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御子柴夏樹は助力と協力を求める(雛宮家にて)


 俺は走っていた。


「何でっ……!」


 ただ、ひたすらに足を動かした。


「っ、はぁっ……はぁっ……」


 走るよりも異能を使った方が早いと気づいてからは、目的地まではひとっ飛びだった。


 桜峰(さくらみね)が捕まり、彼女を助けるために駆けつけてみれば、それを企んだ首謀者の本来の目的は飛鳥(あすか)だという。

 飛鳥と対峙するためだけに、俺たちに邪魔させないよう桜峰を囮にして、まとめて一ヶ所に固めようとしたらしい。

 そんな罠にまんまと引っ掛かったわけだが――


「あのっ、すみません!」


 とりあえず、時間が無いということもあって内心焦っていれば、運良く中から人が出てきたので、慌てて声を掛ける。

 目的地だったこの家の表札は、何度も確認したから間違ってはいない。


「俺、御子柴(みこしば)夏樹(なつき)って言います。それで、あの、未季(みき)……先輩はいらっしゃいますでしょうか」

「未季さんですか?」

「早急に伝えたいことがあって……」


 出てきた人との関係性は分からないが、その人は雛宮(ひなみや)先輩がいるであろう方向に目を向けた後、とりあえずといったような形で応接間のような所へ案内された。


「少々こちらでお待ちください」

「あ、はい」


 正直、待ち時間すら惜しいが、仕方がない。

 早く伝えたいことがあるなら、スマホとかで伝えれば良かったんだろうが、さっきは慌てていたこともあって、頭からすっかり抜け落ちていた。


「……」


 こうして待つこと数分後。

 ドアが数回ノックされたので、入室を促す。雛宮家だけど。


「ごめんなさい。待たせたわね」


 そう言って現れた雛宮先輩は、以前、学園祭や、修学旅行のお土産を持っていったときに見たときとは違う雰囲気の服を着ていた。

 その後ろから、偶然来ていたのか居合わせたのかは分からないが、魚住(うおずみ)先輩も姿を見せた。


「それで、どうしたの?」

「飛鳥がっ……!」


 用件を切り出そうとするが、あいつの名前を出した途端に、何も言えなくなってしまった。

 だって、何て説明すればいい。あれだけ気を付けろって言われたのに。


「……飛鳥が、俺たちを囮にした女神と一対一(サシ)で戦ってます」


 だから――


「あいつを助けるために、手を貸してもらえませんか?」


 何とか告げれば、二人は顔を見合わせ、溜め息を吐いた。


「御子柴。俺さ、前に言ったよな?」

「はい……」


 確かに、文化祭の時に言われた。


『俺と同じ過ちはするな。もしすれば――水森(みずもり)が悲しむぞ』


 それは有り得なさそうで、少しでも可能性のある未来……だったはずだ。


「まあ、お前が一緒にいなかった時点で、こうなる可能性はあったわけだが」


 自分の影響下で、かつ味方に引き入れた人間を狙う意味など無い。


「それにしても、飛鳥ちゃんは君に何も言わなかったんだねぇ」

「えっ?」

「だって、そうでしょ? 君がまだ『普通』であったのなら、飛鳥ちゃんは君に伝えてるはずだよね。なのに、それが無いってことは、もうそれだけ頼りなく見えたってわけだ」

「雛宮」


 そこまで言われてしまうと、何も返せなくなる。

 それと同時に、言いすぎだとばかりに魚住先輩が注意しようとするが、雛宮先輩は止まらなかった。


「まあ、基本的に側にいたのが私たちよりも君の方だから、精神的支柱にでもなっていたんじゃない? それが、君が籠絡させられたことで、いろいろと外れ、今に至ったんじゃないかな」


 まあ、他にも理由はあるんでしょうけど、と雛宮先輩たちは言うけど、俺にも思い当たるのはいくつかある。おそらく、その一つが――


「……?」


 今一瞬、ちくりとした痛みと黒い何かを感じたが、気のせいだったらしい。


「どうしたの?」

「いえ。ただ、思い当たる(ふし)に、痛みともやっとしただけです」


 そう言えば、互いに顔を見合った後に、雛宮先輩は頭を抱え、魚住先輩は溜め息を吐いた。


「あの子もあの子だけど、君も気付いてないの?」

「つか普通、逆じゃねぇの? こういう場合って、水森が鈍感要素持つパターンなのに、何故御子柴に持たせた」


 雛宮先輩から呆れた目を向けられつつ、魚住先輩がほぼ全部言ってくれたから、言いたいことは何となく察することは出来た。


「言っとくけど、飛鳥ちゃんは君のことを、好きとも嫌いとも言ってなかったからね?」


 雰囲気からも好きと捉えられるような素振りは無かった、と判断に困るようなことも教えられる。


「ま、攻略対象(獅子堂君)たちと仲良くしてる飛鳥ちゃんだからねぇ。そっちの可能性もあるかもよ?」

「お前は御子柴を(あお)るな」


 どこか面白がっているかのようにも取れる雛宮先輩からの指摘に、魚住先輩がそう告げる。

 どうやら雛宮先輩は冗談のつもりだったらしいが、俺には冗談に聞こえなかった。


「さてと」


 雛宮先輩が立ち上がる。


「飛鳥ちゃんを助けたいんでしょ?」

「っ、はいっ!」


 そうだ。俺は、飛鳥を助けるために、雛宮先輩たちにも力を借りに来たんだ。


「場所は……まあ、学校だよね」


 そこ以外に共通点はない。


「細かく言えば、屋上かもしれません」


 飛鳥は誰が居ようが居なかろうが、基本的には屋上にいることが多かった。


「問題はどうやって、屋上まで行くのかよね。今は私たち二人とも部外者だし」

「それなら問題ありません。俺の異能で転移しますから」

「異能、分かったんだ」

「はい」


 異能が分かってからは、移動範囲の確認とか他人との転移とか使い慣れるための練習をしたから、それなりに把握はしているし。

 まあ、飛鳥は俺の異能が『転移』だとは知らないんだろうけど。


「それじゃ、直接向かいましょうか。飛鳥ちゃんが心配だし」


 それに頷き、雛宮家を出た俺たちは、転移で学校の屋上に向かった。



というわけで、夏樹の異能は『転移』でした。

ちなみに、行ったことのある場所のみという条件付きです。

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