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水森飛鳥は終業式の日を過ごすⅠ


 二学期最後の出来事と言えば、終業式である。

 学園長の挨拶などを聞いたり、校歌を歌ったりして、終業式は進んでいく。

 そして、終業式が終われば、二学期最後のHRであり、通知表だとか、冬休み中の宿題やその提出日一覧とかが配られる。


「……」


 ぶっちゃけ、冬休みに入ってほしくない。

 いや、冬休みは良いんだけど、冬休み中も桜峰(さくらみね)さんたちと顔を合わせることを考えると、気が重くなる。

 以前ならともかく、距離を取ってる今は、さすがに気まず過ぎる。


「……」


 ドタキャンしてやろうかとも思ったけど、誤魔化せそうにない人たちが数人いる時点で、それも難しいのかもしれない。

 完全にHRが終われば、あとは帰るだけである――のだが。


飛鳥(あすか)ちゃーん」

「成績、どうだった?」


 帰り支度を終えたらしい(かなで)ちゃんと真由美(まゆみ)さんが声を掛けてくる。


「可もなく、不可もなく。平均的だよ」


 得意分野はまあ、良い方だけど。


「私はね、成績上がってたよ!」

「おー、それは良かったね」


 奏ちゃんの通知表を見てないから何とも言えないけど、本人が言うことだし、上がってたのは良いことだと思うから、素直にそう告げる。


「真由美さんは?」

「私は特に変化ないね。どこかが上がれば、どこかが下がるから、バランス取れてるし」

「いや、そこは上がったやつは下がらないようにしようよ……」


 確かにバランスは良いんだろうけど、そこは下がらないようにするべきなんだろうに。


「……」

「どうしたの?」


 何か言いたそうだというのは、その表情から分かったけど、何を言いたいのかが分からない。


「次に会えるの、年明けなんだなって」

「ああ、そっか……」


 桜峰さんたちにはクリスマスに会うことになってるけど、奏ちゃんたちには三学期の始業式まで会えないのか。


「ほらほら、飛鳥まで落ち込まない。会えないと言っても、約二週間でしょ? 怪我とかにさえ気を付けてれば、ちゃんと会えるんだからさ」

「それもそうだね」


 真由美さんの言う通りである。


「えーっと、それじゃ私たち帰るから」

「うん」

「少し早いけど、よいお年を!」

「よいお年を」


 そう挨拶し終わると、二人が荷物を持って、教室を出ていくのを見送れば、こっちも手早く帰り支度を進めていく。下手に時間をずらして、変なのに引っ掛かりたくはないしね。





 ……そう思ってた時が、私にもありました。


「や、水森(みずもり)先輩」

「……」

「待て待て、水森。逃げるな」


 姿が見えたから、気付かれる前に逃げようかと思ったのに、見つかって捕まった。


「……何」


 こんな日まで関わりたくなかったんだけどなぁ。


咲希(さき)先輩、見てない?」

「見てない」


 そもそも、今日は姿すら近くで見てない気がする。珍しく話しかけられてもないし。


「え、本当に?」

「本当に」


 こんなことで嘘は吐かないんだけど……


「え、何。そっち行ってないの?」

「いつもなら来てる時間なのに、来なかったからね」

「五分や十分ならともかく、三十分はな」


 桜峰さんがどのタイミングで教室を出たのか分からないけど、奏ちゃんたちと話していた私よりは先に出ていたはずだし、そもそも――彼女の性格からして、何の連絡もなく帰ったり、行かないわけが無さそうなのだが。


「もし、捜してるって言うのなら、手伝うけど」

「え、いいの?」


 学園祭の時みたいなことが起きてないとも言えないので、とりあえずで言ってみたら、驚かれた。


「捜すだけなら、別に良いよ。それに、この後は特に用事も無いし」


 本当に(・・・)捜すだけで良いのなら、手伝うんだけどね。


「それじゃ」

「ん?」

「行くか」

「んん?」


 捜すとは言ったが、何で私は後輩に両肩を掴まれ、同学年の人に誘導されてるんだろうか。


「ちょ――」


 そこから向かったのは、やはりと言うべきか、生徒会室。


「飛鳥先輩が咲希先輩を捜すの、手伝ってくれることになりましたー」

「……」

「その彼女が物凄く不服そうな顔をしてますが、何て言って連れてきたんですか、君たちは……」


 後輩庶務の説明に不服そうな顔をしたからか、留守番組なのだろう副会長から呆れたようにそう言われた。


「別に、咲希先輩を捜してるって言ったら、手伝ってくれるって言ってくれたから、連れてきただけですよ?」

(あきら)?」

「ほぼ間違ってませんよ。水森が了承したのは事実ですし」


 副会長としては信じていないわけではないんだろうけど、どうやら私にも確認したいのか、目を向けられる。


「捜すのは、確かに引き受けましたけど、ここに連れて来られるのは予想外ですよ」


 いや、もっと落ち着いて考えれば、分かったことだろうけども。


「それで確認しますけど、咲希は来てないんですよね?」

「来てませんね。連絡もありません」

「……」


 先ほど二人から聞いた通り、副会長の方も同じらしい。

 そうなると、桜峰さんを逆ハーレムにしたい女神が関与しているとも思えない。


 ――いや、そうするためのイベントとかは起こしそうだけど。


「とりあえず、あの子が帰っていないことを願いつつ、捜しますよ」

「すみません」


 別にこっちが協力するって言っているだけなので、謝られるのは違うんだけども。


「それじゃ、行ってきます」


 後で引き止められないためにも、荷物は持っていくけど。


「……また文化祭の時みたいになってないといいけど」


 何故、自分があんな目に遭うのか、分かっているのかいないのか――いや、何となくでも察しは付いているんだろうけど、この学校で親しいと言える存在が彼らを除くと数えられる程度だし、割と近かった私と距離を取ったから、ちょうどいいとばかりに狙われたのか。


「とにかく、校内に居るのかだけは確認しないとね」


 ここ最近、あまり使っていなかった異能を起動させる。


「『標的(ターゲット):桜峰咲希 存在する声の下へと導け』」


 頼むから、校内には居てくれよ?


