水森明花と各ルートⅤ(鷺坂蓮ルートⅠ・標的)
飛鳥が再び引きこもったので、私が表に出ることになったわけだが、今回はもう素で行っても構わないとは言われているので、だったらとばかりに標的は桜峰さんや役員たち、夏樹に絞ってやってみることにした。
「どういう反応されるのか、楽しみだなぁ」
特に、実はあまり知らないであろう夏樹と、飛鳥の振りをしていたときの私しか知らない鷹藤君の反応は。
「……となれば、あとで、ネタバラシすることも想定して、色々と準備もしておいた方がいいか」
私の存在を知ってる人は知ってるが、そもそも本来の『明花』を知らないだろうから、絶望に突き落とすスタイルでもいいのかもしれない。
「まあ、時間ないからやらないけど」
もう少し早く出てくるべきだったか、と少しだけ後悔する。
そうしていれば、彼らで遊べたかもしれないのに。
「けどまあ、とりあえず……」
接触するべき面々を思い浮かべる。
「一度ぐらい、会っておかなきゃねぇ」
そして、最初の標的は決めた。
理由としては、一度ぐらいまともに話し合うためにも会っておかないといけないと言うのもあるが、何となく彼なら大丈夫だと思えたからだ。
☆★☆
「――とはいったものの、一年の方に用もなければ行ったこともないし、どうしたものか」
そもそも、桜峰さんたちじゃあるまいし、滅多に行かない人間が行ったら行ったで目立つ。
……まあ、あの後輩庶務は二年のところだろうが構わず来たりしているんだろうが。
かといって、誘き出すのも面倒である。
「もういいか」
関わらなくても。
なるべくなら関わった方がいい、なだけで、無理に関わる必要ないのだ。
それに、用件があるのなら、あちらからやって来るだろうし。
「無表情で何やってるんだ」
「誰かと思えば、鷹藤君ではないか」
「……明花の方か」
雰囲気で私たちを見分けていると言っていた彼だが、どちらかと言えば、その時の違和感や話し方で判断しているようにも見える。
「やっぱり、まだ後ろ姿からじゃ、判断できない?」
「無理だな」
だよなぁ、と私も同意する。
後ろ姿だけで見分けられたら、私でも引く。
「で、何かご用でも?」
「いや、見かけたから声を掛けただけなんだが……何か、いつもと違くないか?」
飛鳥と明花の違いは、雰囲気で違うとか言われてたけど、それはあくまで私が飛鳥の振りをしているときである。
けれど、付き合いが短いと言うのに、私自身の違いまで見分けるのか。
「へぇ、気付くんだ」
「……本当に、明花の方なんだな」
それでもやっぱり、疑いは晴れないらしい。
心のどこかでは、飛鳥や明花とも違う人格のようにも思われてるのかもしれない――が。
「もちろん、明花だよ。でも、こうした理由を告げると結構簡単でね。もう飛鳥の振りをする必要もなくなったから」
「……別に『飛鳥』の方が消えたわけじゃ無いんだな?」
「消えてはないよ。ただ、あの子はあの子で別作業中だからね。ま大体、あの子が引きこもってるときに出るのが私なわけだけど」
どれだけ私が私だったのだとしても、その点だけは変わらない。
「別作業中?」
「まあ、いろいろね」
考えてる作戦をいつ展開するのだとか、そういうことを言えるわけがない。
「そうか」
けれど、鷹藤君は気にした様子もなく、納得したように頷いた。
まあ、今までが今までで、こっちがこそこそいろいろとやってたから、そんな感じだと思われてるのかもしれない。
「それじゃ、私はもう行くから」
「ああ」
そして話し終われば、鷹藤君と別れ、特に目的地もなく歩き出す。
いつも通り、屋上に行ければ屋上に行っていたのだが、今行くと凍死しかねない。
「どこか無いかなぁ」
ここ最近は空き教室なので、そこでもいいのだが、移動教室で来た子たちの邪魔になるかもしれないので、やっぱりどこか探さないといけないわけで。
「図書館とか、ラウンジとか……?」
この学校、割と広いのでその辺に行ってもいいのだが、そうすると今度は教室から遠くなる。
だから、気付かなかったのだ。
「……あれ、飛鳥先輩?」
珍しく同級生たちと話していた彼が、それなりに距離はあれど、こっちの姿を捉え、見ていたことに。