水森飛鳥とイレギュラーズは拠点にて
桜峰さんたちへの説明をするべく、神崎先輩による『あちらへの帰還』を先送りにしたのだが、時刻が放課後ということもあり、説明会は明日行われることになった。
まあ、それはそれでいいのだが、ここで一つ問題が生じた。雪冬さんたちをどうするのか、である。
基本的にこの場に集まるまでは、あの薄暗い場所で生活していた雪冬さんだが、騒動が収まったからには、その必要もなく。
さらに、鷹藤君も(雪冬さんを気づかってもあるのだろうが)あの場所で生活していたと言うのだから驚きである。もっと早く言ってくれればとも思わなくはないが、そもそもその事を知らなかった上に、彼がどちら側の人間なのか分からなかったのだから、声の掛けようもなかった。
「じゃあ、うちを使ってください」
こちらでの仮拠点として、神崎先輩が用意してくれた家。
私と夏樹なんて、通過ポイント的な感じでしか使ってなかったから、雪冬さんたちに使ってもらえるのなら、その方が家にとっても良いはずだ。
「いいの?」
「別に部屋数が足りないわけでもないですし、足りないなら足りないで、私たちは元の世界にある自分たちの部屋を使えばいいだけなので」
つまり、私たちは普段通りなので、雪冬さんたちにこの家にある部屋は好きに使ってもらって構わないのである。
「――で」
先程から黙りっぱなしの男性陣に目を向ける。
私たちのやり取りを聞いているであろう鷹藤君はともかく、我が幼馴染殿は実姉である雪冬さんに目を向けようとすらしない。
まあ、私たちも何も言ってなかった上に、心の準備とかする間もなく会わせたようなものだから、責められても仕方がないんだけども。
「……」
「……」
空気が重い。
夏樹は夏樹で気まずそうだし、雪冬さんは雪冬さんで夏樹が話し出すのを待ってるから、無言がこの場を占め続けるわけで。
「鷹藤君、ちょっといい?」
「ん? ああ……」
とりあえず、御子柴姉弟だけにするべく、鷹藤君に声を掛ける。
「何だ?」
「いや、別にこれと言った用事はないんだけど、あの空間から離れたくて」
「ああ……」
さすがに、あの空間に一人残すのは可哀想だったので誘ったのだが、反応的には正解だったらしい。
「一応、先に部屋の位置とか教えておくから、後で雪冬さんと共有しておいてもらえると助かるかな」
「分かった」
風呂場やトイレ、それぞれの部屋と物置など、位置を教えていく。
「部屋数が四つなのって、俺たちのことも想定して、か?」
「じゃないかなぁ」
細かいことは神崎先輩たちに聞かないと分からないが、もしそうなのであれば、こうなることを見越していたのかもしれない。
「それにしても……同じ家、か」
あ、忘れてたことがまだあった。
「学校で、一緒に寝泊まりしてたんじゃないの?」
「学校の方はまだ広さとか、逃げ道はあったが……」
どうやら、同じ屋根の下でも、家と学校では違うらしい。
「まあ、頑張りなよ」
いろんな意味で。
「……水森は」
「ん?」
「郁斗のこと、どうするんだ」
「どうとは……」
いや、言いたいことは分かるけども。
「このまま終わりにするつもりか?」
「何か、自力で思い出されちゃったからね。話すことは話すよ」
「……」
「でもまあ、明日の説明会が終わり次第かな。その後に時間があれば、ね」
女神の記憶操作すらも一部とはいえ解いてきたのだから、そろそろこちらも逃げてばかりはいられない。
私があんな対応していた理由も、何となく察せられそうな気もしなくはないけど、彼の気持ちを無視するのとはまた違うだろうから。
「とにかく、話す気があるのならいい」
「正直、ネタばらししたなら話せるんだよ。隠したままだと、鳴宮君のことだから見破ってきそうだし」
「……そうだな」
少し間があったことから、鷹藤君にも、きっと心当たりがあるんだろう。
「さて、戻りますか」
「ああ」
少しは話し合ってるといいけど。
――とまあ、そう思っていた瞬間がありました。
「……」
「……」
空気が良くなってるどころか、さらに重くなってるように感じるのは気のせいか。
「あ、二人ともお帰り」
「……あ、はい」
しかも、雪冬さんが普通にこっちに声を掛けてくるのだから、何とも言えない。
まあ、とりあえず。
「そっちは任せるよ」
隣の彼に聞こえるようにそう告げれば、これだけで通じたのか、「ああ……」と自信なさげに返された。
けど、安心しろ。おそらく夏樹の方が厄介だろうから。