水森飛鳥と水森明花の……
雪冬さんが危惧していた、『私と鷹藤君が付き合っているかもしれない』という噂が起きた――
「そういえば最近、鷹藤君と一緒にいるよね?」
――なんてことはないが、そう言われたり、聞かれることが増えた。
もちろん、情報交換が主なのだが、みんながそんなことを知るわけはないので、当然確認してくる人間と言うのはいるもので。
最初は否定していても、その数が増えてくれば、否定するのも面倒くさくなってくる。
「ああ、別に悪い意味じゃないから」
「そうそう。だから、そんな嫌そうな顔をしないの」
「そんな顔は……」
でもまさか、奏ちゃんたちにまで言われるとは思ってなかった。
けれど、私は今、嫌そうな顔してた……?
「してたからね? 「またそれか」みたいな」
「言っておくけど、みんなが思ってるようなことではないから。たまたま会って、話してるレベルだから」
それだけは譲れないのだが、私が否定すれば否定するほど、噂の信憑性が薄れない現象が起きているのもまた事実で。
「とにもかくにも、気を付けなさいよ。去年みたいなのは、もう嫌だから」
「私も嫌だよ」
真由美さんが言ってるのは、私が一年だったときにあったことだろう。
私とて、あんな面倒くさい件はお断りなのだが、あちらからやって来ては回避しようもなく。
「まあ、何だかんだで気にしてくれている人たちはいるから、大丈夫だとは思うけどね」
「……?」
奏ちゃん。それは一体、誰のことを言ってるのかな?
「でも、本当に気を付けなさいよ」
ここまで念押しされてしまうと、逆に何らかのフラグに思えてしまうのは、気のせいだろうか?
☆★☆
「というわけで、最後の情報整理しておきたいから、よろしく」
『よろしくじゃないでしょ……』
私の相談相手は例によって、明花である。
正直、現状では鷹藤君でもいいのだが、噂とかもろもろのことを考えると、どうしても相手は明花しかいないわけで。
『で、私が出てればいいの?』
「うん」
彼女のやることはそれだけだ。
明花が表に出ている間、私は中でここ一年で得た情報を整理する。
きっと、この先はゆっくり時間は取れないだろうから、情報整理して、決めていた作戦をどのタイミングで実行していくべきなのか決めないといけない。
「あと、私と鷹藤君がどうのこうのっていう噂も出てるから、気をつけて」
『何それ?』
明花にしてみれば、そんな反応にもなるか。
「ここ最近、私たちが話し合ってる率が高いから、そう思われたみたい」
『また面倒な……たまたま会って話すことの何が駄目なの』
明花の疑問には同感なので、「私も思った」と返しておく。
『でもまあ、私たちを見分けられる人間は貴重だけど、それじゃ仕方ないか』
否定も肯定もない、一定の距離で接していくしかないのだろう。
『――で、これは確認だけど、最後の彼と接することになっても構わない?』
「そこはお任せするよ。どうせ避けられないだろうし」
『了解』
今までも、会長たちと話してきたのだ。
彼だけ除け者にするわけにもいかない。
――それがたとえ、明花が相手をすることになるのだとしても。
「私の振りとかじゃなく、素でもいいから」
明花が驚いた様子でこちらを見てくる。
『いいの?』
「もう隠す必要もないでしょ」
あちらもきっと勘づいているだろうから。
『そっか。分かったよ』
「ごめんね、面倒なことさせて」
『こっちこそ。結構面白かったし、楽しかったからね』
くすくすと明花が笑う。
気を使ったとかではなく、きっと本当に楽しかったのだろう。
『どうかした?』
「いや、本来の明花を見たときの、みんなの反応が楽しみなだけだよ」
『ああ、確かに。……夏樹辺りも驚くかな?』
鷹藤君辺りは私の振りした明花しか知らないだろうから驚きそうだが、夏樹辺りはどうだろうか?
明花が出てきてから少しの間、明花自身は素で接していたはずだが、それを忘れていなければ、驚くことは無いだろうけど……ああでも。
「それはそれで見たい」
そして、そのまま笑いあった後。
『それじゃ……』
「分かってる。だから結論が出るまで、そっちで大人しく纏めてなよ」
私たちは入れ替わった。
絶対に、タイミングなどを見誤らないようにするために。