じなくて……』
あー、連絡してくれてたのか。全然気づかなかった。
ちなみに、気づかずに出なかったのは、電源を切ってるんじゃなくて、マナーモード(中でも音もバイブも出ない奴)にしていたからだし。
「鳴宮君」
「ん?」
「私は戻るけど、どうする?」
「んー、もう少しここに居ようかな」
それを聞いて、そっかと返せば、屋上から出て、鷺坂君に一言言って、彼と一緒にいた桜峰さんを捕まえると教室に戻る。
「ごめん、委員長。捜させたみたいで」
「ああ、気にしないで。それよりも、どこでどの音や曲を流すか決めるから」
こっちのも良いけど、こっちのも良いんだよねぇ~、と委員長は言う。
それに苦笑していれば、
「そろそろ練習を再開するぞー」
と夏樹を含む数名が、主に舞台に立つクラスメイトたちに声を掛けていた。
「おーい、発表順決まったぞ」
そこにタイミング良くやってきたのは、発表順を決めるためのくじ引きに行っていたらしい、クラスメイトの男子だった。
「それでいつ?」
「二日目の午前ラスト」
「うわぁ……」
この学園の学園祭(文化祭)では、劇など体育館で発表する際、一日目なら午前の部(といっても十時三十分から)と午後の部、二日目なら午前の部と午後の部(十三時三十分まで)が決められている。
そんな中で、うちのクラスの発表枠は、午前の部のラストーーつまり、十一時三十分からの約一時間。何という、微妙な時間なのだろう。
「切りがいい、と言えばいいのか?」
「じゃないかなぁ」
いつの間にか隣にいた夏樹に言われ、私も微妙な返事をしてしまう。
しかも、二日目ってことは、一般入場が解禁されるから、おそらく一日目の来客数よりも見に来る人たちは多いはず。
そして、知識が正しければーー
「おそらく、あの面々が来る」
そう、あの面々ーー攻略対象者の関係者にして、最後のルート分岐にも関わってくる、隠しキャラたち。
「俺たちの前の人たちも来るのかね」
「それは……どうだろう」
夏樹の言う『前の人たち』というのは、私たちの前にこの世界へ来た、悪役令嬢と隠しキャラの担当になった人たちのことだろう。
もう、このことに関わりたくないと思っているのなら、現実逃避の一つとして、学校祭には来ないはずだ。桜峰さんたちを見れば、いやでもループとかを思い出してしまうんだろうし。
「そのことは、先輩に聞いた方が早いかも」
神崎先輩は失敗したとは言っていたが、その二人が最終的にどうなったのかは言っていなかったと思うし。
ーーもし、この世界にいるのなら、一度話を聞いてみたい。
二人が見てきたであろう、状況やこの世界についてを。