婚約破棄の席で平手打ちされた私が、王命で正妃になるまでに失ったものと取り戻した尊厳
第一話 婚約破棄の音
卒業パーティの会場は、金箔の天井から落ちる光で昼のように明るかった。シャンデリアの火が揺れるたび、宝石と笑い声が同じ速度で瞬いた。
私はその光の中心に立っていた。
……立たされていた、と言い換えたほうが正確かもしれない。
「皆さま、本日はお集まりいただき感謝する」
王太子アルベルト殿下の声が、音楽の隙間を切り裂く。彼が視線を向ける先は、私――公爵令嬢リリアーナ・アルヴェーン。
私の掌は、扇の柄の中で湿っていた。
呼吸が、浅い。胸の奥が、妙に静かだ。静かすぎて、次に来る音がはっきり聞こえてしまう。
「リリアーナ・アルヴェーン。君との婚約を、ここに破棄する」
会場が一瞬で止まった。
数百人の息が同時に吸われ、吐かれる音が遅れて戻る。
――ああ。やっぱり。
私は驚かなかった。驚けなかった。ここ数ヶ月、殿下が私を見る目は「不在」だった。そこにあったのは、人間を見る目ではなく、“役割の欠陥”を点検する目。
「理由は簡単だ」
殿下の隣で、柔らかい笑みを浮かべた少女が一歩前に出る。白いドレスが花のように揺れた。子爵令嬢シェリーナ。最近、殿下のそばに必ずいる人。
「殿下は、真実の愛に気づかれたのです。ね? アルベルト様」
呼びかけに、殿下は軽く頷いた。
その頷きが、刃だった。私は初めて、身体の内側で痛みが“音”になるのを聞いた。
「私は……殿下の助けになれずとも、妃としての務めは――」
「務め?」
殿下が笑った。
短く、乾いた笑い。周囲もそれに合わせて笑う者がいる。笑いの波は、私の足首を舐めていく冷たい潮のようだ。
「君が務めたのは、沈黙だけだ。退屈で、地味で……無能だ」
無能。
その単語が空気に落ちた瞬間、私の頬が熱くなる。恥ではない。怒りでもない。血が引く代わりに、熱が上がった。
けれど私は微笑んだ。微笑むしかない。
貴族の娘が、人前で泣くのは負けだ。負けたら最後、物語は“可哀想な令嬢”で終わる。
終わらせない。
「……承知いたしました」
声が震えなかったことに、逆に怖くなる。私は自分が壊れているのを悟った。
「もう一つ」
殿下が言った。
嫌な予感がした。嫌な予感は、当たる。
「君は本日をもって、公爵家の後ろ盾を失う。形式上の慰謝料は出すが……それ以外は期待しないでくれ」
形式上。
その四文字が、私を“人”から“処理”へ変えた。
その時、シェリーナが私の耳元に近づき、小さな声で囁いた。
「ねえ、お義姉さま。あなた、殿下の書類の代筆ばかりしていたでしょう? あれ、全部……私が『助言した』ってことになっているの。ごめんなさいね?」
――代筆。
私は息が止まる。あれは、代筆などではない。領地税制の見直し案。穀物備蓄の規定。交易の関税調整。殿下が“忙しい”からと私に預けた、国の骨格。
それが、今、別人の功績にされる。
私は瞬間、顔の笑みを維持したまま、唇の内側を噛んだ。
鉄の味がする。痛みが現実へ引き戻す。
逃げるな。
今逃げたら、二度と戻れない。
「殿下」
私は一礼した。深く。わざと深く。
屈服に見せかけて、時間を稼ぐための深さ。
「最後に、一つだけ確認してよろしいでしょうか」
「何だ」
「……私が無能なら、今まで提出した国政の提案書の筆跡は、誰のものなのでしょう」
空気が、わずかに揺れた。
殿下の眉が動く。ほんの一瞬、迷い――いや、苛立ち。
「くだらない。今さら詭弁を弄しても――」
その瞬間。
パン、と乾いた音がした。
私は殿下に平手打ちされたのだと理解するまで、一拍遅れた。頬が燃え、視界が白くなる。耳の奥で、血が走る音がする。
