第六話「ナルシストとバカは紙一重」
「……で、目的地はどこなの?」
さくらが地図を広げながら言ったが、誰も答えない。
「ちょっと、目的地決まってないのに冒険始めたの!?アンタら小学生か!」
「ご、ごめん……地図あったからテンションで動いちゃった……」
「出発=冒険のはじまりっていう脳内BGMに負けたね」
そんな雑談をしながら歩いていると、どこからか花の香りが漂ってきた。
突然、前方からポーズをキメた男が現れ、語り出す。
「──おや……この美の波動……まるでダイヤの原石。そこのキミ、運命を感じないかい?」
「……え?」
五分が固まる。その男はキラキラのスーツを着たナルシスト系イケメン(自称)だった。
彼の名を「ナンパ王レイ・バカーノ」。炎王の手下にして、迷惑の権化である。
「私は美の伝道師。キミのような美を放っておくなど、このレイ・バカーノが断じて許さんッ!」
一瞬変な空気が流れると共に三人は固まる。
……。
「──さくら、今日宿で泊まるんだっけ」
「そうだね、確か予定ではアイスが無料だとか、、、」
三人はレイを無視するが、気にせず近づいてくる。
「無視するなーッ!!私は君に会うために生まれてきたと言っても過言ではない程なのだぞ!」
レイ・バカーノは、愛の炎(?)に燃えて五分に手を伸ばし、華麗に呟く。
「このままキミを愛の牢獄に閉じ込めて、24時間365日見つめ続けよう……」
「……わお//」
「……え?」
さくらが凍りつき……五分は手で頬を隠し、モジモジする。
、それを横目にクリチーが一人で盛り上がっていた。
まさに地獄絵図である。
「私はあなたを一生愛そう!!」
五分が頬を赤らめながら一言。
「も、もしも私が男でもですが……?」
数秒間の沈黙のあと──
「……なるほど、だがそれもまた美。むしろ美しさにそんなものは関係ないのだよ……!!」
「開眼すんな!余計ややこしい方向に目覚めるな!!」
さくらが叫びながらレイを木刀で殴り飛ばす。
「うっぶッ……!!」
ぐるりと回りながら立ち上がり言い放つ。
「ふふ、私の恋路を邪魔するか……仕方ない、これであなたを消させてもらうよ」
するとレイが奇妙な銃を取り出した。
「これは『メスイプ・スリーピング・ウォーターガン』──当たった者は10秒で夢の世界へ旅立つ、麻酔水鉄砲だ!」
レイが水鉄砲を乱射。シュッシュッシュッと放たれる水弾がさくらをかすめる。
「うぅ……」
「どうだ、この私の究極の技は!はっーはっはー!」
レイがカッコよく決めポーズを撮った瞬間。
「えーい!」
さくらによって隙を突かれる。
「う"ぉ"ぉぉおおおっぉ?!!!!」
ズドォォン!!
汚い断末魔と共に一撃が、レイ・バカーノの股間に炸裂した。
「ぐふっ……美が……崩れゆく……」
レイは最後に美しい声で倒れた(※本人談)。
「……なにが“愛の牢獄”だよ。こっちが“痛みの地獄”だよ」
さくらが上から睨みながら吐き捨てた。
五分は息を切らしながら、フラつくレイに近づいた。
「えーと、なんで炎王の手下さんが僕たちに?」
崩れゆく美の中呟く。
「ふふ……我ら炎王軍は……貴様を……消せという命を受けたのだ……覚悟しておくがいい……」
その言葉を残し、レイ・バカーノは美しく華麗に(気絶して)崩れ落ちた。
数秒の沈黙のあと──
「……なんだったんだ、アイツ」
「ほんとそれ」
「てか、炎王の手下ってあんな奴ばっかなの?」
「だったら勝てるかもしんないね」
3人はそんな軽口を交わしながら、再び冒険の道を歩き出す。
この先、どんなバカと事件が待っているかも知らずに────。
ナンパ王レイ・バカーノさんへ♪
「きゃっ、レイさんごめんなさい、私、あなたみたいな、ナルシストさん。正直ウザすぎて耳に入るだけで雑音レベルですわ♪存在が迷惑っていうか、歩く自撮り棒?と思ってしまったの。でもね……人としては幸せになってほしいなって思ってる。だから、私はあなたが嫌い✧*。」
美しき五分より。
同情を込めて……。