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A霊園

作者: アゲドリ

H県A市――


 当時19歳だった私が、友人のSと地元のA霊園へ肝試しにいったときの話です。


 Sとは、高校生の頃に中学時代の友人を介して知り合いました。違う学校に通っていましたが、バイクやゲームなど趣味の接点が多かったため、共通の友人よりも多くつるんでいた気がします。そして、互いに好奇心旺盛な年頃ということもあって、当時、テレビで特集の多かった“心霊”や“宇宙人”といったジャンルにも興味を示していました。


 正直、宇宙人に関しては調べようがないので手付かずだったのですが、心霊に関しては、テレビや雑誌で身近なスポットが数多く取り上げられていたので、それを参考に巡っておりました。しかし、それらのスポットはどこも不気味ではありましたが、鈍感なのかなにも感じとることはできませんでした。


 ただ、一ヶ所だけ例外があり、W県にある人形供養の神社だけはものすごい威圧感を覚えました。それが霊的な感覚だったのかは分かりませんが……。


 そんな具合で有名どころのスポットを見て周っていたあるとき、Sが「そういえば、身近なところは押さえてなかったよな?」と切り出したのをきっかけに、別段、話題にも上がらないような近所のA霊園にいってみようという話になったのです。


 そして、幽霊といえば“夜”だろうという先入観から夜の霊園にこっそりと忍び込みました。季節は夏の終わり頃だったでしょうか、少し肌寒かったのを憶えています。


 霊園は、今でこそしっかりとした門構えに監視カメラも設置させれているのですが、当時は粗末な鉄柵だけだったので簡単に飛び越えられました。


 因みに、行き当たりばったりだったため明かりの類はひとつも持っていなかったのですが、要所要所にしっかりと外灯が設置されていたので、視界は十分に確保できました。


 山に面したA霊園は、アップダウンを繰り返す迷路の様な作りをしており、歩きまわる気分はハイキングです。肝試しに来たはずでしたが、そんな気分を満喫しつつ散策から小一時間、霊園の中央東寄りの上り坂に差し掛かった頃でした。ずっと歩き通しだったのもあり足取りが重たかったのですが、この坂に差し掛かったとたん、まるで下り坂を思わせるほどスイスイと歩けるようになったのです。というより身体が引っ張られるような感覚に襲われていました。


 自身の状態に驚きたまらずSの方へ振り向くと、Sもやはり同じ状態だったようで首を傾げていました。このとき、Sが余りにも冷静だったため、私も取り乱す事なく自我を保つことができました。そして、引っ張られながら話し合った結果、この引っ張られる先まで行って「原因を調べようか」という流れになったのです。


 引っ張られるというのは不思議な感覚で、足を上下に動かすと、先で述べました通り下り坂のように進んでいきました。勿論、それに抗うこともできましたが、なにやらとても楽しい気持ちになってきたので、その感覚に酔いながら暫く歩き続けました。


 引っ張られ続けた私達はいつの間にか本道を反れ、山へ向かう道に差し掛かろうとしていました。そして、霊園と山の境界と思われる場所に出たとき、引っ張る力はピタリと止みました。


 境界の先には、石を積んだだけの簡素な造りの階段があり、その上には金網のフェンスとその出入口が見えました。


 出入口の先はやはり山中へ通じており、進むか否かを状況整理も兼ねてSと話し合った結果、「さすがに夜の山は危険だろう」という結論に落ち着きました。照明器具を持っていなかった私達は、暫くの間、外灯の届かない階段とフェンスを眺めてました。すると突然、右肩を<トントン>と叩かれた気がしました。Sは左側にいたので、私の右肩を叩くのは不可能です。直感で、これが『呼ばれてる』という現象かな? と思い、歓迎されているのであれば、近づけるところまで近づいてみようかと考えた私達は、薄暗い石段を駆け上がりました。


 そして、フェンスの前までやってきた私達は、山中へと通じる出入口の正面によくわからない黒いモノを見つけました。それは何かを象ったような、先入観かもしれませんが人型に鎮座しているように見えました。


 夜で、しかも本道を反れているため外灯の明りも届かない、月明かりが差しただだけの闇にも関わらず、はっきりとした“黒いモノ”が見てとれたのです。黒いモノの淵は流れのある濁った透明をしており、なぜか、そのモノに話しかけるべきかと真剣に悩んでいました。


 とにかく何かしなくてはという謎の使命感に駆られた私は、恥ずかしながら話しかけてみたのですが、特に反応はなく、黒いモノはただそこに存在するだけといった感じでした。ここで私の好奇心は頂点に達し、黒いモノの中へ思い切って手を入れてみました。すると、ピリピリとした弱い電気の流れを感じ、同時に脱力感が押し寄せてきたため、これは危険だと思いすぐさま手を引っ込めました。


 先程、近づけるだけ近づこうと決めたばかりなのに、出入口の前は黒いモノに阻まれ進むことができません。もっとも、フェンスを乗り越えれば行けなくもなかったのですが、何かとても嫌な予感がしたので、散策はここで打ち切り、そのまま引き帰すことになりました。


 結局、呼ばれた先にある何かと出入口の前に鎮座する黒いモノの正体は分からずじまいでしたが、とても貴重な体験でした。その後、もう一度行ってみようかと考えたのですが、いざ冷静になると忍び込んだのはマズかったなという罪悪感に苛まれ、以降、A霊園に行くことはありませんでした。



 それから数年が経った現在、趣味の繋がりで知り合ったIさんと、ある日、たまたま怪談で盛り上がっていた最中、実体験として次の話をしてくれました。


*


 Iさんが幼少の頃、田舎のおばあさんと山に面した墓地へ墓参りに行ったとき、無意識の内に身体が山の方向へ歩き出していたそうです。


 おばあさんに止められ、ハッと我に返ったのですが、そのとき、おばあさんに「山に引かれるところだった」と言われたそうです。


 以来、その墓地へは連れて行ってもらえなくなったのですが、大人になった今、久しぶりにその墓地へ訪れたそうです。そして、当時無意識に歩き出した先へ行ってみたところ、そこには大きな沼があり、その沼では子供が溺れ死亡する事故か何度となくあったそうです。


*


 話を聞いた私は、急にあの日のことがフラッシュバックし背筋が凍る感覚に襲われました。


 もし、あのとき、好奇心に負けて山の中へ進んでいればどうなっていたのか……


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