水森飛鳥は、クリスマスパーティーへと赴くⅣ(勝ちたい相手)
何か勝負するに辺り、『目的』というものが存在する。
とある大会に出場したとして、その大半は『優勝』という目的の人たちが多いのだろうが、『自分の実力試し』という目的で参加している人たちも居れば、『勝ちたい/勝たないといけない相手』が出ているからという人も居るのだろう。
――それじゃ、私は?
そんなの決まってる。
――『やるからには、勝つ』だ。
☆★☆
私が参加したのは、『カードゲーム』である。
それについては、別に良いのだ。
ただ、その代表者が問題なだけで。
「貴女方になりましたか」
「そうですね」
「お手柔らかにお願いしますね、先輩方」
私と、副会長と、神原さん。
よりによって、この面子である。
ぶっちゃけ、副会長はどうにかすることができるが、女神が居るであろう神原さんは厄介でしかない。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします。副会長、神原さん」
そう挨拶をするわけだが、もうすでに勝負は始まっているので、互いに探りを入れ合う。
正直、『カードゲーム』な時点で、運営サイドに近いであろう副会長が、カードに何か仕掛けていてもおかしくはないんだが……
「……」
「……」
「……」
それでもやっぱり、神原さんに警戒心が出てしまう。
――まぁそもそも、イカサマとかさせるつもりは更々ないけど。
もし、イカサマして来たら――やってやろうじゃないか。
副会長からのルール説明を聞きながら、そう思う。
「それじゃ、ディーラーもいらない純粋なババ抜きを始めましょうか」
「はい」
「そうですね」
そして、副会長、私、神原さんの順でこれから使うであろうトランプをシャッフルしたあと、副会長の手によって、それぞれの手元にカードが配られる。
手札をざっと確認し、ダブったカードを捨てればゲームスタートである。
ちなみに、カードを引く順番もシャッフルした順番で、私は神原さんに手札を引いてもらうことになる。
「二人は、ババ抜きは強い方ですか?」
「さあ、どうなんですかね」
「子供の頃にやって以来なので、今は分かりませんね」
そう話しつつ、手札を回していく。
カードを取るときは同じカードが来るように願いつつ、ジョーカーが来たなら、次の人に取らせるように工夫する。
「……」
「……」
「……」
話していたのは最初だけで、手札が少なくなるほど全員黙り込み、相手を嵌めようとする心理戦はどんどん深くなっていく。
――さて。そろそろ代わる?
――ううん、大丈夫。
明花に声を掛けられたので、そう返しておく。
状況がヤバくなったら代わりたいところだし、そうなる直前で代わるのが最善なんだろうけど……
――まだ、その時じゃないから、必要ないよ。
そもそも、自信が無いだけで、勝てない訳じゃない。
ジョーカーがまだ手元に無いけど、相手を抜けさせないためなら、手持ちカードの位置を変えることだってやる。
ああでも、明花とあえて変わるというのも手なのかもしれないけど、女神側が明花の存在をまだ認知していないのなら、悪手になりかねない。
でもやっぱり、勝ちたいし――……と考えつつ、副会長から引いたカードを確認して、ペアとなった手持ちのカードを捨てる。
「……」
「……」
「……」
一体、何周ぐらいしたんだろう。
もうみんな手札の数が少なくなってきた。
「……あ」
「……おや」
「……えっ」
均衡が崩れ、声を洩らせば、手元のカード数はゼロ。つまり、一抜けである。
「終わりですね」
手元のカードが無いことを示すかのように、両手の平を二人に見せる。
そもそも、手元のカードが少なくなれば、誰かが抜けるのは当たり前だし、今回はそれが私だっただけである。
さて、私が抜けたことにより、副会長は神原さんから、神原さんは副会長からカードを抜かなくてはならない。
「さあ、先輩。どっちでしょうか」
副会長の手持ちは一枚、神原さんの手持ちは二枚。つまり、ジョーカーは神原さんの手元にあるのが分かるのだが、副会長がどちらを引くのかによって、この勝負の行方と長さが決まる。
ぶっちゃけ、一抜け出来た時点で、どちらが勝手も負けても、そんなにダメージはないのだが――……
「はい、どちらでしょうか」
「……」
「……」
どうやら、副会長がジョーカーを引いたのか、勝負は続行らしい。
ちらりと、ボードゲーム組の方に目を向ければ、あちらはあちらでまだ終わらないらしい。
――こっちも、長引きそうな気がする。
たった三枚のカードのやり取りだと言うのに、何で手元をシャッフルしては、お互いにジョーカーを引き合うのやら。
いや、女神がそうしてる可能性があるのだが、確証もないので、断言できない。
「水森さんが何だか退屈そうなので、何かお話でもしましょうか」
「別に気を使わなくていいですよ。あの枚数だと、私でなくても、二人のどちらかが抜けていた可能性もありましたし」
「でも、手持ち無沙汰そうですし、話ぐらいしませんか? ボードゲーム側も終わってないみたいですし、私たちのを見てるだけだと、退屈ですよね?」
さっさとゲームに戻したいのに、あまり変わり映えしない光景が嫌になってきたのか、神原さんまでそう言ってくる。
「……話題、どうするんですか」
私の人に話せる持ちネタなんて、そんなに無いんだけど。
「いくらでも、ありますから大丈夫ですよ」
いくらでも、って……
副会長に笑顔で言われると嫌な予感しかしないし、「例えば?」なんて聞いてみたなら、墓穴掘ることになりそうなので、黙っておく。
「そうですね……たとえば、『恋話』とか」
「うわ……」
「何ですか。その反応」
何か文句言うよりも前に、感想が洩れてしまったせいで、副会長に何とも言えない目を向けられる。
「別に何でもありませんよ」
「あ」
ただ、ネタが無いだけです。
そんな会話をしつつババ抜きを進めていれば、神原さんの手札が揃ったのか、彼女の声が洩れる。
「二抜けです」
「僕が最後ですか」
特に不満そうにすることもなく、副会長は肩を竦めてそう告げる。
「それでは、カードゲーム組の結果は、水森さんが一位、神原さんが二位、僕が三位ということで良いですか?」
「はい、それで大丈夫です」
「何をどう言われたとしても、それが事実ですからね」
もし副会長が自分を一位だとか言い出したら文句言うつもりだったが、そんなこと言うような性格の人でないことは分かってはいるので、それ以上のことは言わない。
「さて、と。それじゃ僕たちは、ボードゲーム組の様子でも見ますかね」
副会長の言葉に同意しつつ、ボードゲーム組のいる方へと場所を移動する。
さてはて、あちらはどうなっているのかな?