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第9話「王都への旅立ち」

思わぬ訪問者


王都料理ギルドからの招待状を受け取った翌日、俺とリーファは旅立ちの準備をしていた。荷物をまとめながら、どんな強敵が待ち受けているのかを考えると胸が高鳴る。


「健太、本当に私も一緒で大丈夫ですか?」


リーファが不安そうに尋ねる。


「当然だ。君の魔法がなければ、俺の料理も半分の力も出せない」


その時、ドアがノックされた。


「健太さん、いらっしゃいますか?」


聞き覚えのある上品な声。ドアを開けると、そこにはエリス・ヴァルハイムが立っていた。いつものドレス姿ではなく、動きやすそうな冒険者風の服装で。


「エリスさん?どうして...」


「あの、お話があって」


エリスが恥ずかしそうに俯く。部屋に招き入れると、彼女は意外なことを口にした。


「私も、王都に同行させていただけませんか?」


「え?」


「実は...」エリスが真剣な表情になる。「兄から聞きました。健太さんが全国料理コンテストに参加されると」


「ええ、そうですが...」


「実は私、【魔法料理学】を王都の学院で学んでいたんです」


俺とリーファは驚いた。エリスが料理の知識を持っているなんて、全く知らなかった。


「魔法料理学?」


「魔法と料理を融合させる学問です。私はまだ初心者ですが...健太さんのお役に立てるかもしれません」


エリスの瞳に強い意志が宿っている。


「でも、危険な旅になるかもしれませんよ」


「大丈夫です」エリスが微笑む。「兄も許可してくれました。それに...」


彼女が少し頬を染める。


「健太さんと一緒にいると、新しい自分を発見できる気がするんです」


## 予想外の同行者


エリスの参加が決まった矢先、さらに驚くべき訪問者が現れた。


「よお、健太!」


豪快な声と共に現れたのは、なんとガロンだった。しかし、いつもの軽装ではなく、立派な鎧に身を包んでいる。


「ガロン?その格好は...」


「実はな」ガロンが照れたように頭を掻く。「俺も王都に用があるんだ」


「用って?」


「【王国騎士団】の入団試験があるんだよ」


俺たちは呆然とした。ガロンが騎士団に?


