水森飛鳥は、クリスマスパーティーへと赴くⅤ(ボードゲームはなかなか終わらない)
ボードゲーム組がいる方へ移動してみれば、私たちに気づいた夏樹が「終わったのか」と声を掛けてくる。
「結果は?」
「一抜けしました」
神原さんが二抜け、副会長が最後だったことを伝えれば、「そうか」と返される。
「で、こっちの状況は?」
「前後してるな。しかも、最後は出た目ぴったりじゃないと上がれないルールだ」
「ふーん」
そう返しつつ、それぞれの駒に目を向ける。
ちなみに、鷹藤君の相手は、桜峰さんと鳴宮君であり、同学年対決てある。
――自分のチームを勝たせるか、それとも桜峰さんのチームを勝たせるか。どうする? 女神様。
内心そう問うけど、もし『両チーム勝利』なんてそんなことされたら、こっちは堪ったものではないので、もしかしたらこのあとのゲームでは本気出さないといけないのかもしれない。
「……」
「……」
「……」
「……」
ヤバい、終わらない。
「副会長」
「何ですか?」
「もう一戦、やりません?」
終わらないのを見続けるのは大変だから、そう提案してみれば、「じゃあ別のゲームにしましょう」と同じことを思っていたのか、副会長がトランプとは別のカードゲームを取りに行く。
「皆さんもやりましょう。待ってるだけだと大変ですし」
「はーい」
そのあとは早く、場所を移り、六人(私、夏樹、副会長、鷺坂君、会長、神原さん)での第二戦。
「うわ、また飛ばされた」
「副会長。さっき負けたこと、根に持ってますね」
「持ってませんよ」
「いや持ってるだろ!」と声を大にして、そう言いたい。
だって、目に見えて私と神原さんを狙いに来ているし、そのことに気づていたのか、視線があった彼女に苦笑いされる。
「売られた喧嘩は買いますよ」
リバースカードを使い、順序を反転させる。
「うわっ、飛鳥先輩、酷っ」
対応する色(もしくは数字)が無かったのか、鷺坂君が山札から手札を追加する。
「酷くない」
「むー……」
そのあとも対応する数字か色のカードが出されていく。
「青だ」
会長が色指定したため、夏樹が青カードを出す。
「数字変えまーす」
数字だけで色変更してないので、鷺坂君以降が別の色に変えることが出来るわけだけど――……
「ちょっと、何みんなして楽しんでんの」
そんな感じで、私たちの第二戦はボードゲーム組の勝負が終わり、声を掛けられるまで続けられた。
不服そうな鳴宮君たちには悪いが、こればかりは仕方ない。
「いや、文句は分かるけど、チーム分けからして、どうしても六:三になるからね。たとえ夏樹たちをそっちに組み込んでたとしても、カードゲーム組はまた待ちぼうけになってたと思うし」
「それはそうだけどさぁー」
きっと、頭では理解できていても、納得はできないのだろう。つまり、自分たちは『省かれた』ということなのだから。
――でもまあ、三ゲームあればいい、っていう問題でもないんだよね。
たとえ種類の違うゲームがあったとしても、ルールが違う以上は、どれだけ開始時間を同じにしても、終了時間が一緒になるとは限らない。
実際、ババ抜きとボードゲームは、ババ抜きが早く終わり、ボードゲームの方は時間は掛かった。
ルール認知の差や役割決め等もあるんだろうけど、それをもしボードゲーム組が席に着いた時点で決めていたとしても、それでもババ抜きの方が早かったのかもしれない。
「それで、次は何をやるんですか?」
桜峰さんが尋ねる。
「ああ、次はこういう大人数の時には必須というか、珍しいというか、うん」
珍しく歯切れが悪い先輩だが、取りに行った道具がちらりと見えたことで理解した。
「『王様ゲーム』ですか」
「あ、分かりました?」
「王様ゲーム……?」
あー、知らない人がいたかぁ……。
「簡単に言うと、配役ゲーム。王様を示す印と残りの人数分の数字の書かれたクジがあって、王様に選ばれた人は数字だけを指名して、いろいろと命令して実行させることができる」
「いろいろ?」
「ん、いろいろ」
「あ、それってもしかして――」
「せっかくぼやしてたんだから、黙ろうか」
人がせっかく誤魔化してたのに、何で口にしようとするかね。この後輩は。
「まあ、水森さんがルールの大半を説明してくださったので、一回やってみましょうか」
嫌な予感しかないけど、みんながやると言っているのだから、やるのだろう。
「先輩方」
「何だ?」
「ルール確認です。もし、やりすぎと思えるような『命令』が出た場合、どうしますか?」
「あー、そうだな……」
こういうのって、絶対に出ないと言い切れないのが悩ましい点なんだよな。
「あからさまだろうとなんだろうと、やりすぎと判断したものは、『変更』できることにしましょう」
「やっぱり、そうするしかないですよね」
まあ、その辺が妥協点なんだろう。
もし、性的な何かを言ってきたら、ジャンルごった煮で大音量を耳に流す刑に処すまでだ。