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第11話「禁断の料理術」

準決勝の朝


準決勝当日の朝、俺は早めに起きて瞑想していた。昨夜のフレイムの警告が頭から離れない。


「健太、大丈夫?」


リーファが心配そうに声をかけてくる。


「ああ。ただ、今日は特に気を引き締めないといけない」


「ダーク・シャドウのことですね」エリスも不安そうだ。


「まだ姿を見てないが...」


その時、宿の窓から外を見ると、黒いフードを被った人影が通りを歩いているのが見えた。その人物の周りだけ、なぜか空気が重く感じられる。


「あれは...」


人影が振り返った瞬間、俺たちの目が合った。フードの奥で赤い瞳が光る。ゾクリと背筋が寒くなった。


「間違いない。あれがダーク・シャドウだ」


## 会場の異変


準決勝会場に到着すると、明らかに昨日とは雰囲気が違っていた。


20名の参加者が集まっているが、なぜか皆の表情が暗い。特に、ダーク・シャドウの近くにいる参加者たちは、まるで生気を吸い取られたような顔をしている。


「皆さん、お疲れさまです」


セレスティア王女が審査員席に現れた。彼女もダーク・シャドウの存在に気づいているようで、警戒の色を隠せない。


「準決勝のテーマを発表いたします」


司会者が大きな声で告げる。


「本日のテーマは...【心を癒す究極の料理】!」


「制限時間は3時間!それでは...スタート!」


ダーク・シャドウの正体


調理が始まると同時に、ダーク・シャドウが動き出した。彼が取り出したのは、見たことのない黒い食材たちだった。


「あれは...【闇茸】?」エリスが顔を青くする。


「知ってるんですか?」


「禁断の食材です。食べた人の心を操る効果があると言われています」


俺は愕然とした。そんなものを使った料理が許されるのか?


しかし、審査員たちは何も言わない。どうやら、ルール上は問題ないようだ。


「健太、どうしましょう?」リーファが震え声で尋ねる。


「俺たちは俺たちの道を行く。正々堂々と、心を癒す料理を作ろう」


俺の料理への想い


俺は【心を癒す】というテーマを深く考えた。


人の心を癒すものとは何か?


美味しさだけではない。温かさ、優しさ、そして愛情。母親が作ってくれる家庭料理のような、心に響く何かが必要だ。


「リーファ、【ヒールグラス】と【ハートベリー】を準備してくれ」


「はい!」


俺が作ろうとしているのは【母の愛スープ】。故郷で母がよく作ってくれた野菜スープを、異世界の食材でアレンジした料理だ。


「エリス、君の魔法料理学の知識を貸してくれ。感情に訴える調理法はある?」


「はい。【共感調理】という技術があります。作る人の想いを料理に込める方法です」


「教えてくれ」


エリスの指導で、俺は調理しながら大切な人たちへの想いを込めていく。母への感謝、仲間たちへの愛情、そして料理への情熱...


## ダーク・シャドウの禁術


一方、ダーク・シャドウの調理は異様だった。


彼は闇茸を煮込みながら、何やら呪文のようなものを唱えている。その料理からは不吉な紫色の煙が立ち上っていた。


「あの煙...」


ライトニング・スピードが気分を悪そうにしている。他の参加者たちも同様だ。


「皆さん、換気をしてください!」


セレスティア王女が指示を出すが、既に遅かった。会場全体に不吉な煙が充満している。


「健太!」リーファが俺にしがみつく。「なんだか、とても嫌な気分になります」


「大丈夫だ。俺たちの料理に集中しよう」


俺は必死に自分たちの調理に専念した。しかし、周りの参加者たちの様子がおかしくなってきている。


料理の対決


制限時間が終わり、ついに審査の時間がやってきた。


最初に審査されたのはフレイム・バーナードの料理。炎の魔法で作られた【燃える心のステーキ】は、見事な出来栄えだった。


次にアイス・クリスタルの【氷晶の癒しスープ】。冷たいスープなのに、なぜか心が温まる不思議な料理だった。


そして、ダーク・シャドウの番が来た。


「【絶望の慰めシチュー】です」


彼が差し出した料理は、見た目は普通のシチューだった。しかし、その香りには何か邪悪なものが混じっている。


審査員たちが一口食べた瞬間、その表情が一変した。


「美味しい...こんなに美味しい料理は初めてだ...」


「素晴らしい...完璧な料理だ...」


審査員たちが異様なほど絶賛している。セレスティア王女だけが、なんとか正気を保とうとしているようだった。


## 俺の番


「田中健太さん、お願いします」


ついに俺の番が来た。


「【母の愛スープ】です」


俺が差し出した料理は、見た目は質素な野菜スープだった。しかし、その香りには故郷の温かさが込められている。


審査員たちが一口飲んだ瞬間...


