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<SIDE Alex & A Merry-go-round>

<SIDE Alex & A Merry-go-round>


「まだかな、あいつ。もうじき止まっちまうじゃねぇか」

「お待たせ、アレックス」

 アレックスが振り向くと、マリオンがさっきの少女、フェリシアを連れ、腕にはジュールを抱いて立っていた。

 いつのまにか彼の髪は緑色の細いリボンでくくられていて、ジュールの手が届かないようになっている。

「何だ? 二人とも家に帰したんじゃなかったのか?」

「大丈夫。お母さんには、ちゃんと断って来たからね。はい、アレックス」

 言いながらマリオンは、腕のジュールをアレックスのほうへひょいっと向けた。

 人見知りをしないジュールは、にこっと笑うと、「にーたん」と言いながらアレックスにしがみついた。

「おう、元気そうだな、坊主」

 アレックスはマリオンの意図を図りかね、とまどいつつもジュールを抱き取り、笑顔を向けて見せた。

「よかったな、怪我しなくてよ」

 ジュールがアレックスにしがみついて楽しそうに笑った。


 ちょうどそのとき、回転木馬が止まった。何人かの子供たちがにぎやかに降りてくる。

「じゃ、乗るよ? アレックス。ジュールを落っことさないようにね」

 マリオンはそう言うなり、フェリシアと一緒に木馬のほうへ歩き出している。

「おい? なんのつもりだ?」

 アレックスが大声で叫ぶが、マリオンは振り向きもしない。

 彼はフェリシアの手をとると、優しくエスコートしながら白い天馬の引く可愛らしい馬車にさっさと乗り込んだ。


「アレックス、黒い龍が空いてるよ。早く乗ったら?」

 涼しい声が馬車のほうからかかり、呆然としていたアレックスにもようやく事態が飲み込めた。

「ぁんの野郎!」

 文句を言おうとするアレックスに、タイミングよく係員が声をかけた。

「どうするんです? 乗るんですか? 乗らないんですか?」

「・・・・・・! おうっ、乗るともよっ!」

 アレックスはしかたなくジュールを抱いたまま、黒龍に乗り込んだ。

 大きな黒龍には手すりとベルトがついた幼児用の席もあって、係員はジュールをそこへ座らせた。


「いいですか? このレバーを引くと、龍が火を吹きます。お子様はベルトで固定いたしますが、念のために手を離さないでくださいね、お父さん」

「え? お、お父さん? おれか?」

 返す言葉が見つからないまま、アレックスがあんぐりと口を開いているうちに、係員はどこかへ行ってしまい、回転木馬は無常にも音楽とともに静かに回り始めた。

 振り向いてみると、可愛らしい馬車の中で明るく笑いながら、少女と熱心に何か話し込んでいるマリオンが見える。

 確かに、これならいい年の男が乗っていてもおかしくはない。

 片方は恋人同士か、あるいは妹にせがまれつきあっている兄といった風情、もう片方は幼い息子を乗っけた子煩悩な父親・・・・・・か?

「マリオンめ! あとで覚えてろよっ! 締めてやるからなっ」

 アレックスは、こぶしを握り心に誓う。

「にーたん、ひ、はく?」

 ジュールの声に、アレックスはふと我に返った。

「おぅ! 待ってろよ。火ぃ吐くぞ!」

 係員に教えられたとおり、手元のレバーをくいっと引くと、ぐぉぉーっという声をあげて、熱をもたない白い蒸気が勢いよく黒龍の口から吐き出された。

「おおっ?! いいな、これ! もっかいやるぞ?」

 きゃっきゃと声をあげて喜ぶジュールと一緒に火を吐く黒龍を楽しみながら、アレックスはすでにもうさっきの誓いは忘れ果てているのだった。


<一時、幕>


<Unnecessary Addition> ――蛇足――


 回転木馬に誘われて、アレックスのもとへ赴くべく、ジュールを抱いたマリオンと並んで歩くフェリシアは、彼の髪からほどけて飛んでいったリボンのことを思い出した。

 なにしろジュールが盛んに彼の髪をつかんで引っ張っているのだ。どうやら柔らかでつかみ心地がいいらしく、小さな手の割に容赦のない力で思い切り引っ張り、振り回している。

 その度に彼は「痛いよぅ、ジュール。放してくれー」と、それでも笑いながら優しくジュールの手をひきはがしている。

 まるで優しいお父さんみたい、それともお兄さん、かしら? とフェリシアは胸の中でこっそり笑いながらつぶやいた。


「あの、これ、よかったら使ってください」

 フェリシアは、自分のしていた三つ編みから緑のリボンを二本ともほどいて差し出した。

「あ、ありがとう。でもいいのかな? 君のお気に入りのリボンなんじゃない?」

 フェリシアはかぶりをふった。

「いいんです。もしあなたが嫌じゃなかったら使ってくださったほうが嬉しいんです」

「そう? 助かるよ。じゃあ簡単にでいいんだけど、結んでもらえるかな?」

 フェリシアはうなずいて彼の後ろに回り、背の中ほどで手早く髪をひとつにまとめ、丁寧に二本のリボンで結んだ。


「せっかく似合ってたのに、ほどかせてしまって悪かったね。ありがとう、フェリシア」

 お世辞だとしても、ちゃんと自分を見ていてくれたらしい彼の言葉に妙に嬉しくなった。

 ジュールにつかまれてさっきあれほど後悔したばかりなのに、『よかった、お団子にしてなくて』と、ゲンキンなことを考えてしまう。

 後ろ髪に手が届かなくなったジュールは、懲りずに今度は彼の左目を隠している長い前髪をつかみ始めた。

「そこはまずいよー、ジュール。怖い怖いになっちゃうよー?」

 彼はそう言いながら、ジュールの手が届かないように右側に抱きなおした。おもちゃに手が届かなくなったジュールはむーと唸りながら身体をゆすって抗議している。

「怖い、ですか? 金色の目」

 不思議そうなフェリシアに、マリオンのほうも不思議そうにたずねた。

「見たの? 怖くなかったの? 君は」

 フェリシアは素直にうなずいた。

「綺麗な金色だったわ」

 それに対して複雑な顔で彼は一言、

「そうか」

 と、言っただけだった。

「ごめんなさい、気を悪くしちゃいました?」

 気遣わしげにたずねるフェリシアに、彼はにこりと笑った。

「あぁ、ごめんごめん。いや悪くなんてしてないよ。気にしないで」

「でも・・・・・・」

 何か気になることがあるようなそぶりではなかったのか?

「またどこかで、君とは会うことになるのかな」

 それ以上説明せず、ただ一言、ぽつりと彼はつぶやいた。

 フェリシアがその言葉の意味をたずねる暇もなく、ちょうど回転木馬の乗り場に着いた彼は、

「お待たせ、アレックス」

 と、相棒に声をかけた。


 **..**..**..**..**..**..**..**..**..**..**..**


 その後、フェリシアが彼に再会するのは六年後、相対する敵として、であった。


<幕>


最後が不穏ですが、そのお話(第一次聖杯戦争)はまだ途中までしか書けていません。

さきにそのずっとあとの外伝になります。

ということで、次は「金色の鳥」というお話です。

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