水森飛鳥は終業式の日を過ごすⅡ(贈ることの出来ない贈り物)
水森飛鳥。現在、生徒会室の暖房前でお茶を掛けられ、濡れた部分を乾かしております。
横には桜峰さんも居て、冷えた体を暖めている。
そもそも、いくら防寒着を着ているとはいえ、長いこと外に居れば、冷えるのは当たり前である。
「で、だ。水森」
「何ですか」
「この一言は無いだろ」
会長に画面をこちらに向けながら、そう言われる。
その画面にあったのは、私が面々に一斉送信した文面である。
『咲希を校内(外)で発見。すぐ来るように』
「外と言うが、広すぎて、捜すのに時間かかったぞ」
「情報少なかったから、あちこち捜し回ったよねー」
あの二人だけではなく、本当に捜し回ってたのか、机にへばりついて、疲れたような声で後輩庶務が言う。
「位置的に説明しにくかったもので」
別に、面倒くさかったわけではないのだ。現に、このうち二名が見つけたわけだし。
「とりあえず、怪我とか無くてて良かった」
被害と言えば、お茶は掛けられたぐらいだしね。
ただ、あちこち拭きながら生徒会室に戻って来れば、待機していた副会長にぎょっとされて、どういうことだと説明求められたのは仕方なかったことだけど。
「そうだね」
私がもう少し遅かったらどうなっていたか分からないけど、結果的にこれで収まったのだから、良いとも言える……はずだ。
「とりあえず、二人とも。風邪にだけは気を付けてくださいよ」
私は濡れたし、桜峰さんは寒い場所に居たからなのか、副会長は一応、心配してくれているのだろう。
それに、クリスマスパーティーもあるからね。
「まあ、風邪を引いたら、連絡しますよ」
私も参加することになってるし。
ただ、桜峰さんが不参加になった場合は、中止なんだろうけども。
「ええ、そうしてください」
副会長の、含みがありそうな笑顔が怖い。
「……」
「……」
その後、作業する彼らの横で、乾いてきたのを確認すれば、荷物を手元に引き寄せる。
「帰るのか?」
「うん。乾き終わったし」
こちらの様子に気づいた鷹藤君に頷けば、「そうか」と返される。
「咲希はどうするの?」
「え」
普通に聞いただけなのに、何で驚かれないといけないんだ。
「避けられてた人に誘われるような聞き方されたら驚きますよねぇ」
後輩庶務の言葉に、ああそうかと納得する。
「また、さっきみたいなことが無いとも言えないから、今出ていくなら一緒に行こうかと思っただけだけど」
さすがに一日に何度もあるとは思えないけど、私が帰った後に同じことがあっても困る。なので、聞いてみたのだが……
「あ……」
桜峰さんの視線が、私と彼らの間を行ったり来たりする。
正直、一緒に行くなら行くで良いし、行かないなら行かないで良いのだが。
「まだ、良いかな」
「ん、分かった」
桜峰さんがそう決めたのなら、私もそれに従うまでである。
「それじゃ、お先に失礼します」
別に生徒会役員というわけでも、何かやるわけでもないけど、とりあえずそう挨拶して、生徒会室を出る。
「飛鳥!」
後ろからいきなり呼ばれて振り返れば、慌てて追いかけてきたのか、どこか焦ったような様子の桜峰さんがそこに居た。
「え、何。どうしたの」
「お礼、行ってなかったから」
「お礼」
「助けてくれたお礼」
用件を聞けば、わざわざお礼を言うために追いかけてきたらしい。
「別にいいのに」
「駄目だよ。いつも助けてくれてるのに、まともにお礼言えたこと無かったし……」
だから、今回は言いたかったのだと、彼女は言う。
「だからね、いつもありがとう。私が困ったとき、助けてくれて」
「……」
これ、何て返すのが正解なんだろうか。
私が彼女を助けたのは、彼女のためじゃ無いのに。
「飛鳥はさ。私のことをどれだけ助けてくれたとしても、お礼は要らないって言うんだろうけど、私は何度でも言うから」
「……」
「だから、もう一回言うよ」
――来てくれて、助けてくれてありがとう。
「……そんなに言われても、困る」
「そうだろうね」
逆の立場なら私でも困るし、と桜峰さんは言う。
「でもこれは、私の本心だから」
「十分、伝わったよ」
私が見た『桜峰咲希』という人間に、そういうところがあることは、分かっているから。
「それじゃあ、私は帰るから」
「うん」
そう言って、その場を後にしようとして、少しだけ後ろを振り返ってみれば、桜峰さんの生徒会室に戻る後ろ姿が目に入る。
「……挨拶してから行こう」
明日から冬休みに入る以上、約二週間は雪冬さんと会えなくなるため、休み中に顔出しする予定も無いため、今年最後の挨拶をしてから帰っても良いはずだ。
☆★☆
「そっか、もう終業式かぁ」
早いなぁ、とそう雪冬さんは笑いながら告げる。
「多分、休み中に顔出ししないと思うので、挨拶に来ました」
「ん、分かってるよ」
「それ、と……」
鷹藤君から話を聞いたこと、言った方が良いんだろうか?
