水森飛鳥と水森明花は覚悟を決めるⅢ(そして、来るは……)
明けましておめでとうございます。
新年もよろしくお願いします。
……というわけで、新年である。
年末年始の過ごし方など、春馬がいないことを除けば、例年と変わらず特番を見つつ、家族で年越し、新年を迎えただけである。
「飛鳥、初詣はどうするの?」
「後で行く」
両親の予定確認に、そう返す。
今年……というか去年は夏樹たちと約束もしてなかったから、多分個々で行くことになるのだろう。
まあ、例年が例年だったから、両親は夏樹たちと一緒だと思っていそうだけど。
『一人で行くの?』
「来てる人数次第なら、誰かと会うでしょ」
場所を移動し、鏡の前で明花にもそう答える。
『飛鳥』
「ん?」
『絶対に、決めよう』
何について言っているのかなんて、予想できる。
『まだ来年があるからとかじゃなくて、もう私たちの手で決めよう』
「……」
『考えてる手がいくつかあるから、使うかどうかは話し合って決めるとして……聞いてる?』
反応が鈍くなったから、疑問に思われたらしい。
「聞いてるよ、ちゃんと」
ただ、明花がそう言ってくるのが珍しかっただけだ。
『なら、いいけど』
「まともな手であることを祈ってるよ」
『酷いなぁ。でも、まともな策で通用するような相手でもないからね』
だから、ヤバい手もそのままにしておく――そう言って、明花は去っていった。
「……それ、使うときが来ないといいけど」
ぶっちゃけ、明花が『ヤバい』というのなら『ヤバい』ので、私としては使うときが来ないことを願うまでなのだが……
「私も人のこと、言えないよねぇ」
――神に抗うための一手。
それが無いわけではないが、上手く扱えるかどうか分からなければ、そもそも手札として使用可能かどうかも分からない。
「さて、行きますかね」
今回は行く場所が多いからね。
☆★☆
「あ、飛鳥だぁっ」
「……」
良いと言うべきか、悪いと言うべきか。
地元の神社への初詣を終え、転移先の世界の神社にやって来てみれば、桜峰さんとそのお仲間たちと遭遇した。
いや、彼女たちが来ないかもしれないだとか、会わないで済めばいいなとか、思わなかったわけでもないけど、会ってしまったのだから仕方がない。
「ほら咲希。先に挨拶しないと」
「ああ、そうだった」
そして、軽くこほんと小さく咳払いしたかと思えば、桜峰さんが口を開く。
「明けましておめでとう、飛鳥」
「明けましておめでとう、咲希」
どうやら、返しは正解だったらしく、我らのお姫様は嬉しそうである。
「それで、貴女一人ですか?」
「一人で来ちゃ、駄目なんですかね?」
「いえ、そういうわけではなく、貴女にも一緒に来る友人ぐらいは居るだろうから、その方たちと一緒ではないのかと思ったまでです」
単なる感想を口にしているはずなのに、何となくイラッとしてしまうのは、私の心が狭いからなのだろうか。
ちなみに、奏ちゃんたちとも約束はしてないので、もし会うことがあっても、その時に決めればいいかなとは考えていたぐらいだ。
「じゃあさ、もし誰もいないなら一緒に行こうよ」
「あ、いいね。誰かと一緒だったとしても、合流するまでなら、一緒にいられるでしょ」
桜峰さんの提案にぎょっとしていれば、まさかの同意が出てきた。
時間もそんなに無いというのに、それでいいのか、男性陣。
「まあ、この中を一人で歩かせるのも、な……」
鷹藤君。君は一体、遠い目をしながら誰のことを思い浮かべていたのかな?
「ほらほら、行こう行こう」
「え、ちょっ……」
背中を押されつつ、お参りを済ませる。
ここで私が祈る相手は神崎先輩たちであって、あの女神ではない。
というわけで――……
「何か、長かったね」
参り終われば、待っていた桜峰さんたちと合流するのだが、合流早々にそんなことを言われてしまった。
「どうしても叶えたいのが、いくつかあったからね」
「そうなんだ……」
念押ししておいたから、きっと大丈夫なはずだ。
もし女神が聞いていたとしても、『お前宛てじゃねぇ』オーラを出しておいたから、まあ大丈夫……なはず。
「で、本当のところはどうなんだ?」
「人に言ったら叶わなくなりそうだから、いくら君でも言わないよ?」
何で自分なら大丈夫だとでも思ったんだ。
「けどまあ――」
「ん?」
「ちゃんと受験勉強できるように、とは言ってきたよ」
私の言葉と同時に、びくりと体を揺らしたのを見逃しませんでしたからね? 先輩方。
あと、そっと顔を逸らすのはやめようか、同学年組。
「早くない? 受験関係とか早くない?」
「早くないよ。今一月だよ。咲希が来てから、あと少しで一年だよ。その流れを思い出してみ? 月日が経つのは早かったでしょ? つまり、今から想定しておくのは良いことなんだよ」
「怖い怖い怖い」
とりあえず、分かりやすく例えてみたつもりだけど、どうなんだろう?
