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<SIDE Marion & Alex>

時代的にはマリオンは、もう大分年齢のいった大魔術師になっております。見た目だけ若いですが。

そして、外伝ぽいコメディ調ですが、実は主要な人物との出逢い編ですので本伝です。

 <SIDE Marion & Alex>


 そこはもうすっかり秋の気配の色濃い町だった。街道沿いの木の葉は赤や黄色に染まり、大気はだいぶ冷たさを増している。

 とにかく風が強い日で、正面に高くそびえるアルトリア山から吹き降ろす風が、ごうごうと音を立てて通りを町の外へ向かって走っていく。その向かい風の中を、二人の旅人が山へ通じる街道の方向へゆっくりと歩いていた。


 ひとりは、よく日に焼け赤銅しゃくどう色の肌をした鍛えられた体つきの背の高い青年で、年のころは二十歳はたちくらい、短か目の赤茶色の髪があちこちにはねている。 肌色とよく合う深い緑のチュニックと暗い色の長いマントを着ている。

 目の色は髪と同様に明るい茶色、少しつりあがってきつめの悪戯っぽい目つきをしていた。

 口元はグレイの風除けスカーフに覆われていてよく見えないが、全体的に少々野性味の勝った精悍な顔つきをしている。


 もうひとりは同じくらい背は高いが、全体に少し華奢な作りのやはり二十歳はたちくらいか、あるいはそれより少し上二十代の半ばくらいの年頃に見える男で、ほとんど腰のあたりまでありそうな少しくせのある明るい金色の髪を青いリボンでゆるく留めている。

 長い前髪が左目を覆い隠しているが、見えているほうの目は翠玉(すいぎょく=エメラルド)か橄欖石(かんらんせき=ペリドット)のような明るい緑色をしていた。

 彼は、風除けスカーフをせずにそれでも砂塵を気にするでもなく、涼しい顔で歩いている。

 日に焼けていない白い肌に繊細に整った顔立ちは、もうひとりとは非常に対照的だ。 着ている物も白っぽいマントと明るい色で統一され、こちらも相棒とはまるで異なっている。

