水森飛鳥と水森明花は覚悟を決めるⅡ(年末年始の準備)
あの後、戻ってきた両親から、春馬は年明けまで入院することになると告げられた。
その事については、ある意味予想していたことなので、そこまで驚きではなかった。
さて、今はクリスマスも終わり、年末年始の準備期間である。
「……まあ、斜めではないか」
玄関にしめ縄を付けつつ、一人そう告げる。
両親の仕事納めももうすぐらしいのだが、さすがに大晦日ギリギリまでバタバタしたくはないので、少しずつではあるが、年末年始の準備を進めている。
ちなみに、あちらの世界の分も用意しないといけないのだが、食料品以外の必要物品は神崎先輩たちが用意してくれたのか、いくつか送られてきていた。
「……で、やっぱり手伝い無しか」
世界を移動し、私自身が触れたもの以外、特に変化の無い道具たちを見て、呟く。
拠点共有している夏樹の姿が無いのもある意味予想通りである。
きっと、元の世界の家の方でこき使われているのだろう。
「……」
私以外に誰もいないのでラジオとか付けつつ、一人無言で年末年始の準備を進めていく。
年末年始は初詣とか以外で使わないのもあるし、元の世界でゆっくり過ごしたりするためでもある。
「……届かねぇ」
準備していて脚立も使ってるのに、どうしても届かないところが出てきてしまうのは仕方がないので、後回しにするとして……
「夏樹は……まあ、いいか」
言って手伝ってくれるのならまだいいが、断られる可能性もあるので、こっちも今は保留しておく。
「それじゃ、次は――」
☆★☆
「あ」
「あ」
元の世界に戻り、家を出ようとすれば、今出てきましたと言いたげな夏樹と鉢合わせた。
「……」
「……」
何かの勝負をしているわけではないが、どちらも何も発しない。
「……その、何か手伝うことはあるか?」
「どちらについてかな?」
思わずそう返してしまう。
ぶっちゃけ、年末年始の準備だろうがそれ以外だろうが、手伝うのなら、あちらの世界の方を手伝ってほしいところではあるのだが。
「いや、言ってくれれば手伝う」
「じゃあ、あっちをお願い。先輩たちがいろいろと用意してくれたみたいだから」
何を、とは言わなかったが、時期が時期だし、見ればわかるだろうから、とりあえず、私が出来なかったあちらの世界分は丸投げである。
「お前はどうするんだ?」
「私はまだやらないといけないことが、たくさんあるので」
主に、ハルの件や年末年始の準備だが。
「……そうか」
そうは言ったものの、そわそわしたまま、その場から動かない夏樹に怪訝な顔をしてしまう。
「どうしたの」
「……は」
何か言ったようだけど、声が小さくて聞き取れない。
こちらでは異能が使えないというのに。
「……ハルは、大丈夫か?」
「まあ、それなりに」
どこから情報が行ったのかは不明だが、夏樹なりに心配してくれているらしい。
「まあ、私よりはマシな方だね」
「……っ、」
そもそも、事故とか先輩からの頼まれ事とかは夏樹のせいではないのに、何で申し訳なさそうな顔をするんだろうか。
「それに、年明けには戻ってくるし」
「それなら……いい」
おそらく、私の時と比べたんだろう。
「それじゃ、俺はあっちのを見てくるから」
「分かった。でも、準備自体は私が少し進めてはいるから、驚かないでよ」
「分かった」
そう言った後、「飛鳥」と呼び止められる。
「その……無理はするなよ」
そんな夏樹の言葉に、誰のせいだと思ってるんだ、と思っても、何とか口から出るのを止める。
そもそも元凶がいるのだから、文句はそっちに言えばいいし、今この場で夏樹に言っても意味がない。
「そっちもね」
そして、そのまま特に呼び止められることもなく別れれば、買い出しである。
「さて、どうするべきか」
大半の用意は終わっているからいいのだが、御神酒をどうするべきなのか、考えものである。
未成年である以上、御神酒も例外なく酒類の購入は出来ない。
両親に買ってきてもらうか、あちらのやつを少しだけ使うという手もあるけど、前者はまだ無理そうではあるし、後者に関しては気持ち的には微妙である。
「……買ってきてもらおう」
少し考え、そう決める。
レジまで持っていって、年齢確認されたら終わりである。もし騙せたり、御神酒だからと許されたりしたとしても罪悪感がすごいことになりそうなので、購入については親に投げておく。
むしろ、それぐらいは買ってきてくれ。
☆★☆
さて、と机に向かう。
冬休みだからと宿題が無くなるわけでもなく、私たちに関して言えば、あちらとこちらの二つ分あるのたから、こういう隙間時間にちょっとでも潰していかなければ苦しくなるのは目に見えている。
「……」
いつもなら家にいて、時折話し相手になってくれているハルも今年は入院なので、今は私一人である。
「明花~」
鏡を前に置いて話し掛けるが、返事はない。
「……」
テレビや動画とかを好きなだけ見たり聞いたりすればいいのだが、どうにも気分が乗らない。
――かちり。
まるでスイッチが切り替わるようにして、意識が浮上する。
「飛鳥……」
入れ替わった彼女の名前を、溜め息混じりに呼ぶ。
どうやら、宿題も一段落ついたし、やることが無くなったから、一度引っ込んでしまったらしい。
何かしたくなれば、きっと浮上してくるだろうから、それまでは表に出ていようと決める。
「まあ、やりたいことがあったからいいんだけど」
出来れば、飛鳥が知らないうちがいい――そう思いつつ、予備の転移鍵を取り出す。
「ここから先は、飛鳥も認知してないこと。私が勝手にやることだし、やったこと」
そう言い聞かせつつ、そっと予備の転移鍵を握りしめる。
もし飛鳥が予備の転移鍵が無いことに気づいたら、説明すればいい。
彼女のことだから、きっと理由に対しても怒るのだろうが、最終的に上手くいけば、彼女は「上手くいったから良かったけど」とどこかムスッとしながら言うのだろう。
「ごめんね、飛鳥」
出来ることなら、私とてしたくはない。
でも、万が一――いや、億が一にでもその可能性があるのなら、きっと潰しておいた方が、私たちにとっては良いだろうから。
とりあえず今は――予備の転移鍵を元の場所に戻すのだった。
だって私も、物語の終わりはハッピーエンドにしたいから。