「話、聞いた?」
「え」
「鷹藤君から」
察されたのか、鷹藤君本人からその事を聞いたのか。
けれど、その事は事実なので、「はい」と答えておく。
「そっか、話したのか」
「忘れた方がいいのなら、忘れますが」
「いや、忘れなくていいよ。寧ろ、忘れないでいてほしい」
「分かりました」
正直、何でその言い方をしたのかは分からないけど、雪冬さんが言うのなら、出来る限り忘れないようにしよう。
「そういえば、鷹藤君と疑問に思っていたんですが」
「何かな?」
「その、夏樹が女神の影響なのか、記憶に齟齬が出ているみたいで。でも、鷹藤君には出てないのは何でだろうって……」
「ああ、そういうこと……」
聞きたいことについては理解してくれたのか、視線が逸らされる。
「だから、もしかして――」
「飛鳥ちゃん」
内緒とでも言いたげに、しー、と彼女は人差し指を自身の口元に当てる。
「そこはまだ、秘密」
「……」
「バレて困るって訳じゃないけど、厄介なことにはなりそうだから、予想や推測が出来ても口にしたら駄目」
つまり、それが答えということなのだろう。
「分かりました。あと、一つだけ謝らないといけないことがあって」
「ん?」
「クリスマスプレゼント、贈ることが出来そうにありません」
せめて――せめて、これだけは実現させたかったのに。
「何だ、そんなことか」
「確かに『そんなこと』なのかもしれませんが、多分、明花にも謝られるとは思いますし、何より私たちで考えたことなので謝っておきたいんです」
たとえ何を言われることになったのだとしても、雪冬さんは喜んでくれることだったのだろうから。
「本当に気にしなくていいのに。私こそ何もしてあげられていなくて申し訳ないんだから」
雪冬さんはそう言ってくれるけど、ネタバレするべきなんだろうか。
プレゼントにしようとしていたのが、どんなものなのか、を。
「……」
「……?」
口を開こうとして、不思議そうな目を向ける彼女を見て、何かを発することなく口を閉じる。
「もう、帰りますね」
「うん。風邪を引かないようにね」
そう告げられ、荷物を持ち、そこから出ようとすれば、「飛鳥ちゃん」と呼ばれる。
「少し早いけど、メリークリスマス」
「っ、」
「あと、今年はどうもありがとう。貴女に会えたことが、一番嬉しかったよ」
「……雪、冬さん」
微笑んでくれているのは、こちらを励まそうとしてくれているのだろうか。
「だから、来年もまたよろしくね」
「――ッツ!!」
これ、絶対にどうにかしないといけないやつだ。
「あと、無理だけは、しないように」
「……分かってますよ」
何度も何度も何度も――考えたし、思ったことだ。
たとえ何らかのフラグが立つことになろうとも、私は私の役目を果たさないといけない。
「雪冬さんも、メリークリスマス。そして、来年もまたよろしくお願いします」
そして、そう返すと、今度こそその場を後にする。
「何も、問題ない」
その足は止まらない。
「私の――私たちの能力を見誤るなよ、女神様」
私にも明花にもあるのが、神崎先輩たちに与えられた能力だけだと思われていては癪である。
けれど、ネタバレするわけにもいかないので――……
ニヤリと、どこか『彼女』にしては悪そうな笑みを、飛鳥は浮かべる。
鏡や窓越しに彼女を見ていた明花は、彼女の中で溜め息を吐く。
体の持ち主であり主人格である以上、彼女がどうしようが、この状態の明花には意見を言うこと以外、何もできない。
『受け持てるかな、これは』
いや、そもそも無理なことは百も承知だが、飛鳥の『裏』の一部を受け持たなければ、そもそも存在意義が無いようなものである。
『けどまあ、いっか』
明花にだって、『裏』が無いわけではない。
それに、飛鳥が言ったではないか――『私たちの能力を見誤るな』、と。
『貴女が許可さえしてくれれば、私はいつでも全力出して、対処するからね。飛鳥』
それまではしばらく休んでおこう。
たとえ、またすぐに起こされることになるのだとしても。




