第一話「原点にして底辺」
僕の名前は五分。
……時間の単位じゃないよ?漢字で“五分”って書く。
そう、主人公の名前だよ覚えておいてね。
さて、単刀直入に言わせてもらう、この物語のあらすじ、アレの内容──
すまん、全て嘘だ。
正直言おう、思い出なんかどうでもいい、この物語を見てしまったのが君の末だ。
結論。今言いたいのは────
「いっやぁぁぁぁぁぁぁ!!助けてぇェェ!!」
全力疾走。
後ろからドスンドスンと地響きが聞こえてくる。振り返ると、見た目も性格も全力で突進してくるあの存在――
「なんで、、イノシシなのにスライムなのぉぉぉ!?」
その名の通り、イノシシとスライムを混ぜたような存在。可愛くない。てか怖い。てか速い!
逃げても逃げても、ぷるぷるしながら追いかけてくる。しかもなんか嬉しそうに!
「…こっちは命懸けなのに、向こうは運動会かよ!」
と、ふと目に飛び込んできたのは――
「コンビニ!」
自動ドアをスライディングで滑り込み、ガッと中に転がり込む。直後、後ろでピタッと足音(というかスライム音)が止まった。
「……はぁ、助かった……。マジで一生分の体力使ったよ…」
立ち上がり、ぜぇぜぇと肩で息をしていると、
「五分、」
「ひいっっ!イノシシ!」
「……誰がイノシシじゃああ!」
その声と同時に、脳天にチョップ炸裂。
「……って、さくら!?なんで背後に立ってるの!?怪我したいの?!」
「お前はゴルゴか、」
そこにいたのは、主人公、五分の幼馴染───名をさくら。
後ろに赤い紐のリボンをつけた黒髪ロング、剣道部でありながら成績も優秀、人生が普通すぎて面白みのない(仮)の女ヒロインである。
「……半分悪口じゃん、てか私は正式ヒロインですっ!」
「え、なんでナレーションの声聞こえちゃってるの?!さくらってエスパー?超能力者?感情共有型ヒロイン?!」
『違うっつーの!!心の声も聞こえとかないとノリツッコミができないでしょ!』
「……え、じゃあ……あの時、僕がさくらの制服姿を見て“やべ、ちょっと可愛い”って思ってたのも……?」
『えっ、きも』
「。いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」
コンビニに響き渡る叫び声。店員さんに白い目で見られたのは言うまでもない。
──そんな感じで、五分とさくらは昔からの仲。
喧嘩もするけど、いつもなんだかんだ五分の隣にいる。というか、むしろツッコミ無しでは物語の存在が成り立たいのだ。
「……さくら、今日は何してたの?」
「随分普通な質問ね……、暑いから水を買いに来たの」
「そっかー確かに暑いね、あそこのカップルもアツアツだ!」
「うまいこと言ったつもりかそれ」
ふと、時計を見たさくらが「あ、そろそろ帰るね」と言って、レジ袋を片手にドアに向かう。
「バイバイ、五分。」
「バイバイイノシ─あ、いやさくら」
その瞬間、さくらがピタッと止まり、車を投げ飛ばす。
「うわっちょっと待ってさくらさん、物理法則無視してるって!」
バコーン!!
車が五分にクリーンヒットし、五分は一瞬視界が真っ白に。
「……それじゃ、またね」
死の宣告と共に彼女は去っていった。
───────。
「なんか、今日のテンポ早すぎた気がするんだけど……」
──その夜。五分はいつも通り布団にもぐり込み、今日も平和だなぁ……と安心して眠りについた
しかし翌朝。
ピロリンッ
スマホに届いた、一本の緊急メッセージ。
「助けて」
送信者:さくら。
「……え?」
目をこすりながら、画面を見つめた。