水森飛鳥は、クリスマスパーティーへと赴くⅧ(急転直下)
それぞれのプレゼント交換を終え、残るは個人間で渡すものだけとなった。
「……」
ぶっちゃけ、買ったからと言って、私は無理に渡さなくても良いのだが、桜峰さんからの視線や圧が凄いので、渡さざるを得なくなっていた。
――正直、渡しにくいんだよなぁ。
というのも、桜峰さんのことが現在進行形で好きなはずの夏樹と鳴宮君に、彼女からではなく私からのプレゼントなんて渡す必要無い気がするし、もし仮に渡せたとしても、困惑させるだけだろう。
「……明花もいないし」
自分で駄目なら明花に――……なんて考えを読まれたのか、代役拒否とばかりに返事すら無しである。
いや、今までみたいにさくっと渡せば良いんだけども、それが出来ないから、困っているわけで。
「……むぅ」
「何か悩み事?」
「――ッツ!? げほっごほっ」
横から急に顔を出されたためか、思いっきり噎せてしまう。
「……大丈夫?」
「何とか、まあ……」
自分の飲み物に口を付けつつ、気持ちとかいろいろと落ち着ける。
顔を出してきた張本人は、こちらが落ち着くのを待っているのか、何も言わずに待っている。
「……それで、何か用でもあった?」
「あ、その……」
歯切れが悪いけど、多分、パーティー始まった時にしようとしていた話をしたいんだろうな。
ただ、その内容は察しが付かないし分からないから、言ってくれるのを待つしかないけど。
「……」
「……」
「……」
「……」
私はただ待っているだけなので、お互いに無言になってしまう。
「鳴宮君。用件を言ってもらえないと、私も何も言えないんだけど」
「あ、うん……」
もう心を読んだ方が早そうだけど、本人の口から言ってもらえるまで、とりあえず待つ。
「……」
「……」
「……」
「……」
互いに無言。
「話しにくいことなら、無理して話さなくてもいいから」
「いや、そんなことは……あるかも」
やっぱり、鳴宮君が何を話したいのかは分からないし、しかもその内容が何やら言いにくさそうなのを見ると、本人としてはすぐに言い出しにくいことなんだろう。
「来るとき、さ」
「うん」
「鷹藤と一緒だったじゃん」
「そうだね」
私がうっかりしていたやつね。
「その時、鷹藤に名前で呼ばれてるのを見て、その……」
「もしかして、パーティー冒頭からずっと気にしてたの、その事?」
「うっ……」
当たりらしい。
「だって、二人が名前で呼び合うことなんて……」
「呼び合ってないから」
遮るようにして悪いけど、そこだけは否定しないといけない気がした。
「私は基本的に家族や友人、夏樹以外は名字呼びだよ」
だから、何らかのきっかけでもない限り、下の名前で呼ぶことはない。
「え? でも……」
まあ、納得できない部分はあるよね。
ぶっちゃけ、鳴宮君には明花のことを説明していないから、説明するとなるとそこからになるけど……面倒くさいから説明は後回しだ。
「普通に呼んでも私が気づかなかったから、気づかせるために、滅多に呼ばない下の名前で呼んだだけみたいだし」
何も間違ったことは言ってないはずだ。
対象が、飛鳥か明花の違いなだけで。
「……そういうことにしておくよ」
何やら誤解してそうな言い回しされたけど。
「それと」
彼宛てのプレゼントを押し付けるようにして渡す。
「え、何」
「みんなが個人間で渡し合ってるでしょ」
そんな説明の仕方になったけど、まあ、言いたいことは伝わると思う。
「えっと、つまり俺宛ての……プレゼント?」
「いらないなら、返して」
「いや、いる」
確認したあと、少しだけ分かりやすく機嫌が良くなったかと思いきや、まるで返さないとでも言いたげに、押し付けるようにして渡したはずのプレゼントが遠ざけられてしまう。
「あとさ」
「ん?」
「どうしても名前呼びが引っ掛かるなら、別に呼んでくれて構わないから」
気持ち的な面が強いだろうから、案だけは出しておく。
約一名、バンバン呼んできてる人はいるけど、彼に関しては今さらだし、もう諦めてるし。
「それは……まあ、そのうちに」
視線を逸らしつつ、そう言われてしまった。
まあ、無理に呼んでもらう必要はないし、この話はここで打ち止めで良いだろう。
その後、会長が閉会の言葉を口にして、パーティーは終わることとなり。
桜峰さんから夏樹宛のプレゼントを渡してないことを指摘されたけど、家も近いし、そのときに渡すと告げれば、疑い混じりながらも納得してくれたっぽい。
☆★☆
さて、会長の家を出れば、それぞれの家へと帰るためにみんなで駅方面に向かう。
「あれ、サイレンだ」
最初に気づいたのは誰だったのか。
そちらに目を向ければ、イルミネーションに混じる赤。
あの時とは時期とか場所とか状況とか、いくつか違う点はあるけど、それでも――……
「何だ?」
「何かあっちで事故が遭ったみたい」
いろんな人がそんなことを話している。
「事故」
思わず、小さく呟いてしまう。
どうやら私は事故に遭った場所に行くよりも、状況とかで思い出す方がダメージがあるらしい。
「飛鳥、大丈夫か?」
「別に」
唯一、この面々の中で私が事故に遭ったことがあることを知る夏樹がこっそり聞いてきたけど、問題ないと返しておく。
「それじゃ、ここまでですね」
副会長がそう告げる。
そして、別れの挨拶をして帰ろうとすれば、携帯が着信を訴えてきた。
相手を確認すれば、『加納圭吾』という弟の友人の名前。
今日は友人たちで出かけるようなことを言っていたはずだが、何となく――嫌な予感がした。
「もしもし?」
『飛鳥さん、今どこですか!?』
「今? ちょっと出掛けてて……何かあった?」
こういうときの直感は当たるので、彼には答えてもらいたくないし、嫌な予感自体、外れてほしかった。
『ハルが――事故に遭いました』
一体、それを聞かされた時、私はどんな表情をしていたのかなんて分からないけど、きっと驚いていたはずだ。
ただ、手に持っていた携帯を落とさなかったのは、ラッキーだったと思う。
「それで、場所は?」
『場所は駅前です。病院はまだ決まってません。ただ、先に知らせておこうかと思いまして……』
駅前、と思わず事故が遭ったであろう場所に目を向ける。
確か、この場所は元の世界にも同じ場所があったはず……。
そんな彼の背後からなのか、救急車なのか消防なのかは分からないが、サイレンの音がしていて。
「とりあえず、私は一旦帰って、いろいろ用意してから、そっちに向かうから、それまで悪いけど――」
『はい、分かってます』
身内でもない彼らに付き添いを頼むのは申し訳ないけど、今一緒にいるのは加納君たちだ。
「私が行くまで、ハルのことお願いね」
そう告げ、彼からの返事を聞くことなく、通話を切る。
「咲希、ごめん。先に帰る」
「えっ」
桜峰さんが驚いた様子で、こっちに目を向けて聞いてきた。
「何かあったの?」
「ちょっとね」
別に言ってもいいが、付いてこられると説明が面倒なので、そう言って誤魔化しておく。
「説明は出来たら年明けにするから」
「ちょっ……!」
桜峰さんがすべてを言い終わらないうちに、先輩たちにも軽く頭を下げてから、事故があった方へと向かう。
「もし、取り返しが付かなくなったら、恨むからね。先輩――」
今はただ、春馬の無事を願うのみだ。
サブタイトルの『急転直下』、意味からすると使い方が違うかもしれませんが、これ以外の文字が浮かばなかったので。