表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クライム  作者: 三風
2/2

<一章> 僕

〈第一章〉僕




 僕は普通の高校生だった。別段賢い訳でもなく、かといって特別スポーツができるという訳でもない。いわば、人生の通信簿がオール三のような人間だった。

 さらに言えば、学校でいじめられているだとか、“家族”と折り合いが悪いという訳でもない。

 本当に僕という人間は、突出したところのない、平々凡々とした奴だったのだが。

 父さん、母さん、兄貴、春香。


 僕はこの世界にたった四人の“家族”を、一人残らずこの手にかけた。


 そうして僕は自由を得たはずだった。孤独など恐れてはいないはずだった。なのに、なぜだろう。全員の命が消えた日から、眠る度に、“家族”の笑顔の夢を見る。なぜ僕はこんなにも苦しんでいるのだろうか。自らが望み、企み、手を下したというのに。わからなかった。

 言い様のない恐怖に呑まれていく。この感覚はひどく恐ろしくて、怖い。さながら、恐怖する事に恐怖しているとでも言うのか。目を覚ます度に、僕が壊れていくのがわかる。


 紛い物の“家族”と偽りの僕。磁石の同じ極が引き合えないように、“家族”と僕は真に向き合えてはいなかった。平凡に隠れた矛盾が、ひたひたと僕を侵した。

 小さな頃は“家族”になんの不満もなくて、時には厳しい父さんと、温かい母さん。二つ上でスポーツのできる兄貴と、三つ下で勉強のできる妹。僕だけが何もなかった。いや、僕には何もなかったと言うべきなのか。どちらにせよ、僕の平凡さは“家族”を乱す重大な要素だった。

 僕は平凡なままでよかったのに。“家族”の出来が良すぎたせいで、僕の平凡さは覆い隠されていった。そのことは僕にとって、ひどく息苦しくて邪魔なことでしかなかった。

 父さんは頑張れと言った。

 母さんは僕らしくていいと言った。

 兄貴は勉強すればいいと言った。

 春香はスポーツをすればいいと言った。

 均整のとれた良い言葉達は、僕を締め付けた。出来損ないの僕に被せられたかさぶたは、僕を傷付けたのだ。

 何が不満かと人は言うだろう。

 僕自身が平凡だからこそ、僕は平凡を嫌った。

 中学生あたりから、日増しに“家族”を遠ざけるようになった。ただの反抗期に見えたそれは、僕の悪意が成長していく姿だった。

 高校生にもなれば、僕を支配するものの大半が悪意になっていた。すでに、僕でさえ手をつけられない程に育った悪意は、僕の中の僕を二つに分けた。そして、いつの間にか僕は、数え切れないほどに細かい僕に別れていった。

 僕が僕でなくなっていくのを、僕でない僕が見ていた。

 苦痛は恐怖を生み、恐怖は悪意を育て、悪意は混乱を呼んだ。


 そして僕は“家族”を殺した。


 ゆっくりと。

 その罪を体に刻みながら。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