「立場を弁えろ」
殿下の声は冷たい。凍った湖面のように、割れないと信じている冷たさ。
私の身体は揺れた。が、倒れなかった。
倒れない。倒れたら、物語が終わる。
私はゆっくり顔を上げた。
頬の痛みより、胸の中心が痛い。そこにあった“何か”が、今、音を立てて崩れていく。
そして私は、笑った。
微笑みではない。
笑いだ。薄い氷の上で踊るみたいな、危険な笑い。
「――なるほど」
殿下が目を細める。周囲の貴族たちがざわつく。
「平手打ちで黙らせれば、真実は消えると?」
私は扇を閉じた。ゆっくり、見せつけるように。
「婚約破棄、承知しました」
会場が息をのむ。
「ですが、私は“無能”という評価だけは受け取れません」
言ってしまった。
一度口にした言葉は、戻らない。
「なぜなら私は――」
そこまで言いかけた瞬間、殿下が一歩詰め寄る。
「黙れ」
その声に、私は確信した。
彼は知っている。私の仕事の価値を。知っていて、切り捨てた。
だから――私は、ここで泣かない。
私は頭を下げ、淡々と告げた。
「では私は、去ります。殿下の“真実の愛”が、国の書類の山も抱きしめて差し上げますように」
笑い声が起きる前に、私は踵を返した。
背中が熱い。視線が針みたいに刺さる。
でも、私は歩いた。歩き続けた。
扉の向こう、冷たい夜気を吸い込んだ瞬間――
涙が、落ちた。
音もなく。
頬の痛みより、深いところから。
*
王城の回廊を抜けた先に、私は一人で立っていた。
馬車を呼ぶ手が震える。指先が冷えきって、紐が結べない。
そのとき、影が差した。
「……リリアーナ様」
低い声。耳に馴染む声。
王弟アレクシス殿下――この国で、唯一“噂”にならない男。噂にならないのは、近づく者がいないからではない。近づこうとした者が、皆、何かしらの理由で退いていくからだと言われている。
私は顔を上げた。
涙の跡を見られたくなくて、顎に力を入れる。
「お見苦しいところを」
「……見苦しいのは、殿下のほうだ」
王弟殿下はそう言って、私の頬に触れないまま、ハンカチを差し出した。
触れない、が。
距離があるのに、体温だけが伝わるような手つきだった。
「あなたが作った提案書を、私は読んだ」
胸が跳ねる。恐怖か、希望か分からない。
「……今さら、何を」
「今さらではない。今日からだ」
王弟殿下の目は、夜の色をしていた。深く、逃げ道がない色。
「あなたは今、捨てられたのではない。……切り離された」
切り離された。
その言葉は、私の胸の奥にある痛みの形を、正確に言い当てた。
「……殿下?」
「明日、王命が出る」
彼はさらりと言った。
「“婚約破棄”は、国にとって損だ。あなたを失うほど、この国は余裕がない」
私は笑ってしまいそうになった。皮肉で。
でも笑えない。だって私は、今日、平手打ちされたのだ。
「私は……」
言葉が詰まる。強い自分でいたいのに、喉が熱い。
「あなたは、どうしたい」
王弟殿下は問う。
“どうしたい”。その言葉に、私は初めて、選択肢を与えられた気がした。
私は自分の掌を見た。
震えている。情けないほど。
それでも私は、言った。
「……私の仕事を、返してほしい」
王弟殿下の口角が、わずかに上がる。
「なら、取り返そう。あなたが“選ぶ側”になる形で」
夜気が、肺の奥まで冷たく入ってくる。
なのに、胸の中心だけが、妙に熱い。
私はまだ、何も終わっていない。
そう思えた。
第二話 家に帰るまでが戦争
翌朝、公爵邸の食堂は、無音だった。
銀のカトラリーが皿に触れる小さな音だけが、やけに大きい。
父は、いつも通り新聞を畳み、紅茶を一口飲んだ。
