鷹藤晃と桜峰咲希たちは対峙するⅠ(目的Ⅰ)
『咲希の居場所が分かりました。目撃者がいまして、連れていかれる形で誰かとともに旧校舎へ向かうのを見ていたそうです』
桜峰がいなくなり、水森に協力を頼めば、あっさりと手懸かりが得られた――が。
「旧校舎か。よし、行くぞ」
「ちょっと待ってください。まさか本当に旧校舎に向かうつもりですか?」
水森からの情報に、旧校舎へ直行しようとしていた獅子堂先輩を東間先輩が止める。
「何だ。まさか、情報が嘘とでも言いたいのか?」
「ええ、その通りです」
獅子堂先輩の言葉ををあっさりと肯定した東間先輩に、みんなが驚きを見せる。
「え、でも飛鳥先輩が嘘つく理由なんて……」
「誰も水森さんが、なんて言ってないでしょう」
情報もとが水森であるからか、鷺坂が声を上げるが、東間先輩は否定する。
「……目撃者、ですか」
「そうです。水森さんのことですから、何もなくこっちに教えないでしょうが、もしこの情報が嘘だったらどうしますか」
確かに、先輩の懸念は最もだ。
異能にも属性や種類があるように、水森よりも強い能力者が騙しに来たのなら、どれだけ彼女が警戒したとしても、騙されてしまうかもしれない。
――もし、そうなれば……
「言いたいことは分かった。けどな嘘でも何でも、まずは確認しないと分からんだろうが」
どうやら獅子堂先輩は、情報源が水森にせよ目撃者にせよ、旧校舎の情報が嘘かどうかを確かめたいらしい。
もし桜峰が旧校舎に居たら助けられるし、いなければいないで捜すまで、とのこと。
まあ……その方が早いか。
「とはいえ勝手に入り、警備の人たちに見つかれば怒られます。せめて、範囲を限定しないと……」
「晃!?」
東間先輩にぎょっとされる。
まさか俺が賛成するかのような意見だったのに驚いたのだろう。
「捜すなら、早く捜しましょう。こうして言い合いしていると、他の場所を捜す時間も無くなりますよ」
「……そう、ですね」
手掛かりなんて、水森からの情報しかないのだから、嘘でも本当でも向かってみなくちゃ分からない。
東間先輩をとりあえず納得させ、役員全員で旧校舎に向かう。
――だから、待ってろよ。二人とも。
さっさと桜峰を探して、水森の元へと向かう。
それが、ゲームオーバーにならないための方法だ。
☆★☆
ひんやりとした空気がその場を占める。
その部屋にいたのは三人であり、一人は拘束され、他の二人は一人を挟み込むような形で、椅子に座っている。
「……」
拘束されている一人――桜峰咲希は、どうしてこうなったのか等を頭の中で考えながらも、無言で部屋の扉を見つめる。
咲希を捕えた二人はというと、きゃっきゃと様々な話で盛り上がっている。
――何で。
そして考えるのは、捕まった理由などではない。
何故、このような状況下で普通に話していられるのか、だ。
見つかりたくないから、この場所を選んだはずなのに、今ではまるで見つかっても構わないとばかりに大きな声で話している。
「……ねぇ。二人はさ、私に何か言いたいこととかがあって、ここに連れてきたんだよね。そろそろその理由を教えてもらってもいいかな」
「……」
「……」
咲希の問いに、話していた二人の会話が止まる。
そして、その視線を向けられ、咲希は何が来てもいいように身構える。
「そう言われて、教えると思う?」
「というか、自分で考えてみれば?」
どうやら、そう簡単に教えてくれないらしい。
「……悪いけど、心当たりが多すぎて絞りきれないんだ。だから、教えてくれた方が嬉しいかなぁって」
正直、咲希は今までと似たような状況もあってか、どういう目的で連れてこられたのか、予想しなかったわけではない。
けれど、今回はその時と違う点があったからこそ、二人に口を開いてもらう形に誘導することにしたのだが――
「そう簡単に言うわけないでしょ?」
どうやら、駄目だったらしい。
まあ、最初から上手く行くとは思ってなかったので、それもそうかと思いつつ、次の手を考えながらも推測する。
――そもそも本当に、私に用があるの?
今までであれば、こうして連れてこられた時点で何か暴言などを言われたし、水を掛けられるようなこともされたわけだが、現状は縛られているだけで何も言ってこないし、やってこない。むしろ、二人が好き放題に話している。
そこだけなのだ。今までと違うのは。
「……」
「……」
「……」
どれだけ時間が経ったのだろうか。二人も話題が尽きてきたのか、口数が減り始めていた。
だからなのかもしれない。こちらに近づく数人の足音と共に――
「咲希!」
そう飛び込んできた未夜先輩たちを見て、「あれ?」と思う。
「……ねぇ、飛鳥は? 一緒じゃないの?」
「いえ、僕たちだけですが」
彼らが助けに来てくれたのは、正直に言えば嬉しい。
けど、それよりも今まで誰よりも最初に見つけてくれていた彼女の姿が、そこには無かった。
私の言葉で顔を見合わせる彼らに、二人がプッと吹き出す。
「せっかく助けに来てくれたお礼よりも先に出た言葉がそれ?」
――ああ。もしかして、そういうこと?
そんな二人の反応で、何となく分かった気がする。
でも、何でよりによって、誰か別行動を取ってないのかと言いたくなる。
つまり、彼女は――飛鳥は、今一人なのだと、彼らの行動が示してしまっている。
「っ、」
「もしかして、やっと気づいた?」
その言葉に目を向ければ、にやにやと笑みを浮かべていた。
その顔が、こちらの考えを肯定しているように見えてしまう。
「私を、囮にしたわけだ」
彼女たちの目的は、私に文句を言うために連れてきたんじゃなくて、彼らを誘き寄せ、飛鳥を一人にするため。
もしそうだとしたら、腹が立つ。
文句とかを言われるよりも、こうして利用されて、飛鳥が危ない目に遭ってたとしたら――
「貴女たちの目的は何。飛鳥に何をする気なの」
さて、二人は話してくれるんだろうか。