水森飛鳥とバレンタイン準備
――約束の週末。
「これは……」
「凄いね……」
桜峰さんが何らかのハプニングなどで約束の時間に遅れるなんてこともなく、バレンタインが近いからと、フェアをやっている所に見に来たのはいいが、やはりというべきか、いろんな種類のチョコレートで溢れ返っていた。
「とりあえず、まずはぐるっとどんなのがあるのか回ろうか」
一応ブランドとか会社ごとに分かれてはいるだろうからと、とりあえず目星を付けたり、値段を確認するためにも、一度どんなものがあるのか見てみることになった
「やっぱ、高いところのやつは高いな……」
別に高級なものを贈ろうだとかは考えてないが、それなりに数があった方が良いとは思うので、数種類入りのチョコレートを見ていく。
「……」
とりあえず、良さげなものを支払い用のカゴに入れていくが、ふと「本当にこんなにいるのか?」と思ってしまう。
弟はともかく、夏樹たちに渡すタイミングがあるのだろうか。というか、義理とかでも受け取って貰える――?
「ねえ、飛鳥は決まった?」
「……」
「ねえ、飛鳥ってば」
「え……」
「みんなに渡す分。決まった?」
いつの間に隣に来ていたのか、桜峰さんに話しかけられていたことに気付く。
「まあ、それなりに、だね……」
一応、予算も決めてきているので、何とかそれ以内に納めないといけない。
「咲希は?」
「一応、私もいくつか良さそうなのを見つけたよ」
「あとは、誰に何を贈るのか決めるだけ」と桜峰さんは言う。
「予算は?」
「そこはちゃんと計算しましたから、問題ありません!」
どうやら、そちらも問題ないらしい。
「で、なに考えてたの?」
「何が?」
「私に話しかけられて、すぐに返事しなかったじゃん」
「ああ……」
彼女に話すべきだろうか。
彼女なら、どんなチョコでもいいから、絶対渡せと言ってきそうだが。
「会長と副会長の分を一纏めにするか否か」
ぶっちゃけ、桜峰さんから個別に貰うだろうから、私からの分なんて、一纏めでも良い気がする。
「何だ、そんなことか」
おい、この娘。「何だ」って言ったぞ。「何だ」って。
「飛鳥は、郁斗君と御子柴君の分は絶対に買っておけば良いんだよ」
おっと……?
「だから、会長たちの分は気にしないで」
その言い方もどうかと思うし、何の解決にもなってない気もするんだが……
「咲希がそう言うのなら、そうしておくよ」
そうは言いつつも、一纏め分をカゴに入れる。
予算の都合なのは言うまでもない。
その後、会計を終え、帰宅すれば、次に待っているのは誰にどれを渡すのかである。
というのも、一応の候補チョコを誰に贈るのかは、会長たち用の一纏めチョコぐらいしか無いので、どれを誰に渡すのかを決めなければならない。
さらに、他クラスや他の学年から渡しに来る人もいるだろうから、正直夏樹たちに関してはタイミングを合わせないと渡すのも大変だと思うので、当日どうするべきなのかも考える。
「今までなら、気兼ねなく話せてたのにね」
それが今ではどうだ。
勝手にぎくしゃくして、距離を取って。
せっかく声を掛けてくれたのに、また突き放すようなことをして。
「普通なら、嫌われててもおかしくないんだよね」
購入してきたチョコを手にして、考える。
「どうか、邪魔だけは入りませんように」
今の私には、何事もなく渡せることを祈るしかない。