「……昨夜のことは聞いた」
それだけ。
怒号も、慰めもない。
私は笑いそうになった。父らしい。感情を大声で出す人ではない。けれど私は、父が手元のカップを置くとき、ほんの少し指が強くなったのを見逃さなかった。
「恥をかいたな」
父の言葉は厳しい。だが、その目は私を責めていない。
「はい」
「だが――」
父は言葉を切った。息を吸い直す。
「恥は、取り返せる」
私は唇を噛んだ。
涙はもう出ない。出るとしたら、次は怒りの涙だ。
「取り返します」
その答えに、父はわずかに頷いた。
そのとき、執事が入ってくる。
「ご当主様。王城より使者です」
早い。
早すぎる。
使者が差し出した封筒には、赤い封蝋――王命。
私は、封に触れる前に分かってしまった。
昨夜の王弟殿下の言葉は、本当だった。
父が封を切り、読み上げる。
「王命。王太子アルベルトは、正妃として、リリアーナ・アルヴェーンを迎えよ。先般の婚約破棄は、無効とする」
頭の中が、白くなる。
私は思わず笑ってしまった。信じられない笑いだ。
「……無効?」
無効。
殿下は私を捨てた。大勢の前で平手打ちした。その“公開処刑”を、王命一枚で無効にする?
私の頬が、じくりと疼いた。
痛みが、記憶を呼び戻す。
父が低く言う。
「……ふざけている」
その言葉が、私の胸を支えた。
私は一人ではない。
使者は淡々と続ける。
「本日中に王城へ。式の準備がございます」
式。
結婚。
正妃。
私は息を吸い込み、言った。
「承知いたしました。ですが――条件があります」
使者が目を瞬かせる。
「王命に条件など」
「あります」
私は笑わなかった。微笑まなかった。
ただ、真っ直ぐ。
「婚約破棄の場で私を侮辱した者、その功績の盗用に関わった者、私に手を上げた者。彼らの前で、真実を明らかにしていただきます」
使者の顔が強張る。
父が、静かに言った。
「娘の条件だ。伝えろ」
王命は、強い。
でも、公爵家も強い。
使者が去ったあと、私は椅子に手をついた。
足が、少しだけ震えている。
「怖いか」
父が問う。
「……怖いです」
正直に言った。強がりは、ここでは要らない。
「でも、逃げたくない」
逃げたら、私はずっと“平手打ちされた令嬢”で終わる。
終わらせない。
私は立ち上がり、鏡を見た。
頬の跡は薄くなっている。だが、消えていない。
消えなくていい。
この痛みを、忘れたくない。
第三話 王城で壊れる男
王城の控え室は、花で満たされていた。
甘い香りが、私の喉を締めつける。昨日の夜気のほうが、よほど呼吸が楽だった。
扉が叩かれる。
「入れ」
私が答える前に、扉が開いた。
王太子アルベルト殿下が、ひとりで入ってくる。
昨日と同じ顔。
同じ髪型。
同じ制服。
でも、目が違う。
落ち着かない目。何かを探して、見つけられない目。
「……リリアーナ」
名前を呼ばれただけで、胸の奥がひりつく。
私は一礼した。形式。距離。
「殿下。王命に従い参りました」
殿下は、唇を噛んだ。
「昨日のことは……」
「昨日のことは、昨日のことです」
私は遮った。
遮らなければ、私はまた“許す側”にされる。
「私は、条件を出しました。聞いていますか」
殿下が頷く。
「ああ。……聞いた」
一拍。沈黙。
「君は、怒っているのか」
私は笑った。短く。
「怒っていないとでも?」
殿下の顔が歪む。
その歪みは初めて見る。彼の感情が表に出る瞬間を、私は婚約者として一度も見たことがなかった。
「……君が、ここまで」
「ここまで、何です」
私は近づかない。近づけば、私が崩れる。
「ここまで我慢できない人間だと、思いませんでしたか?」
殿下の肩が、ほんの少し下がる。
