水森飛鳥と告白の後で
「……君も、彼女が恋愛的意味では好きなの?」
いきなり何を聞いているんだろうか。私は。
いや、聞いておかないといけないから、聞いているんだけども。
「それ、君に言う必要ないよね?」
「まあ……そうだけど」
確かに、言う必要はない。
けど、私はサポートキャラなのだ。
桜峰さんが夏樹を振ったことから考えるに、他のメンバーとくっつく可能性もある。
もし仮に、桜峰さんと誰か一人とくっつくなら、正直誰でもいい。逆ハーレムエンドにならなければ良いのだから。
そう、誰でも――……
「さっきの質問は忘れて。ふと思っただけなので」
「その割には、さっきの告白シーンを見て、ショックを受けたように見えたけど?」
私と関わることが減ったというのに、嫌というほど人を良く見てくる。
「しょうがないでしょ。裏切られたような気分なんだから」
実際そうではないか。夏樹に掛けられていた神崎先輩の加護は、女神の強制力に負け、彼はあちら側に行ってしまった。
もしそれが演技であるなら、怪しい部分があったはずだし、見抜くことも出来たはずだ。でも、私は特に気づかなかったし、気づけなかった。
「裏切られた?」
「告白するなら、一言欲しかったんだよ。何だかんだで情報与えたりして協力していたのに」
「へぇ……」
間違ったことは言ってはないけど、『裏切られた』は言い過ぎかもしれない。
だって、当事者同然なのに、「巻き込みたくない」という理由だけで、みんなと距離を取ったのは私なんだから。
というか、何で普通に話してるんだ。
つい以前みたいに話しちゃったけど、よく考えたら、接触が減ってラッキーだったんじゃないの?
「ねぇ、その情報ってさ。俺にも教えてもらえない?」
「は?」
「あいつにだけ教えてるとか、不公平でしょ」
彼は何を言っているのだろうか。
「君は一体、何言ってるの。桜峰さんの情報なら、君たち生徒会役員に教えたし」
「うん? おかしいなぁ。記憶に無いんだけど」
そりゃそうだ。鳴宮君が覚えていないのは、その情報を教えたのが二度目の強制力が来る前だし、それ以降は特に求められもしなかったので、教えてすらない。
だから、記憶に無くて当たり前なのだが……
「とにかく、君に話すような情報はもう私には無いから」
これ以上話してると、私まであちら側にいるような気になる。
「あと、教室に来ても無駄だからね? 本当に無いから」
最後に釘を刺しておく。
知識にある桜峰さんの情報を含め、いくら小出しにしていたとはいえ、言ってない情報はもう無いはずだ。
「ま、情報以上に知りたいことがあるのなら、本人に聞いた方が早いと思うけど」
というか、嘘だろうが本当だろうが、本人に聞いた方が的確だ。私の知らない情報も手に入れられるだろうし。
「確かにそうだね」
頷いたかと思えば、じっとこちらを見てくる。
「……何」
「いや、別に。鷹藤や鷺坂に以前の俺は桜峰じゃなく、君とよく話したりしてたみたいだから」
「ああ……」
――あいつら、余計なことをしやがって。
そんな思いが無いわけではないが、一体いつ、その事を聞いたんだろうか。
「話していたことがあるのは事実だよ。内容的には桜峰さん関係だったり、勉強関係だったり、いろいろね」
とにかく桜峰さん関係以外だと、普通に話していたと思う。
「最近だと……進路や受験関係の話をしたと思う」
最近の彼との会話がアレだったので、遡って遡って……二学期が始まった時のことを話しておく。
けれど、彼には心当たりが無いのか、不思議そうにされる。
「最近?」
あ、強制力のせいで覚えてないのか。
「うーん……二学期開始の時に、それっぽい話をしたんだけどね」
「そんな話をするぐらい、俺と君は仲が良かったんだね」
「そこは否定したいけど、以前の君がショックを受けそうだから、肯定しとくよ」
どれぐらいの時期に話したのかも伝えたが、仲が良いというのは、少し語弊がある気がする。
最初は、そっちから声を掛けてきたんだから。
『こんなところで何してるの?』
第一声がそれだったんだから、笑ってしまう。
私の言動が悪かった時もあっただろうに、それでも一緒にいる時間があったのは、彼のお陰だろう。
それがずっと繋がって、今へと至る。
「……君、明日は少しだけ時間は開けられそう?」
「何で?」
明日の予定について尋ねてみたら、不思議そうに返される。
毎年のことだから、明日が何の日か分かってるはずなのに。
「どれだけ大変でも、五分だけ開けてくれると助かるかな」
「まあ、それぐらいなら、何とかなるかも」
「そっか」
とりあえず、約束はしたので大丈夫だとは思いたいが、女神がまた何かしてこないとも限らないので、警戒はしておいてもいいかもしれない。
「ありがとう」
「ん?」
鳴宮君がいてくれて良かった。
もし、あれを聞いた後に一人なら、いつも通りに戻れなかったかもしれない。
どうやら、彼と話していて、少しばかり気が紛れたらしい。
だから、そのためのお礼なのだが、ピンと来てないのか、不思議そうにされる。
「それじゃ、この時間の屋上前にいるから」
私たちを表すのに、一番分かりやすい場所。
もし、彼が来れなくても、仕方がない場所。
「本当は屋上が良かったけど、入れないからね」
そして――私たちが、出会った場所だ。
「分かった」
「それじゃ」
そう言って、その場を後にする。
だから、彼がどう思ったのかも分からないし、何か言ったとしても分からない。
ねえ、女神様。
もし、明日。私だけでなく、桜峰さんの時間までぶち壊すようなら、私は許さないから。
だから、強制力とか使わずに、大人しく見守っておきなさい。