水森飛鳥たちと説明会Ⅲ(雛宮未季・魚住新の話)
「記憶の、介入……?」
どこかぎょっとした様子でそう口にした彼は、こちらを見つめる。
「はい。御子柴さんたちが試したであろういくつかの方法を当然私たちも行いましたが、そっくりそのまま行えば、御子柴さんたちと同じ結末になりかねません」
そっくりそのまま同じことして失敗してしまえば、彼女たちの二の舞である。
「なので、同じことをしながらも、女神が喜びそうな展開に持っていける『役割』として、この世界に来ました」
「……役割とは?」
「『貴方の婚約者』という役割だよ、獅子堂要君」
何となく、私の話し始めから想像できていたはずだ。
「は……」
「いくら御子柴さんたちが居たとはいえ、彼女の明確な『ライバル』と言える存在は居なかったからね。だから、君の恋路を邪魔するライバル枠として、私はこの世界で存在することになった」
――幼い頃に決められた、『婚約者』として。
「ちょ、ちょっと待ってください。それはつまり、要には最初から婚約者はいなかったということですか?」
「さっきからそう言っているでしょ。私と獅子堂君の関係は、私たちが動きやすくするための『役割』として必要なものだったけど、妨害するはずの女神がマンネリ化を避けたかったのかどうかは分からないけど、私たちの『役割』を受け入れた」
その結果、獅子堂要の記憶の中に、『雛宮未季という幼い時からの婚約者』が出来上がったわけだ。
「けれど、その時の貴方は私という『障害』がありながらも、彼女への恋を貫いた」
「……」
「貴方が覚えているのかどうかは分かりませんが、私は婚約者となる度に言いました。『貴方は将来、私以外の方と出逢い、その人に恋をすることとなるでしょう』と」
同じことを会うたびに言っているから、もう覚えてしまった。
「どうです? 私の言った通りになったでしょ?」
この周回でも、彼は彼女に好意を抱いた。
私という障害要素が無かったから、近付きやすかったというのもあるんだろうけど。
「……だが、お前もお前だろうが。そいつとずっと一緒だっただろうが」
どうやら、返答できる余裕は出てきたらしい。
「当たり前でしょ。唯一の味方だったんだから」
思わず素で返してしまった。
ここはもう開き直って、素で行こう。
「とはいえ、魚住君が来てからも、あまり変わらなかったけどね」
魚住君と居たときも、今みたいに不機嫌そうにされたけど、どちらかと言えば、彼が彼女の方に行ってしまったことの方が焦りは大きかったから、今までと同じような対応されたところで「そうなんだ」としか言いようがない。
だって、どこかの世界線では、彼と彼女が結ばれるルートがあってもいいとすら思っているんだから。
「けど、あくまでも俺や雛宮に与えられたのは、『役割』だけだ。その時の感情とかは、間違いなくお前が抱いたものだからな?」
それはそうなんだけど、何でそんなことを言っちゃうかな。
「さすがに分かってて、無視してやるのは可哀想だからな」
可哀想って言っちゃったよ。
「で。結局、私たちも失敗して、飛鳥ちゃんたちに託すことになったんだよね」
そして、ちゃんとクリアしてくれた後輩たちに目を向ければ、当の功労者はペットボトルのお茶に口を付けていた。
「……私たちのやったことに関しては、記憶も消えてないんだし、何があったのかなんて分かっていると思うので、話さなくてもいいのでは?」
「でも、話してないこともあるでしょ?」
「全部が全部、話す必要はないし、知らない方がいいこともあると思うんですが」
全部その通りだから、上手く崩せない。
「でも、話しておかないことは話しておかないと」
「……」
「飛鳥ちゃんたちの気持ちは分かるし、気を遣ってくれてるのは嬉しいけど、ね?」
御子柴さんの後押しもあってか、溜め息交じりながらも「分かりました」と飛鳥ちゃんが告げる。
「でも、私たちが話すのは、少し休憩してからですよ」
「そうだね。彼らにも情報整理する時間はいるだろうし」
そうして、それぞれに休憩時間が与えられたのだった。