水森飛鳥とこの世界Ⅰ(戻ってきた世界)
新章突入。
なお、メインは飛鳥視点ですが、今後他者視点も混ざると思うので、ご了承ください
大きく深呼吸をする。
この感じたことのある空気。
私はこの世界に戻ってきたのだと、理解した。
☆★☆
季節は秋。
あれから時は進んで、二学期。
「飛鳥ぁぁぁぁ!」
「ちょっ、」
登校早々、桜峰さんに抱きつかれた。
「ちょっ、苦しい……」
ギブアップを示すために、桜峰さんの腕を軽く叩けば、理解してくれたらしく、「ごめん」と謝りながら、解放してくれた。
「でもでも、寂しかったんだよ?」
嘘つけ、生徒会役員たちが側にいただろうが、と思っても言わない。
彼女が夏休み中、寂しがっていたのを私は知っているから。
まあ、私が知っている理由としては、夏休みイベントの知識と神崎先輩から得た情報からだけど。
「はいはい」
ぽんぽんと頭を撫でれば、「子供扱いしないでー」と、桜峰さんが返してくる。
それにしても、好感度とか、どれだけ変化したんだろうか。
夏休み中なら、それなりに変化しそうなのだが、桜峰さんの反応から判断すると、あまり変化なし?
そんなことしていれば、担任が教室に入ってきて、移動するように告げる。
そう。今から、二学期の始業式である。
さて、役員の人たちはどんな風に変化しているのやら。
☆★☆
耳を澄ます。
そうそう、始業式のことだけど、はっきり言って、変化なんて分からなかった。
『今日ね、飛鳥に会ったんだぁ』
『そうですか』
副会長と楽しそうに話す桜峰さんの声が聞こえてくる。
「……まさか、本当に何も無し?」
このまま桜峰さんたちの話を聞いていてもいいけど、対して変わらなさそうだからなぁ。
他の方に意識を向けてみる。
『……いいのか?』
『……何が』
『……水森、絶対にいるぞ?』
どうやら、鳴宮君と鷹藤君が話しているらしい。
『分かってるよ。今日から二学期だし、水森さんならサボるはずもないし』
『なら、早く行け』
鷹藤君が鳴宮君の背中を押してるのが、イメージできる。
『でも、二学期初日だし、いなかったらどうしよう……』
『面倒くさい奴……』
鳴宮君が何も返さなかったから、きっと呟いたんだろうけど、私には聞こえてますよ?
それでも二人の声が、ある程度反響してることから判断するに、屋上に繋がる階段の近くにはいるのだろう。
「……」
どうせ結局は来ることになるんだろうし、再び意識を他へと向ける。
ここまで来れば、残りは二人だけど……会長たちはどうしてるんだろうか?
『ねぇ、会長?』
『何だ』
『咲希先輩、最近副会長と一緒にいるよねー』
『それがどうした』
微妙に低めな会長の声が聞こえてくる。
『もしかして、咲希先輩は副会長が好きなのかな?』
おや、そう来ますか。
『仮にそうだとしても、咲希が気持ちを決めるまでは、諦めるつもりはない』
そうだよね、まだチャンスはあるもんね。
『お前はどうするんだ』
『んー……、会長たちは三月になれば卒業しちゃうけどさぁ。二人の雰囲気から見ると、俺には勝ち目無いからなぁ』
ああ、そういえば会長と副会長は三年生だった。
でも、とも思う。このループする世界では、彼らの未来はどのように作用するのか。
『でもまぁ、相手は咲希先輩だけじゃないしねぇ……』
「ーーっつ!?」
何か今一瞬、嫌な予感がした。
……うん、きっと気のせいだ。そうに決まってる。冬も近いしね。そうだ、今日はもう聞くのは止めよう。そうしよう。うん。
そう唸っていれば、屋上の扉が開く音がしたため、そっちに振り向けばーー
「……本当にいた」
目を見開き、そう告げる鳴宮君がそこにいた。