「それに――」
「まだあるの!?」
「助けてと言われても助けられないだろうから、先に言っておく」
「絶対、忘れるやつじゃん……」
鳴宮君が呆れたように言うけど、私も忘れそうだ。
「まあ、進路なんてどうなるか分からないしな」
「進学か就職か……僕たちも悩みましたからね」
さすが経験者。説得力が違う。
「おい、水森。その『経験者だから説得力がある』とでも言いたげな顔はやめろ」
「あれ、分かりました?」
「実際に思っていたのかよ……」
そんなやりとりの後はおみくじを引いたり、破魔矢を買ったりしつつ、初詣を過ごしていく。
おみくじの結果は『学問』や『病気』を主に見ておいた。学問はともかく、『病気』に関しては昨年あんなことがあったからだ。
せめて、今年は平穏に過ごしたい。
――そして、年のための『恋愛』。
「……」
その他のもざっと確認して、縛りに行こうとすれば、声を掛けられる。
「あれ、もう見たの?」
「何吉だったー?」
よりによって、騒がしい二人――桜峰さんと鳴宮君である。
「いや、何でも……」
いいでしょ、とは続けられず、二人の視線に「吉だよ」と言っておく。
「何だ」
ちょっと待て。聞いておいて、その反応か。
「二人はいいの、引けた?」
「じゃーん、大吉~」
嬉しそうに見せてくる桜峰さんだが、女神が引かせたんじゃないのか、と勘繰ってしまう。
「おー、良かったねぇ」
若干棒読みで言ってみたけど、桜峰さんは気づかなかったのか、みんなのおみくじを見に行ってしまった。
「あ、俺は小吉だったよ」
「そうなんだ……」
ほら、と見せられたけど、その点については疑ってもないし、反応に困る。
「俺もみんなの見てくる」と言って、桜峰さんの方へと向かう彼を見送りながらも、「私も行くか」と思っていれば、いつの間にか近くに来ていた鷹藤君がおみくじの結果を伝えてきた。
「ちなみに俺は中吉だった」
だから聞いてないし、疑ってないないんだけどなぁ。
「あと、水森」
「何?」
「クリスマスの時の件」
「……」
それだけで、何を言いたいのか理解した。
「何もないよ」
「本当か?」
「もし仮に君に言ったところで、どうにかなるようなことでもないし、たとえ何かあったとしても、私たちが頑張ればいいだけのこと」
何もないと口にしたところで、きっと彼は信じないだろうから、こう返したわけだが……納得できなさそうな顔をされてしまった。
「明花は知ってるのか」
「知らないはずないでしょ」
そもそも、私を通してるんだから、知らないでいられるわけがない。
「なら、いい」
「……もしかして、心配してくれていた?」
「……まあ、それなりに」
視線を逸らしてはいるけど、嘘は吐いていないっぽいので、何だか申し訳なくなる。
「別に大したこと無いよ」
「水森?」
きっと話してくるとは思わなかったのだろう、今度はぎょっとした顔をされる。
「この世界のことがなければ、私だって相談ぐらいはしてる。君はこちら側の人間でもあるからね。でも、着実に時間は無くなっているから、関係ないことにそっちの時間や思考を割いてほしくないだけ」
「……」
「それに正直に言うと、今は君を通じて、女神よりも雪冬さんにこの事が伝わることの方が怖いから、言わないだけだよ」
心配そうな、何か言いたそうな表情は変わらないけど、何を言っても無駄だと理解しているのか、溜め息を吐かれる。
「俺が言うと?」
「君が言わなくても、あの人は何となくで読み取るよ。私とあの人は同じだから」
弟を持つ、姉だから。
「だから、どういう手を取ろうとしてくるのかも、予想できる」
きっと、私への手助けを鷹藤君に告げるはずだ。
もし、直接言わなくても、そう仕向けることも出来るだろう。
「故に、私は君に言わないよ」
これでも、私は君を信じているからね。
次回より、終章・三学期編突入。