「違う。……私は、君が――」
言葉が詰まる。あの理性的な口から、“詰まる”という現象が起きるのが、奇妙だった。
「君がいなくても、国は回ると思っていた」
やっと出た。
それが、本音。
私は頷いた。
「そうでしょうね。だから平手打ちした」
殿下の顔が、青ざめた。
「……違う、あれは――」
「“立場を弁えろ”と言いましたね」
私は淡々と続ける。
淡々としていないと、声が壊れるから。
「私は、あなたの立場を守るために、あなたの代わりに夜を潰しました。あなたが眠る間、私は国の数字と向き合っていました」
殿下の喉が動く。
「なのにあなたは、私を無能と呼びました」
私は一歩だけ近づいた。
距離を詰めるためではない。言葉を逃がさないため。
「殿下。私は、あなたの“真実の愛”の話を聞きたいわけではありません」
私は扇を開いた。
昨日と同じ。けれど今日は、武器だ。
「私の功績を盗んだ者を、ここで裁いてください。私の頬に手を上げたあなたが、皆の前で謝ってください」
殿下の瞳が揺れる。
「……それをしたら、私は」
「失いますか? 威厳を?」
私は首を傾げた。
涙は出ない。出すなら、最後にする。
「威厳とは、弱者を殴ることで保つものではありません。間違いを認めることでしか、保てません」
殿下は、しばらく黙っていた。
そして――崩れた。
「……私は、怖かった」
唐突な告白。
「君のほうが、国を理解していた。君のほうが、私より……“王”に向いていた」
私は息を止めた。
「だから、君を隣に置きたかった。でも、隣に置いた瞬間、私は必要なくなる気がした」
嫉妬。
幼い。
でも、これがこの男の核なのだ。
「だから、君を下に置いた。……君を壊して、私のほうが上だと証明したかった」
最低だ。
でも――最低だからこそ、今ここで断ち切れる。
「殿下」
私は言った。
「あなたは私を愛していません」
殿下の目が見開かれる。
「あなたが欲しいのは、私の仕事です。私の知恵です。私がいれば国が回るから」
殿下の喉が震える。
「でもそれは、愛ではありません」
私は息を吸った。
胸が痛い。痛いからこそ、言う。
「愛は、私を殴りません」
殿下の膝が、わずかに落ちた。
立っていられない人の落ち方だ。
その瞬間、控え室の別扉が静かに開く。
「――十分だ」
王弟アレクシス殿下が入ってくる。
彼の背後には、国王陛下。そして、法務卿。
殿下は顔を上げ、蒼白になった。
「……父上」
国王陛下の目は、怒りではなく、失望だった。
「王太子よ。お前は、何をしている」
空気が張り詰める。
甘い花の香りが、腐った砂糖みたいに重い。
法務卿が書類を広げた。
「公爵令嬢リリアーナ殿の提案書。筆跡鑑定の結果、本人の筆跡であることが確認されました。また、提案の提出経路を調査したところ、子爵令嬢シェリーナ殿が、功績を自分のものとして報告していた事実が――」
扉の外で、騒ぎが起きる。
あの白いドレスの少女が、引きずられるように連れて来られた。
「違うの! 私は、殿下のために――!」
シェリーナの叫びは、誰にも届かない。
国王陛下は、冷たく言った。
「貴族の社交は舞踏会ではない。国家の顔だ。そこで盗みを働く者は、国を盗む者と同じ」
シェリーナは崩れ落ちた。
私は、静かに目を伏せた。
ざまぁ、だ。
でも、胸が晴れない。
なぜなら――私が欲しかったのは、彼女の転落ではない。
私が欲しかったのは、私の尊厳だ。
国王陛下が私を見る。
「リリアーナ。お前の条件は、満たされる」
私は頷く。
国王陛下は、王太子へ向き直る。
「謝れ」
殿下の唇が震える。
全員の前で頭を下げることが、どれほど屈辱か、私は知っている。