 共通するところはひとつだけ、二人とも旅姿で肩には大きな背嚢、腰にはそれぞれ剣を下げている。


「なぁ、おい、この風って町の名物なのか?たまんねぇな。目に砂粒がはいっちまったぜ」

 赤茶色の髪の男が口元の風除けスカーフを気にしながら愚痴ると、一緒に歩いていた金色の髪の男が笑った。

「だから魔法で風除けをするかい?と聞いたのに・・・・・・。今日は特に風が強いみたいだ。前に来たときはこんな強くはなかったよ」

 けっと赤茶色の髪の男が、顎を上げた。

「魔法の風除けなんかいらねーよ。大体、自分に魔法がかかってるなんざ気持ち悪くてしょうがねぇ」


 やれやれ、ともうひとりの金髪の男が肩をすくめた。

「アレックスの魔法嫌いにも困ったもんだね」

 ちょっと失礼、と言うやいきなり金髪の男は、アレックスと呼んだ男の口元からいささか乱暴にグレイのスカーフをぎ取った。

「マリオン、てめぇ、な、なにをしやがるっ!」

「無駄にしゃべると砂が口に入るよ」

 涼しい顔でマリオンと呼ばれた金髪の男は、剥ぎ取ったアレックスのスカーフを右手で握った。

 淡い光が彼の手の中に一瞬ふわりと見えたが、あとは何事も起こらない。

「はい、終わり。本人に魔法がかかってなきゃいいんでしょ?」

 そう言うとマリオンは、ぽいっとアレックスの手にグレイのスカーフを投げ戻した。


 アレックスは渡されたスカーフを指でつまみあげ、胡散臭そうに眺めている。

「なんか変な魔法がかかってるわけじゃないよな?」

「いやいや、何言ってるの、見てたでしょ。魔法はかかってるよ、もちろん。でも変なものじゃないよ。妙なところに神経質だよね、アレックスって」

 呆れたようにマリオンが言い、アレックスがちょっとむっとしたようにへの字に口を曲げて見せた。

「何言ってやがる。こちとら、お前みたいに大雑把おおざっぱにはできてねーんだよ」

 おやおや、と言いながらマリオンは眉を上げ、肩をすくめて見せた。

 確かに二人は正反対、しかもどうやらどちらの性格も顔立ちどおり、とは言えないようだ。


 しぶしぶ渡されたスカーフをまた口元に巻くと、アレックスが少しくぐもった声で、おおっ! っと感嘆の声を上げた。

「今度はなんだい?」

 マリオンが首をかしげてアレックスのほうを向くと、彼は少し照れたように笑った。

「顔に風があたらねぇぜ。いい調子だ。魔法もなかなかいいもんだな」

 マリオンは、一瞬あ然とした顔をしたが、

「こんなに長い間、魔術師の僕と旅をしていながら今更、そんなこと言うのかい? 呆れたね、まったく」

 と、特に気を悪くした風もなく上を向いて遠慮なくげらげら笑いだし、それにつられたように、へへっとアレックスも笑って見せた。


 **..**..**..**..**..**..**..**..**..**..**..**


 そのまましばらく道なりに歩くと、どんどん町の中心部へ近づいているようで通りも広くなり、足元が綺麗な模様のある石畳に変わった。

 あたりにはどっしりとした立派な石造りの何階もありそうな背の高い建物が増えてきて、通りにも人が多くなり、店も増え活気にあふれている。

 だが、あいかわらず風は止まず、まだ砂埃が舞っている。

 町の人々はそれにはもう慣れっこになっているようで、アレックスと同じように薄いスカーフで顔の半分を覆い、細身のマントやコートでしっかりと身体を包んでいる。


「なるほどなぁ。普通の幅のあるマントじゃ、風に飛ばされて邪魔くさいもんな」

 自分のマントを風に吹き飛ばされ、持て余していたアレックスは、素直に感心しながらきょろきょろと町を眺め回している。

 そのアレックスの袖を、マリオンがちょいちょいと引っ張った。

「聞こえるかい? あれ。もしかして移動遊園地じゃないかな?」

 耳を澄ますと風に運ばれて、どこからか陽気な音楽がかすかに聞こえてくる。

「なんだ、そりゃ?」

 不審そうな顔のアレックスに、マリオンがちょっと驚いたような顔を向けた。

「移動遊園地、って君は知らないの?」

「なんだよ、知ってなきゃいけないのかよ? 俺さまはお城の奥深く、乳母日傘(おんばひがさ※)で育てられたんだ。そんな下々(しもじも)のことなんざ知るわけねーだろ?」

(※乳母をつけ、外出には日傘をさしかけて、大事に守り育てること。育ちがいいこと。過保護ともいう)