「あ...」


ダーク・シャドウの料理によって曇っていた彼らの瞳に、光が戻った。


「これは...なんて優しい味なんだ」


「心が洗われるようだ...」


「まるで、母親に抱かれているような安心感...」


審査員たちが涙を流し始める。俺の料理が、ダーク・シャドウの呪いを打ち破ったのだ。


ダーク・シャドウの逆襲


「馬鹿な...私の料理が破られただと?」


ダーク・シャドウが初めて感情を露わにした。


「貴様...一体何者だ?」


「ただの料理人です」俺が冷静に答える。


「ただの料理人が...私の【支配の料理】を破るなど...」


ダーク・シャドウが何かを取り出そうとした時、会場に騎士たちが現れた。


「ダーク・シャドウ!貴様を【禁術使用】の罪で逮捕する!」


騎士たちがダーク・シャドウを取り囲む。


「フン...今日のところは退いてやる」


ダーク・シャドウが煙玉を投げると、瞬時に姿を消した。


## 準決勝結果


「皆さん、申し訳ありませんでした」


セレスティア王女が深々と頭を下げる。


「ダーク・シャドウの侵入を防げず...でも、田中健太さんのおかげで事なきを得ました」


会場に安堵の空気が流れる。


「それでは、準決勝の結果を発表いたします」


「決勝進出者5名!」


「1位、田中健太!」


また1位だった。俺の料理が、邪悪な魔法を打ち破ったことが高く評価されたようだ。


「2位、フレイム・バーナード!」


「3位、アイス・クリスタル!」


「4位、ハーブ・メディスン!」


「5位...」司会者が少し迷った後に言う。「ライトニング・スピード!」


意外にもライトニングが5位で滑り込んだ。


## 決勝への決意


控室で、フレイムが俺のところにやってきた。


「田中さん、見事でした。まさか、あの禁術を正面から破るとは」


「運が良かっただけです」


「謙遜しないでください」フレイムが真剣な表情になる。「あなたの料理には、本当の『愛』が込められている。それが邪悪な魔法を打ち破ったんです」


「ありがとうございます」


「明日の決勝...」フレイムが手を差し出す。「正々堂々と戦いましょう」


「はい!」


俺も彼の手を握り返した。


## セレスティアとの会話


夜、宿に戻ると、セレスティア王女が変装して訪ねてきた。


「健太さん、今日はありがとうございました」


「当然のことをしただけです」


「いえ」セレスティアが首を振る。「あなたの料理には特別な力がある。人の心を真に癒す力が」


「セレスティア...」


「明日の決勝、私は審査員として厳正に判断します。でも...」


彼女が微笑む。


「あなたの料理を食べるのを楽しみにしています」


## リーファの成長


セレスティアが帰った後、リーファが俺に言った。


「健太、私...今日、自分の魔法に新しい力を感じました」


「新しい力?」


「あなたの料理と一緒にいると、私の魔法も進化するみたいです。明日の決勝では、もっとお役に立てると思います」


「リーファ...」


俺は彼女の成長を実感した。一緒に旅をしてきた仲間たちが、みんな成長している。


「明日は最後の戦いだ。みんなで優勝を目指そう」


「はい!」


## 決勝前夜


その夜、俺は【創造料理】のスキルについて真剣に考えていた。


決勝では、このスキルを使う必要があるかもしれない。しかし、生命力を消費するリスクも大きい。


『使うべきか、使わざるべきか...』


窓の外に見える王城を眺めながら、俺は明日への覚悟を固めていた。


最弱スキル【料理】で、この世界の頂点を目指す。


その夢が、ついに現実になろうとしている。


謎の人影


夜中、俺がベッドで休んでいると、窓の外に人影が見えた。


ダーク・シャドウではない。もっと上品な雰囲気の人物だった。


その人影は俺たちの宿をじっと見つめた後、静かに立ち去った。


『一体、誰だったんだ?』


嫌な予感がしたが、疲労に負けて俺は眠りについた。


明日の決勝で、新たな波乱が待ち受けているとも知らずに...



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