「おい、そんな顔するなよ。俺だって昔は騎士を目指してたんだ」


「知りませんでした...」


「まあ、色々あって諦めてたんだが」ガロンが遠い目をする。「お前たちと冒険してるうちに、もう一度挑戦してみたくなったんだ」


「それで、一緒に?」


「護衛も兼ねてな。王都への道は物騒だから、剣の使える奴がいた方がいいだろ?」


こうして、予想外に4人パーティでの旅立ちとなった。


## 旅路の中で


王都への道のりは馬車で3日間。初日は順調に進んでいた。


馬車の中で、エリスが持参した魔法料理学の本を見せてくれる。


「この【味覚共鳴】という技術、とても興味深いんです」


「味覚共鳴?」


「食べる人の好みに合わせて、料理の味を微調整する魔法です。でも、とても高度で...」


俺は本を読みながら、自分の料理スキルとの関連性を考えた。もしかすると、俺のスキルにもまだ未知の能力があるのかもしれない。


「健太」リーファが窓の外を見ながら言う。「何か変です」


「変?」


外を見ると、確かに異様だった。森が静まり返っている。鳥の鳴き声も虫の音も聞こえない。


「ガロン、止めてくれ」


馬車が停止する。ガロンが剣の柄に手をかけた。


「魔物の気配は感じないが...」


その時、森の奥から奇妙な甘い香りが漂ってきた。


「この匂い...」俺の料理スキルが警告を発する。「まずい!みんな息を止めて!」


## 魔香草の罠


「【魔香草】だ!」エリスが叫ぶ。「幻覚を見せる毒草よ!」


しかし、警告が遅すぎた。リーファがふらつき始める。


「健太...なんだか眠く...」


リーファが倒れそうになる。俺が慌てて支えようとした瞬間、森の中から複数の人影が現れた。


「やれやれ、気づくのが早いじゃないか」


現れたのは、黒いローブを着た男たちだった。リーダー格らしき男が不敵に笑う。


「【闇商人】ね...」エリスが顔を青くする。


「お嬢ちゃん、よく知ってるじゃないか。ヴァルハイム家の令嬢なら、いい値で売れそうだ」


「貴様ら!」ガロンが剣を抜く。


「待て、ガロン」


俺が前に出る。魔香草の毒が全員に回り始めている。普通に戦っては勝ち目がない。


「料理で解決する」


「料理?こんな時に何を...」


俺は急いで荷物から【清浄の薬草】を取り出した。王都への旅路で何があるか分からないと思い、様々な薬草を準備していたのだ。


「リーファ、意識を保って。君の魔法が必要だ」


「は、はい...」


俺は素早く【解毒スープ】の調理を始める。魔香草の毒を中和する特殊な料理だ。


しかし、闇商人たちがそれを黙って見ているはずがない。


「面白い真似を...」


男たちが襲いかかろうとした時、意外な人物が現れた。


## 謎の救援者


「【風刃乱舞】!」


突風と共に現れた人影が、見事な剣技で闇商人たちを圧倒した。あっという間に敵は全員気絶している。


「大丈夫ですか?」


振り返ると、そこには見知らぬ青年が立っていた。銀髪に青い瞳、整った顔立ちの美青年だ。


「あなたは?」


「申し遅れました。私は【セレスティア】。旅の剣士です」


セレスティア?どこかで聞いたような名前だが思い出せない。


「助かりました。ありがとうございます」


俺は急いで解毒スープを完成させ、みんなに飲ませた。効果は抜群で、全員の意識がはっきりした。


「健太、ありがとう」リーファが安堵の表情を見せる。


「それにしても」ガロンがセレスティアを見る。「見事な剣技だったな。どこで習った?」


「えーと...独学です」


セレスティアが少し慌てたような表情を見せる。


「独学でこれほとは...才能ですね」エリスが感心する。


「あの、もしよろしければ」セレスティアが遠慮がちに言う。「私も王都に向かっているのですが、一緒に旅をさせていただけませんか?」


俺たちは顔を見合わせた。


「構いませんが...理由を聞いても?」


「実は...全国料理コンテストを見学したくて」


意外な答えだった。


「料理に興味が?」


「はい!特に、田中健太さんという方の料理を見てみたいんです」


俺は驚いた。


「俺が田中健太ですが...」


「え?」セレスティアの目が輝く。「本当ですか?あの【奇跡の浄化スープ】を作った?」


「ご存知なんですか?」


「もちろんです!王都でも話題になってます。是非、一度お料理を食べさせていただきたい」


こうして、5人での旅となった。


## セレスティアの正体


その夜、野営地で夕食を作っていると、セレスティアが興味深そうに俺の手元を見つめている。


「セレスティアさんは、なぜそんなに料理に詳しいんですか?」エリスが尋ねる。


「実は...」セレスティアが少し困ったような表情を見せる。「私、料理が全くできないんです」


「え?」


「だから、美味しい料理を作れる人に憧れてるんです。特に健太さんのような...」


その時、俺はあることに気づいた。セレスティアの持つ剣。あれは...


「その剣、【ミスリル】製ですね」


「え?あ、はい...」


ミスリル製の剣など、王族や最高位の騎士しか持てない代物だ。


「セレスティアさん」俺が真剣な表情で尋ねる。「本当の身分を教えてもらえませんか?」


セレスティアが困ったような表情を見せた後、観念したように頷いた。


「分かりました...実は私」


彼女が深呼吸して告白する。


「私は第三王女、セレスティア・アルティマです」


一同、絶句。


王女が変装して俺たちと旅をしていたなんて...


「おい、マジかよ...」ガロンが呟く。


「なぜ王女殿下が?」エリスが混乱している。


「実は、全国料理コンテストの【特別審査員】として参加予定だったんです」セレスティアが苦笑いする。「でも、護衛に囲まれての移動が嫌で...つい抜け出してしまって」


「それで偶然俺たちと?」


「はい。でも、本当に偶然だったんです!」


王女との出会い、これは想像以上に大きな出来事になりそうだった。


## 新たな決意


翌朝、セレスティア王女の正体が判明したことで、旅の雰囲気は少し変わった。


「殿下と呼ばせていただきます」エリスが改まる。


「いえ、セレスティアで結構です。私、堅苦しいのは苦手なので」


王女は気さくな性格で、すぐに打ち解けることができた。


「健太さん」セレスティアが真剣な表情で言う。「コンテストでは手加減しませんよ。審査員として、厳正に評価させていただきます」


「望むところです」


俺も気持ちを新たにした。王女が審査員。これまで以上に気を引き締めなければならない。


「でも、その前に」セレスティアが微笑む。「今夜の夕食、楽しみにしてますね」


「はい、頑張ります」


## 王都到着


3日目の夕方、ついに王都【ロイヤルハート】が見えてきた。


巨大な城壁に囲まれた美しい都市。中央にそびえる王城は、まさに威厳に満ちている。


「すごい...」リーファが感嘆の声を上げる。


「初めてですか?」セレスティアが微笑む。


「はい。こんな大きな街、見たことがありません」


「私も地方の出身なので」エリスも興奮している。


「よし」ガロンが気合いを入れる。「俺たちの挑戦の始まりだ」


城門で身分証明を済ませ、ついに王都に足を踏み入れた。


「健太さん」セレスティアが別れ際に言う。「私は王城に戻らなければなりません。でも、コンテストでまた会いましょう」


「はい。必ず最高の料理を作ってみせます」


「期待してます」


セレスティアが去った後、俺たちは宿を探した。料理ギルドが用意してくれた宿は、思いのほか立派だった。


## 隠された真実


宿に着いて荷物を整理していると、リーファが重大な発見をした。


「健太、これを見て」


リーファが指さしたのは、俺の料理スキルのステータスウィンドウ。そこには、今まで見たことのない項目が表示されていた。


【隠しスキル解放条件達成】

- 王都到達:✓

- 王族との接触:✓

- 仲間との絆レベル最大:✓


**新スキル【創造料理】解放可能**


「創造料理?」


詳細を確認すると、驚くべき内容だった。


『【創造料理】:存在しない料理を創造する究極のスキル。ただし、使用には膨大な魔力と生命力を消費する』


「これは...」


俺の料理スキルには、まだこんな秘密があったのか。


「健太、でもこれ危険じゃない?」リーファが心配そうに言う。「生命力を消費するって...」


「そうですね」エリスも不安そうだ。「無理は禁物です」


「分かってる。でも...」


俺は窓の外に広がる王都の夜景を見つめた。


明日からコンテストが始まる。どんな強敵が待ち受けているか分からない。


でも、俺にはリーファ、エリス、ガロン、そしてセレスティア王女という仲間がいる。


「絶対に優勝してみせる」


俺の新たな挑戦が、今始まろうとしていた。



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