水森飛鳥と近づくバレンタインデー
一月ラストの行事と言えるマラソン大会を終え、二月に入った。
二月における恋愛ゲーム的なイベントを上げるのだとすれば、バレンタインデー関連ぐらいだろうし、私は私で春馬たちぐらいにしか渡さないので、手作りだとかそこまで気合いをいれる必要も無い。
生徒会組も、どんな形であれ桜峰さんから貰うだろうから、私がわざわざ用意する必要も――……
「……」
いや、やっぱり用意だけはしておこうかな。
「くれ」と言ってきそうな人たちも居そうなことだし。
『もうすぐね』
「そうだね」
窓の外を見ていれば、ふと飛んできた明花の言葉にそう返す。
世間がバレンタインだ何だと言っている一方で、この世界での周回もそろそろ終わろうとしている。
私がやるべきことはすべて終えてしまっているので、あとは女神と決着をつけ、結末を見届けることぐらいだろうか。
『寂しい?』
「どうなんだろ」
少しずつ別れが近づいているのは事実なんだろう。
まあその気になれば、この騒動の解決後もこちらに来ることが出来るかもしれないのだが――ただ、そもそもこの世界に来なかったら、桜峰さんたちと知り合うことは無かったんだろうし、本来の形を思うのであれば、離れるのも一つの答えのような気もしていて。
でもやっぱり、この世界と完全に切り離されるとなれば、寂しいと思わないことは無いんだろうけど……その時の気持ちなんてその時にならなければ分からないわけで。
「よく分かんないや」
なので、今はこれで良いんだと思う。
『そう』
どうやら明花も、明確な答えを求めていたわけではないらしい。
『それじゃ、とりあえず――』
まるでタイミングを計ったかのように、明花の言葉と同時に、空き教室の扉が、がらっと音を立てながら開く。
「飛鳥!」
「バレンタインの手伝いは出来ないから」
――彼女をどうにかしましょうか。
そんな明花の言葉を聞きつつ、入ってきた桜峰さんに開口一番そう告げる。
そして、一瞬ぽかんとしたかと思えば、何かに気づいたかのような声を上げる。
「あっ……!」
「何か勘違いしてそうだから言うけど、別に渡したい人が被ってるとかじゃないからね」
「本当に~?」
桜峰さんは疑いの眼差しを向けてくるが、たとえ渡す相手が被っていたとしても渡す。私は渡す。
「本当。咲希が来そうな理由を予想しただけだし」
現にクリスマスプレゼントを買いに行った時もそうだった。
こういう時は、大体彼女の方から誘ってくるので、予想とかじゃなくても「あ、来そうだな」と分かってしまう。
「だから時期も時期だし、バレンタイン関係なのはすぐに予想できた」
「そっかぁ……でも、そんなに分かりやすい?」
「分かりやすいというか、何かの準備の時にはそっちから来るじゃんか」
もしかして、この子は気付いてなかったのか。
「そうだっけ?」
気付いてなかった。
「まあ、手作りとかじゃなくて、既製品で済ませるのであれば、一緒に買いに行ったりは出来るけどね」
そもそも作るのは大変なので、今はあちこちのモールやスーパーとかでバレンタインフェアとかをやっているから、そこで買えば良いだろう。
「うーん、出来れば手作りが良かったし、飛鳥なら作り方知ってるかと思ってたんだけどなぁ」
「知らないわけじゃないけど、大変だからしないだけ」
私だって、余程余裕がない限りは、作ろうとは思わない。
「洗い物も当然増えるし」
「まあ、それもそうか」
どこから始めるのかにもよるのだろうが、湯煎用の道具とか成形用の道具とか、とりあえず使えば洗い物が増えるのは分かっているので、その事も考えると既製品を買った方がまだ早い気もしてしまう。
「じゃあ、今度一緒に買いに行こう!」
「言うと思った。まあいいけど」
ここ一年でかなりの出費ではあるが、これが最後だと思えば気も楽である。
「じゃあ、週末でいい?」
「分かった」
買いに行く日時を決めていれば、予鈴が鳴る。
「あ、チャイム」
「じゃあ、教室に戻ろうか」
そう言って、二人して教室に戻るべく空き教室を後にする。
とりあえず方針として、チョコを買うのは決まったけど、どれだけ買うべきかな。