表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
117/155

水森飛鳥は三学期を迎える


「おはよう」

「明けましておめでとうー」


 冬休みが明け、今日から三学期。

 普通に挨拶する人もいれば、新年の挨拶を改めて口にする人もいた。


飛鳥(あすか)ちゃん、明けましておめでとう」


 登校してきた(かなで)ちゃんが、そう挨拶してくる。


「明けましておめでとう。そして、おはよう」

「うん、おはよう」


 その後、奏ちゃん同様に登校してきた真由美(まゆみ)さんとも同じことをする。


 ――で。


 いつもなら、飛び付いてくるかのように声を掛けにくる桜峰(さくらみね)さんの姿はまだ見当たらない。

 異能を使って探してみるが、どうやら校内どころか学校の敷地内にもいないらしい。


「珍しく、遅刻かな?」

「桜峰ちゃんに限って、そんなことはないと思うけど……」


 修学旅行がきっかけなのか、時折話すようになった奏ちゃんたちも、未だに姿を見せようとしない桜峰さんに対し、不安そうにしている。


「……」


 念のため、探索範囲を広げるか……と思っていれば、桜峰さんは慌てた様子で教室に飛び込んできた。

 間に合ったことに安堵の息を吐く彼女へ、気づかれない程度に目を向けるが、遅刻ギリギリに飛び込んできたこと以外は、普段の桜峰さんと変わらなかった。


   ☆★☆


 飛鳥、といつもなら声を掛けてくるはずの彼女が、珍しいこともあるもので、声を掛けに来なかった。

 もしこれが彼女の『押して駄目なら引いてみろ作戦』であるのなら、的中してなくはないが、そもそも(特定の状況下を除き)私は自分から積極的に動くタイプではないので、気になりはするけど、聞きに行くまでに至るはずもなく。


「……まあ、そこはどうでもいいんだけども」

『どうでもいいのなら、何で私に話してるの……』


 呆れた様子を隠そうともしない明花(あきか)だが、それが正論なため、私は視線を逸らして誤魔化す。


「明花」

『何』

「三学期になりました」

『……そう』

「今日からなので、一応、報告しておこうかと」


 明花にも切り換えないといけないときはあるので、彼女が起きているときはこうして告げたりしている。

 以前、切り替わりを告げなかったがために、遅刻しそうになったのはいい思い出だ。


『……で、本題は?』

「ん?」

『だから、本題。何か言いたいことがあったから、呼んだんでしょ?』


 さっさと話せと言われるが、そこまで重要な話ではないので、さくっと話す。


「問題はここから」


 結果として、時間は昼休みに突入した。

 桜峰さんは相変わらず、あの面々といるらしく、久々に盗聴(・・)してみれば、なんとまあ。


「一体何があったレベルで、甘々会話してたんだよね」

『へぇ』


 本人たちにしてみれば普通の会話なんだろうけど、聞く方にとってはそう受け取れるような、そんな会話だった。


「で、何があったと思う?」

『展開的にはいきなりすぎるなんてこともなくはないだろうけど、あの子がそう立ち回るようになったのは、気になるところだね』


 女神のことだから、何か出来なくはなさそうだけど、今は神原(かんばら)さんである。

 彼女の状態で、私のように説明をできない限り、下手に別の異能を使えないはずだ。


『……もし、女神が強制的に、あの子の意志を操作したとして』

「ん?」

『私たちに何が出来る?』


 また難しい問いが出てきたものだ。


「冬休み中に話に戻るけど、手は無くないけど、それは、あくまでも最終手段のはずでしょ」


 一応の方向性は冬休み中に話し合った。

 けれど、明花が言いたいことも聞きたいことも、そのときの答えでないことは、私も分かっている。

 故に、彼女は尋ねたのだろう。


斬れる(・・・)の?』


 ――私や、貴女に。


 その問いに、私は答えられない。

 明花だって、そうだろう。

 何度も経験してきたはずなのに、自分の中に存在する『理性』と『倫理観』が何とか抑えに来てくれているお陰で、まだ一線を踏み越えてはいない。

 けれど、たとえどんなに『経験』したとしても、それだけの――『覚悟』が、まだ足りない。


「――」

『――』


 どちらかが何も言うことなく、どちらかが吐き出した息によって、時間が動き出した気がした。


『先送りには出来ないから』

「分かってる」

喚び出す(・・・・)のは、飛鳥の役目だからね?』

「……分かってる」


 私たちがやりたいことは世界自体が違うので、行えるかどうかは分からない。


「でも、()び出せれば、事態は変えられる」

『そして、目的も達成できる』


 明花とともに、笑みを浮かべる。


「明花」

『飛鳥』


 たとえ、どんな結果になろうとも――最後の最後まで、貴女とともに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