「確かにそうかもね。見かけも口調も全然そうは思えないけど、これでもアレックスは貴族出身のお坊ちゃまだったね」

 マリオンは簡単に移動遊園地の説明をしながら、苦笑した。

 これでもってなんだよ、うるせーな、と言いながらも、遊園地に興味を惹かれたらしいアレックスは、どんどん音楽のするほうへ進んでいく。

 それは山へ抜ける道とは微妙にずれているのだが、二人ともまるでそんなことは気にしていないようだ。

「だいたいお前だって似たような境遇じゃねーか。なんでそんなもん知ってるんだよ」

「僕は、乳母日傘で育ったわけじゃないからね。魔法の師匠のところにいた頃は、よく皆で町に遊びに行ったよ。遊園地でも遊んだし、サーカスも見に行ったし」

「けっ! 貴族の息子のクセに、この贅沢ぜいたく者め」

 本気で面白くなさそうに言うアレックスのあとを、マリオンは再び苦笑しながらついていく。


 通りを抜けると広場があった。

 八方から道が集まるかなり広い広場で、大きな鐘楼しょうろうが正面に見えている。

 普段はきっと人や馬車や露店の建ち並ぶところなのだろうが、今は別のにぎやかさであふれている。

 そこには巨大な遊園地がしつらえられていた。

 華やかな色のテントの下でぐるぐる回る回転木馬に、白い子馬のひく花馬車、木製の色とりどりのゴンドラを回す大きな観覧車。

 大きな大きな滑り台に、大きな白龍ホワイトドラゴンをかたどった乗り物。

 広場をぐるっと囲むように作られた木製の線路の上を、何台かの綺麗に塗装されたトロッコが子供たちを乗せ、魔法でからころと回っている。

 たくさんの露店が立ち並び、あちこちで花を配ったり、ラッパを吹いたりしている道化師たちがいる。

 小さな舞台では可愛らしい衣装をつけた犬たちが芸をしているかと思えば、隅のほうでは人形たちに魔法をかけて動かし、何か劇をしているようだ。

 そして、その中をはしゃぎまわるたくさんの子供たちと、同じように楽しんでいるように見える大人たちがいた。


「すげぇ! これみんな移動遊園地か?」

 アレックスが感激したような声あげ、あたりを興味深げにながめまわした。

「すごいね。昔よりだいぶ大きくなってるんだなぁ。でも懐かしいよ」

 マリオンは目を細め、懐かしそうに観覧車を見上げた。

 子供の頃乗ったものよりもだいぶ大きくて丈が高い。周りの五階建て、六階建ての建物に勝るとも劣らない高さがある。


 アレックスも同じように観覧車を見上げ、ちょっと眉をひそめた。

「あんなに高いもん、平気なのかね?」

「何が?」

「だってさ、この町って風強いだろ? あぶなくねーのかな?」

 そういえば、広場に入ってからすっかり風が止んでいる。アレックスは風除けのスカーフを口元から首へ引き下ろした。

「ああ、それはね・・・・・・」

「おい、あれあれ!」

 マリオンが言いかけたその先をさえぎるようにして、アレックスが勢い込んで言った。

「ん? 何?」

 さえぎられたことに腹を立てるでもなく、マリオンが聞き返した。

「あれっておれが乗っても壊れないかな?」

 聞かれたマリオンは、アレックスの指差している方向を見て目をぱちくりさせた。


 アレックスが差しているのは、どう見ても回転木馬だった。

 軽やかな音楽とともにたくさんの子供たちを乗せて、色とりどりの木馬が回っている。

「え・・・・・・。あれに乗るの? アレックスが?」

「悪いかよ?」

 むくれたアレックスに笑いをこらえながら、マリオンが

「だって馬なんて本物にいつも乗ってるだろう? いまさらなんで木馬なんだい?」

 と言うと、彼はいっそうむくれた顔になった。


「だいたいなぁ、お前はいいよ。移動遊園地で何度も遊んだんだろ? おれはだ、お城の奥深く・・」

「あーはいはい。乳母日傘で育った身なんでしょ。わかりました。何でもどうぞ、好きに乗っておいでよ」

 これ以上、彼をむくれさせても百害あって一利なし、だとわかっているマリオンはそう言って肩をすくめた。

 だがアレックスは、がしっとマリオンの腕をつかんだ。

「馬鹿言え。大の男がひとりであんなもんに乗れっかよ。お前も来るんだよ」

「え? えーっ?! ちょ、ちょっと待ってよ。冗談でしょ?なんで僕まで」

「男のつきあいだ、つ・き・あ・い!」

 それ以上有無を言わせずアレックスは、嫌がるマリオンを引きずるように移動遊園地の入り口へ向かった。


 見たところ、回転木馬には女子供しか乗っていない。

 たまに若い男が乗ってると思えば、恋人同士のかたわれだったり、幼子を膝に抱えた父親だったりした。

 どう考えても二十歳も過ぎた大の男が二人で乗れる代物とは思えない。いや、一人というのもどうかと思う。

 だいたいにして、子供のころでも回転木馬に男の子たちはあまり乗りたがらなかったものだ。観覧車はともかく、回転木馬は小さい子供と女の子のものだった。

 少し大きくなった男の子たちは、本物の馬をつけた戦闘馬車や魔法で動く火を吐く龍の模型に乗ってみたり、あるいは大きな滑り台や弓矢で景品を落とすゲームなどに夢中になった。おなじところをただ上下に動きながらぐるぐる回る回転木馬よりは、空中高くのぼりつめていく観覧車のほうが人気もあった。


「勘弁してよ、アレックス」

 入り口で入場料を払い、荷物預け所に荷物を預けるや、アレックスの馬鹿力にひきずられるようにここまで連れてこられてしまったが、どう考えてもこの事態はよろしくない。

 マリオンは半ば拝むようにしてアレックスを説得しようとしているが、どうにもこの男、この件に関してはまるで聞き分けがないようだ。

 万力のような右手でマリオンの左腕をみっしりとつかんだまま、まるで離す気配がない。

「うるせーな。おれはこれに乗りたいんだよ。黙ってつきあえ」

 回転木馬の前でもめている二人のいい年をした男たちに、そばを通った娘たちがくすくすと笑いあって行く。

「ね? あれなに? カップルなの?」

「あははは、やだぁ」


 聞こえてくる彼女たちの遠慮のない会話に、マリオンが思い切り嫌な顔をしても、アレックスはまるで動じない。

「誰がカップルだ! 誰が!」

 あらぬ疑いをかけられて憮然としている相棒に気づきもせず、アレックスは次に木馬が止まったらどれに乗ろうか考えるのに忙しい。

 普通の回転木馬は、白馬や綺麗な色を塗った鳥やうさぎなど可愛らしいものが多いが、ここのは意外と男の子向けも多い。アレックスは回っている木馬の中にその類のものを見つけては、目を輝かしている。


「な、あそこの黒い龍ってのはどうだ? なかなか迫力あっていい感じじゃねぇ? 火ぃまで噴いてるし」

 確かに小さな男の子が乗った黒い龍が、白い蒸気らしきものを口から吐き出している。

「だからさ、どうだって言われてもね」

「んじゃ、あっちの軍馬にすっか? 真っ黒なのが二頭立てってのも悪くねぇよな?」

 そちらには、おそろいの乗馬服を着た双子らしい可愛い男の子たちが歓声を上げながら乗っていた。

「・・・・・・あのね」

「んだよ、文句が多いな。じゃあどれがいいんだよ? もうじき止まっちまうぜ。早く決めろよ」

「だーかーらー! なんで僕が・・・・・・」

 マリオンがそこまで言いかけたとき、どこか上のほうから鋭い悲鳴が聞こえた。


続きは明日21日11時の予定です。

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