第八話「洞窟で迷子わぁ大変! 前編」
朝──。
朝日が眩しい。
そして五分の目の前には、いつも通りのメンツ。
…なのに、なぜか旅館の朝食がなかったことに全員が荒れていた。
「旅館の朝食って、世界遺産じゃなかったんですか!?」
そう叫ぶクリチーは、顔を真っ赤にしておにぎりを頬張っている。なぜか外で。
「旅館関係ないよね?!」
さくらが冷静にツッコミながらも、コンビニおにぎりを持ってるのがもう悲しい。
「てか、五分。なんで女湯ののれん持ってんの?」
「えっ、あっ、これは、あの、テヘ」
「テヘじゃねえわ!!」
昨日の“事件”の名残を引きずりながら、三人は出発していた。
そして、数時間後。
「…あれ? これ、道あってる?」
広大な山道を抜けた先に、巨大な洞窟の入り口が口を開けていた。
「ちょっと待って!この道、地図じゃ“Bルート:めちゃくちゃ暗い、たまに落とし穴あり”って書いてるんだけど!?」
「選びたくなさランキング堂々の1位やん!」
「でも他のルート、“Cルート:通ったら死ぬ”って書いてるよ…」
「Cルートどうなってんだよ!!!」
ボケとツッコミの応酬の中で、地図には小さく『※Aルートは現在工事中』と記されていた。どこに工事が入ってんだよ。
「よーし!じゃあ私が“クリチー探検隊”の隊長として突撃しまーす!」
「勝手に隊結成すな」
「え、五分は“クリチー探検隊”の副隊長でさくらは馬係な!」
「なんで私だけ職種ちがうの!?」
クリチーが先陣を切って洞窟に突撃していく。仕方なく、五分とさくらもその後を追った。
──1時間後。
「……はい、完全に迷子です!!」
「これフラグ回収の速度ギネス乗るぞ!!」
「僕、今なら“右手を壁に当て続ければ迷わない”って言った人に正座させて説教できる…!」
道はどこまでも同じような岩肌。
電波もない。
頼れるのは己の直感と、ギャグ補正だけ。
「誰かGPSついてないの?さくらとかGPS内蔵されてそうじゃん」
「私は機械生命体じゃねぇ!!」
そのとき、突如前方から「ヌメェ…」という不気味な音。
「スライムだああああ!!」
「なんでこんなRPG的敵が実在すんの!?この物語世界観どうなってるの?!」
スライムの大群が洞窟内をうねうねと迫ってくる。
逃げ走りながらさくらが叫ぶ
「五分、どうする!?」
「とりあえず叫んでおこう!!」
「戦えやーっ!!」
何とか岩陰に隠れてやり過ごす三人。が、今度は天井からコウモリの群れが──
「今度は吸血コウモリ!?ステージ変わるの早すぎじゃない!?」
「展開がサ●エさん家くらい急!」
「しかもあいつら、五分の髪に群がってる!」
「うわあああ!やめろ、僕の髪があーっ!!」
パニックの中、三人はさらに奥へと逃げる。
そしてついに、疲れ果てて座り込む。
「ねぇ……なんで旅してるだけで、精神的ダメージがこんなに…」
「五分が女湯で犯罪起こしたバチが当たったんだよ」
「だから誤解だって?!」
そのとき、うっすらと奥の方に光が差していた。
三人に希望の灯火が照らされた。
「……あれ、なんか明るくない?」
「やったー出られる!もうコウモリも岩もみたくない!」
三人は光に向かって走り出した。