<序章>
〈序章〉
深い、深いまどろみの中で、ガラス一枚を隔てた向こうに、僕の“家族”がいた。皆の笑顔の中に、僕はなかった。誰にも、何も届かなかった。それはひどく恐ろしくて、悲しくて、僕の孤独を浮き彫りにした。そして、気づくと僕は泣いていて、あまりに苦しくて、息もできなくなるほどに泣いていた。
ふと目が覚めると、やはり僕は泣いていた。
今日も起き上がる気にはなれない。消えたままの部屋の明かりと、閉められたままの厚いカーテンは、僕を光から隔絶していた。そして、辺りを覆う無機質な暗闇は、現実から離れてゆく思考を、再び現実へと引き戻す。
日付も時刻もわからない。いつから食事をしていないのかは不明で、従っていつから排泄もしていないのかもわからなかった。心身が衰弱しきっていて、もう起き上がろうとしても叶わない気さえして。これでは、ただの人でなしだ。いや、もはや生物とも呼べなくなってきたのかもしれない。
このままこうしていれば、父さんが、母さんが、兄貴が、妹が、僕を起こしに来るかもしれない。こんな下らない妄想で、僕は淡い何かを作り上げていた。
僕は独りじゃない。
そんな期待をしてしまう。僕の中には、ひどい矛盾が渦巻いていた。
僕の中の僕の一人は、孤独を感じていた。
僕の中の僕の一人は、恐怖を感じていた。
僕の中の僕の一人は、安堵していた。
僕の中の僕の一人は、罪悪感を抱いていた。
僕の中の僕の一人は、達成感を抱いていた。
僕の中の僕達は、いくつにも別れていた。
現実を畏怖して泣いている者と、現実に嬉々としほくそ笑んでいる者。
僕を取り巻く現実の中に、一つだけ明確な真実があった。それは、僕だけが知っていて、僕だけを蝕んで、僕だけと焦点を合わせている。僕は、何に対する感情が何なのか、起きている間は少しも理解できなくなって。意識が薄れて行けば行くほど、僕は人でいられる気がした。
そんな壊れた僕の、醜い話を聞いてほしい。
僕の真実を語ります。