第五話「果てしなき物語へ」
桜の木の影が心地よく揺れる朝、さくらの家のリビングで、五分はブランケットにくるまっていた。
全身ボロボロ、傷はなんとか手当てされたが、心のダメージはまだ癒えていない。
「……無理。絶対無理!炎王の本拠地に乗り込むとか、人生で一番やっちゃいけないやつだよ」
包帯ぐるぐる巻きのまま、五分はソファに沈んでいた。
その隣でさくらとクリチーが、少し呆れた顔で見つめてくる。
「何言ってるの、五分も行くのよ」
「うんうん、ここで逃げたらヒーロー失格だよ?」
「いや、そもそも僕ヒーローじゃないし!“ちょっと可愛い高校生(自称)”だし!」
五分がジタバタすると、ブランケットが床にずるりと落ちた。
「ていうか本拠地の場所知らないでしょ?もうこの作戦は最初から破綻してるんだって!!勢いとノリで行く系主人公じゃないからね?」
「そういえば……確かに場所わかんないね……」
さくらが少し考え込む。
「うーん、とりあえず外に行ってみよう」
「そのノリで旅に出て世界救ったやつ、実在すんの!?!?」
──ということで、なぜか三人は広場に集まっていた。
朝の光がまぶしく、通りには人影もまばらだ。
が、しかし──
「あれ……?」
五分が目をこすって二度見する。
広場の端、ベンチの前に立っていたのは……
少女Aちゃん。そして──
「犬……じゃない!?え、少女Aが連れてる、あれは……まさか……!」
一同は叫ぶ
『TA NA KA さん?!』
そう、少女Aちゃんは田中さんを“お散歩”中だったのだ。
「なにこの絵面!?田中さん、通報される前にやめて!!」
「ふむ、確実にそういう"プレイ"ですな」
「誤解招くからやめて?!」
クリチーとさくらが言い合っていると少女Aちゃんが挨拶をする。
「ふふふ、おはようございます!皆さん」
少女Aちゃんが無邪気に笑うと、胸ポケットからなにかを取り出した。
「さっきね、これ落ちてたの。田中さんが、さくらさん達に必要だって言ってたから渡そうと思って」
何やら地図らしきパンフレット(?)を渡す。
「これって……」
クリチーが少女Aの手から受け取る。
それは、『★炎王の本拠地MAPへ行こう!楽しいしおり 1975年12月21日★』と書かれた年代物の地図だった。しかも本格的、封筒入り。
「いつの時代だよ?!てかセンス悪!!」
さくらが思わずツッコミ魂を解放してしまう。
閑話休題。
「……こんな異物、どこで拾ったの?」
「ゴミ捨て場の近くで。ふわ~って飛んできたのを田中さんが、拾ってくれて……」
「そんな重要アイテム、そんな軽率に流れてくるなよ!!!てか田中さんご都合すぎでしょ!?」
さくらが盛大にズッコケた。
「なんだよこれ、物語への乱入が雑すぎるよ…」
「まあまあ、結果オーライってやつだね」
田中さんが爽やかに笑って、少女Aちゃんとそのまま去っていく。
──五分が呟く。
「さくら、なんであの人いつもこうやって絶妙に関わってくんの?」
「うーん……ちょうどいい駒だったんじゃない?」
そんなこんなで、なんやかんやと地図を手に入れた三人は、ついに決意を固める。
「じゃあ……行こうか。炎王の本拠地へ!」
『うん!』
「まって、まだ僕の心の準備が──」
「いっけー!」
「ひどい、置いてかれたぁぁぁ!」
──こうして、ゆかいな三人組は、炎王の本拠地への冒険へと出発する!
「俺たちの冒険はここからだーッ!」
もうそのネタええわ!!