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水森飛鳥と最後のイベントⅢ(防御の担い手)


 さて、雪冬(ゆきと)さんたちに格好つけたわけだが、厳しいというのが正直な感想ではある。

 もしこの場に不在の夏樹(なつき)雛宮(ひなみや)先輩たちが来たとしても、結局アタッカーとしての役割を担わないといけないのは私だから、不利なことには変わりない。

 それに、女神の攻撃をまともに防げているのも私ぐらいだから、下手に避ければ被害拡大は免れないし、さすがに、この人数を雪冬さん一人でカバーするのは無理だ。


(しかも、女神を引きずり出すまで、背後はがら空きになるから、それをどうするのかも考えないと)


「さっきまでの威勢はどうしたの?」


 形勢が有利になったからなのか、女神が挑発的に告げてくる。


「……別に改めて状況把握してただけだけど、少しでも優勢になった途端にそれか」


 そうは返すが、状況は変わらない。


「何て言われようと、私が有利なことには変わりないでしょ?」


 そう言いつつ、「これはどう?」とばかりに、風の刃だけではなく、女神の周りに水球が浮かび始める。

 さらに、火の玉や雷の球まで浮かび始めている。

 風以外は明らかに神原(かんばら)さんのものでない能力なので、女神自身が神の力として使っているのだろう。

 けどまあ、はっきりしていることは一つあって――


「さすがに、この数は無理」


 いくらなんでも、捌ききれない。

 どれだけ、リーディルラインが優秀だとしても、存在する世界が違う以上、その能力を最大限に引き出せるかどうかを問われれば疑問だし、無理な部分はどうしても出てくるわけで。


「ああもう……!」


 頭を抱えたくなるような状況に文句を言いながらも防壁を展開しようとすれば――


「うわ、思った以上に厄介なことになってるんだけど」

「とりあえず今は口じゃなくて、手を動かそうか」


 両サイドと少し離れた場所から、聞き慣れた声が聞こえてきた。


「雛宮!? 何でお前が――」

「はいはい、事情説明は後でねー」


 というのも、私の両サイドには星王(せいおう)の制服のままの神崎(かんざき)先輩たちが、桜峰(さくらみね)さんたちには雛宮先輩たちの姿があった。

 でも、疑問が浮かぶ。一体誰が――と思って、ちらりと桜峰さんたちの方を見て、理解した。


 ――ああ、そうか。


 夏樹が呼んできたのか。

 学校から雛宮家まではそれなりに掛かるだろうから、今いることを考えると、おそらく移動系の能力だったんだろう。


「全く……来れるなら、早く来てくださいよ。死ぬかと思いましたよ」

「ごめんね、こっちもやることあったから」


 意識を先輩たちに向けつつ、そんな会話をする。

 とりあえず、来てくれただけでもありがたいというもの。


「でも、私たちが来たお陰で使える手は増えたんじゃない?」

「……ええ、本当に助かりました。これで防御面を心配する必要は無くなりましたからね」


 これで、私は女神一人に集中できるが、どうやら女神の方はそうではないらしい。


新垣(にいがき)ぃぃ……」

「あ、そっちの名前(・・・・・・)で呼んでくれるんだ」


 どうやら、神崎先輩以上に恨まれているらしい新垣先輩は、女神に憎しみの目を向けられても特に気にした様子もないかのように、けろっとしている。


「でも、それとこれとは関係ない。貴女がやり過ぎたから、こっちも手を打ったまでなんだし」


 あくまでも、それ以上のことは言うつもりないらしい。


「それに貴女だって、逆の立場でもそうしたでしょ。文句言われる筋合いはないから」

「……新垣。ややこしくなるから、一旦こっちの事情は置いておこう」


 やっぱり、神様側(あちら)神様側(あちら)で何かがあったらしい。


「それで、私たちはどう動いた方がいい?」

「……私が決めてもいいんですか?」


 てっきり、自由に動くと思っていたから、聞かれるのは予想外だった。


「少なくとも、この状況を打開するのは貴女でしょ? なら、貴女が動きやすいようにしなきゃ」


 ……何でこの人、今になってこんなことを言ってくるんだ。

 新垣先輩なら、最初から口を出すなり、最後まで口出ししないとか出来たはずなのに。


「それで、して欲しいことは?」

「この場にいる全員の防御をお願いします。それだけで十分です」


 あとは、私が後ろを気にせずにやるべきことを全うするだけ。


「防御だけで十分……? 私も舐められたものね!」


 飛び交う魔法の中でも、私の声は聞こえていたらしく、女神が声を荒らげる。


「怒らせたみたいだけど?」

「問題ありません」


 外側から軽く触れ、目的のもの(・・・・・)がポケットの中にあることを確認した後、全身に身体強化と精神強化、その他にもいろいろと掛けていく。

 リーディルラインから離れるのだ。これぐらいしないと万が一のことがあっても耐えられなくなる。


「五秒だけ道を作ってあげられるけど、行けそう?」

「問題なく」


 悪いがこっちは足の速さは早い方だと言われたからね。この距離であれば、付与が有ろうと無かろうと問題なく届く。


「じゃあ、タイミングはそっちでちゃんと見極めてね」


 おそらく私が走り始めたら、道を維持するつもりなのだろう。

 クラウチングスタートの体勢になりながら、見極める。

 タイミングをミスったら、終わりのつもりじゃないと。


「……」


 大丈夫。今までだって、こういう瞬間はあった。

 だから――





 ――走り出した。


 リーディルラインから手を離し、すべての責任を引き受ける覚悟で。


 女神と、宿主となってしまった『神原(かんばら)愛華(あいか)』を引き離すための、唯一の方法。


「な――」

「こうさせたのは、そっちなんだから」


 彼女の額に左手を当て、一つの術式を発動させる。


「“精神干渉術式”――展開」



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