昨日、私が味わった。
殿下は、ゆっくりと立ち上がり、そして――膝をついた。
「……リリアーナ。私は、君を侮辱し、手を上げた」
声が掠れている。泣いているようにも聞こえた。
「許されるとは思わない。だが……謝らせてくれ」
彼の額が床につく。
「すまなかった」
私は、胸の奥が震えるのを感じた。
怒りの震えなのか、悲しみの震えなのか分からない。
私は一歩前に出て、言った。
「謝罪を受け取ります」
それだけ。
許したとは言わない。
愛したとも言わない。
ただ、“終わらせる”ために。
第四話 選ぶのは私
儀式の準備は、恐ろしく速かった。
王命の紙が、一夜で現実になる。
私は白いドレスを着せられ、髪を結い上げられ、宝石を載せられた。
鏡の中の私は、かつて憧れた“王太子妃”の姿だった。
でも私は知っている。
あの地位は、笑顔のための舞台ではない。刃物の上だ。
控え室で、王弟殿下が言った。
「お前は、どうしたい」
また同じ問い。
昨日の夜気を思い出す。
私は、ゆっくり息を吐いた。
「私は……国を守りたい」
それは偽りではない。
数字や制度の向こうに、領地で寒さに震える子どもがいる。食糧が足りず、嫁に行けず、兵として死ぬ人がいる。私は“物語”よりも、彼らの現実を見てしまった。
「ただし」
私は言葉を切る。
「私は、殿下の道具にはなりません」
王弟殿下が頷く。
「王太子は、まだ壊れきっていない。だが、壊したのは自分だ。……お前が選ぶなら、支える価値はある」
私は少し笑った。
「殿下、私の味方ですか」
「最初からだ」
短い答え。
その短さが、胸に刺さる。
*
大聖堂。
鐘の音。
人々の歓声。
私は王太子アルベルトの隣に立った。
彼は私を見ない。
見られないのだろう。見れば、昨日の罪が蘇る。
誓いの言葉が進む。
指輪が渡される。
その瞬間、殿下の指が震えた。
私の指に触れるのが怖いみたいに。
私は思った。
――遅い。
でも、遅いからこそ、今がある。
儀式が終わり、回廊に出たとき、殿下が私を呼び止めた。
「リリアーナ」
その声が、昨日より低い。
自分の立場ではなく、自分の感情で出した声。
「……君に、何を返せばいい」
私は立ち止まり、ゆっくり振り向く。
「返すのではありません」
私は言った。
「これから、積み上げるのです」
殿下の目が潤む。
「君が望むなら、私は……」
「望みます」
私は遮った。
ただし、条件がある。
「あなたが“王”として立つなら。私の隣に立つなら」
殿下の喉が鳴る。
「私は、あなたに恋をしているわけではありません。今は」
残酷な正直さ。
でも、甘い嘘で結ばれた関係は、必ず腐る。
「それでも――私は、この国を捨てません。だからあなたも、この国を捨てないでください」
殿下は、息を吸い込み、そして――泣いた。
静かに、情けなく、必死に。
「……捨てない」
彼は言った。
「君を捨てない」
私は少しだけ目を閉じた。
胸の奥にあった痛みが、少し形を変える。
赦しではない。
愛でもない。
でも――未来かもしれない。
王弟殿下が少し離れた場所で、壁にもたれて見ている。
その視線は、監視ではなく、保障だった。
私は最後に、殿下へ告げた。
「私を必要だから選ぶのなら、必要な分だけ働きます」
そして、微笑む。
「けれど私を愛するなら――あなたは、私の“尊厳”ごと抱えてください」
殿下の手が、恐る恐る私の手を取った。
昨日の平手打ちとは違う、震える手。
「抱える」
その答えは、誓いよりも重い。
私は頷いた。
婚約破棄は、終わった。
ざまぁは、終わった。
ここから先は――
私が選ぶ、私の物語だ。