   ☆★☆   


 何と言うか、何とも見覚えのある光景である。


「二学期最後に、マジでこんなこと起こさないでほしい……」


 何で、文化祭の二の舞をやっているんだろうか。あの子は。


「前に言ったよね?」

「分かってなかったの?」


 以前とは一部の顔ぶれが違うから、メンバーを変えてきたんだろう。


「っ、」


 ふむ……あの子。こうなる理由を分かってるけど反論できない、が正解か。

 けれど、それが相手の彼女たちの苛立ちの原因にもなっているんだろう。


「人数が人数だから連絡したけど、間に合うかどうか……」

「あんた、何やってるの?」


 おっと、見つかったらしい。


「っ!?」


 桜峰さんの方を向いていた人たちも、こっちに気づいたらしい。


「……誰かに連絡してないでしょうね?」


 おお、怖いお嬢様方である。


「してませんよ。したとしても、来ると思いませんし」

「……貸しなさい。確認するから」


 どうやら、疑われているらしい。

 まあ、そうなるよね。私でも疑うし。


「お断りしますよ。プライバシーに関わることなので」

「っ、やっぱりどこかに――」

「実際にやってようがやってまいが、渡しませんよ?」


 何で、凄めば渡すと思われているのだろうか。


「とりあえず」


 桜峰さんの方へと移動する。


「この子は返してもらいますよ。捜してる人が多いので」

「飛鳥……」


 ようやく声を出せたらしいお姫様が、こちらを見てくる。


「無事で良かったよ」

「うん……」


 何とか返してくれてはいるけど、不安だったのか、軽く腕を握られる。


「っ、なるほどね。あんたもその子側ってわけだ」

「別に、この子側ってわけじゃないですよ」


 そう見えるのかもしれないけど。

 でも、さすがに私一人でこの人数を捌くのは無理なんだよなぁ。


「それで、どうするんですか。帰らせてもらえるんですかね?」

「そんなわけないでしょ」


 ですよねー。そう簡単に行くのなら、もうとっくに解放されているはずだろうし。


「……」


 さて、一番最初にこの場に駆けつけて、この状況から助けてくれるのは誰なのか。

 桜峰さんさえ回収してくれれば、後はこちらでどうにか(しようと思えば)出来るんだけども……


「っ、何か言いたいのなら、言えばいいでしょ!」

「大体、貴女だって――」

「私が、何?」


 もしかして、去年のことを言いたいのだろうか?


「まさか、もう終わったことについて、蒸し返したいの?」


 何度か話した(・・・)ことはあるけど、まだ、あの時の人たちの方が聞き分けは良かった。

 けれど、もし蒸し返すつもりなら、私は口を出さないと行けない。


「もし、そのつもりなら――あの時とコレ(・・)を一緒にしないでもらえる?」


 やっていることが似ているのだとしても、まだあちらの方がマシだったし、一緒にするのは可哀想だ。


「っ、そもそも何で貴女たちみたいなのが――!!」


 あ、何かされると思ったら、次の瞬間には何か掛けられたらしい。


「……」

「あ、飛鳥……」


 どうやら、持っていたペットボトルの中身をぶちまけられたらしい。

 掛けられた感覚と、ぽたぽた落ちる雫で、その事を理解した。

 うん、けどね――


「……お茶は、人に掛けるものじゃなくて、飲むものですよ?」


 こっちの制服、調達するの大変なのにどうしてくれるんだ。いや、被害の大半はその上に着ていた防寒具だけども。

 それに、クリスマスに風邪引いて過ごすの、嫌なんですけど。


「はい、現行犯ね」

「あと、水森。顔も気も引っ込めろ。正直、怖いぞ」


 ようやく助けが来たかと思えば、生徒会室に居なかった二人が、最初に来たらしい。

 鳴宮(なるみや)君は逃げられないようにするためなのか、ペットボトルを持つ彼女の手首を持ってるし、会長からはそう言われてしまった。

 凄んではいたはずだけど……そんなに怖い?


「それよりも早く拭かないと……」

「気持ちは有り難いけど、別に大丈夫だし、自分で拭けるから……」

「でも……!」


 ハンカチ取り出して、濡れた部分を拭こうとしてくる桜峰さんを何とか止めようとするが、どうやら諦めてくれる様子はない。


「せめて、これぐらいはさせてよ……」


 彼女には彼女の考えや思いがあるのかもしれない。


「でも、汚れるよ?」

「別に良いよ。本当なら被ってたの、私かもしれないし」


 それは否定できない。

 けれど、実際は私に掛けられたわけだし、もし彼女の言う通りだったとしても、この子に掛かる前に庇っていたのかもしれない。


「とりあえず、移動するぞ。生徒会室なら乾くだろ」


 一緒にいた彼女たちの確認を終えたのか、会長がそう告げてくる。

 確かに、暖房点いてるあそこなら、乾くかもしれないけど……


「逃げようとか考えるなよ?」


 ……どうやら、そのまま放り出すつもりはないらしい。


「逃げませんよ」


 桜峰さんに拭かれてるし、逃げようにも腕掴まれてるし。

 とりあえず、隠すように置いておいた荷物を回収して、三人と一緒に生徒会室に向かう。

 ああもう、すでに気が重い……


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