第2話:初依頼と異世界食材の驚異
街の外に出て、依頼のハーブグラスを探し始めた。
料理スキルの効果なのか、薬草の在り処が直感的に分かる。まるで宝探しのマップを持っているような感覚だ。
「これがハーブグラス...」
手に取った瞬間、詳細な情報が頭に流れ込んできた。
『【ハーブグラス】
・魔力回復:MP+30
・調理効果:適切な調理により魔力回復効果が3倍に増加
・特殊効果:他の食材と組み合わせることで相乗効果を発揮』
「魔力回復効果が3倍って...」
地球の料理スキルとは明らかに違う。これは本当にチートスキルなのかもしれない。
10本のハーブグラスを採取しながら、他の植物も観察してみる。
『【レッドベリー】
・HP回復:HP+50
・調理効果:ジャムに加工すると回復効果が持続化
・希少度:★★☆☆☆』
『【ロックマッシュルーム】
・筋力向上:STR+5(一時的)
・調理効果:適切な加熱により効果が永続化
・希少度:★★★☆☆』
「永続化って...まさか」
心臓がドキドキした。もしかして、俺の料理スキルは想像以上にヤバいんじゃないか?
街に戻る途中、森の奥から悲鳴が聞こえた。
「助けて!誰か!」
女性の声だ。迷ったが、放っておけない。声の方向に向かって走った。
森の奥で見たのは、巨大な魔物――【フォレストウルフ】に襲われている少女だった。
エルフのような長い耳、緑色の美しい髪。冒険者らしき装備を身に着けているが、武器は折れ、体中に傷を負っている。
「くそ、武器が...!」
少女が絶望的な表情を浮かべる。フォレストウルフが今にも飛びかかろうとしていた。
俺に戦闘スキルはない。でも、何もしないなんてできない。
咄嗟に、さっき採取したロックマッシュルームを手に取った。料理スキルの知識が頭に浮かぶ。
『緊急時の野戦料理:ロックマッシュルームの素焼き』
魔法でも何でもない。ただの直感だった。
石と石をこすり合わせて火花を散らし、乾いた枝に火をつける。そして、ロックマッシュルームを焚き火で素早く焼く。
「何をしているの!?」少女が叫ぶ。
「信じて!」
1分後、香ばしい匂いと共に焼きマッシュルームが完成した。
「これを食べて!」
「え?でも今は...」
「いいから!」
少女が慌てて口に放り込む。その瞬間――
「!!!」
少女の体が光った。傷が瞬時に治癒し、筋力が大幅に向上したのが見て取れる。
「な、何これ...体が軽い!力が溢れてくる!」
少女が驚愕の表情を浮かべる間に、フォレストウルフが襲いかかってきた。
しかし――
「えい!」
少女の拳がフォレストウルフの顎を捉える。
ドガァァン!
巨大な魔物が宙を舞い、木に激突して動かなくなった。
「...え?」
少女が自分の手を見詰める。さっきまで武器なしでは歯が立たなかった相手を、素手で一撃で倒したのだ。
「すごい...これ、本当に永続効果なの?」
俺も驚いた。料理スキルで一時的効果を永続化できるなんて、どう考えてもチートすぎる。
「ありがとう!あなたが助けてくれなかったら...」
少女――エルフの【リーファ】は深々と頭を下げた。
「リーファ・グリーンリーフ、Dランク冒険者です。本当に、命の恩人です」
「田中健太です。まだE ランクにもなってませんが...」
「E ランクって...でも、あの料理は一体?」
リーファの瞳が輝いている。
「実は【料理】スキルを持ってるんです」
「料理スキル?」リーファが首をかしげる。「でも、あんな効果的な料理、見たことないよ?」
「僕も今日初めて作ったんです」
嘘じゃない。地球での料理経験はあるが、異世界の食材を使うのは初めてだった。
「...すごい」リーファがぽつりと呟く。
「私、5年間冒険者やってるけど、ステータスの永続向上なんて、伝説の魔法薬でしか聞いたことないよ」
伝説の魔法薬。それを俺は焚き火とマッシュルームだけで作れてしまった。
「あの...お礼がしたいんです」
リーファが申し訳なさそうに言う。
「私、お金はあまりないんですが...よろしければ、街を案内させてください。あと、冒険者としてのアドバイスも」
「ありがとうございます」
一人では不安だった異世界生活。仲間ができるのは嬉しい。
「それと...」リーファが恥ずかしそうに言う。
「もしよろしければ、また、その料理を...作ってもらえませんか?報酬はお支払いしますので」
この時の俺は、まだ知らなかった。
このささやかな出会いが、やがて異世界全体を巻き込む大きな変化の始まりだということを。
そして、リーファが俺の最初の「弟子」になるということも。
街に戻る道すがら、リーファが興奮気味に話し続けた。
「STRが8も上がってる!8だよ8!普通のランクアップでも2か3なのに!」
「そんなにすごいことなんですか?」
「すごいなんてもんじゃないよ!これで私、Cランクに昇格できるかも!」
リーファの笑顔を見ていると、こちらも嬉しくなってくる。
料理で人を幸せにする。これが俺の求めていたことだ。
ギルドでハーブグラスの依頼を完了させると、受付のお姉さんが驚いた。
「あら、もう戻られたんですね。早いですね」
「ご一緒させていただきました」リーファが説明する。
「そうですか。では報酬をお渡しします。銅貨5枚になります」
初めて稼いだ異世界でのお金。たった5枚の銅貨だが、なぜかとても価値があるように感じた。
「健太さん」リーファが振り返る。「今日は本当にありがとうございました。明日もギルドに来られますか?」
「はい、来る予定です」
「それじゃあ、明日、お礼をさせてくださいね」
手を振って去っていくリーファを見送りながら、俺は確信した。
料理スキルは最弱なんかじゃない。使い方次第で、とんでもない可能性を秘めている。
明日からが楽しみだ。
第2話 完