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第10話「コンテスト開幕」

翌朝、俺たちは王都料理ギルド本部を訪れた。白い大理石で造られた威厳ある建物は、まさに料理の聖地と呼ぶにふさわしい。


「田中健太さんですね。お待ちしておりました」


受付の女性が丁寧に案内してくれる。会長室に通されると、そこには立派な白髭の男性が座っていた。


「私が料理ギルド会長のマルクス・ヴェルナーです」


「田中健太です。この度はお招きいただき、ありがとうございます」


「いやいや、こちらこそ。貴方の【奇跡の浄化スープ】の話は王都でも大変な話題になっています」


マルクス会長は人懐っこい笑顔を見せる。


「こちらの皆さんは?」


「俺の仲間です。リーファ、エリス・ヴァルハイム、ガロンです」


「ヴァルハイム?まさかあの公爵家の...」エリスを見て会長が驚く。


「はい。兄がお世話になりました」エリスが優雅に一礼する。


「これは光栄です。さて、田中さん」会長が改まった表情になる。「コンテストの説明をさせていただきましょう」


コンテストのルール


「今回の全国料理コンテストは3日間で行われます」


会長が大きな紙を広げて説明する。


「1日目は【予選】。100名の参加者から20名に絞られます」


「100名...」


想像以上の規模に驚く。


「2日目は【準決勝】。20名から5名へ」


「そして3日目が【決勝戦】」


「審査員は?」


「王国料理組合の重鎮5名、そして...」会長が意味深に微笑む。「特別審査員として、セレスティア王女殿下にもご参加いただきます」


俺は内心苦笑いする。昨夜まで一緒に旅をしていた仲間が審査員とは。


「各日のテーマは当日発表。使用できる食材は会場に用意されたもののみです」


「制限時間は?」


「予選は2時間、準決勝は3時間、決勝は4時間です」


「分かりました」


「それでは、参加者リストをお渡しします」


## 強敵たちの顔ぶれ


宿に戻って参加者リストを確認すると、そうそうたる顔ぶれに驚いた。


「【炎の料理人】フレイム・バーナード...王都で5つ星レストランを経営する料理界の重鎮」


「【氷の魔女】アイス・クリスタル...北方出身の魔法料理の天才」


「【薬膳の賢者】ハーブ・メディスン...東方から来た薬膳料理の専門家」


一人一人の経歴を見るだけで、レベルの高さが伝わってくる。


「健太、大丈夫?」リーファが心配そうに見る。


「問題ない。俺には君たちがいるからな」


その時、宿の扉がノックされた。


「田中健太さん、いらっしゃいますか?」


ドアを開けると、そこには見知らぬ青年が立っていた。黒髪に鋭い目つき、料理人らしい白衣を着ている。


「はじめまして。私は【神速の料理人】ライトニング・スピードです」


「ライトニング・スピード?」


参加者リストで見た名前だった。


「貴方が噂の田中健太さんですね。挨拶に伺いました」


「ご丁寧にありがとうございます」


「明日のコンテスト、楽しみにしています」ライトニングが不敵に微笑む。「【時短料理】では負けませんよ」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


ライトニングが去った後、リーファが呟く。


「なんだか、嫌な感じの人でしたね」


「確かに。でも実力は本物だろう」


前夜の準備


その夜、俺たちは明日に備えて最終調整を行った。


「健太、【創造料理】のこと、考えてる?」エリスが尋ねる。


「ああ。でも、まだリスクが大きすぎる。予選や準決勝では使わないつもりだ」


「賢明ですね」


「それより、リーファの自然魔法との連携を確認しておこう」


俺たちは簡単な料理を作りながら、魔法と料理の融合技術を練習した。リーファの成長促進魔法と俺の料理スキルの組み合わせは、確実に進歩している。


「素晴らしい連携ですね」エリスが感心する。「きっと他の参加者も驚くでしょう」


「でも、あまり目立ちすぎるのも考えものかもしれません」ガロンが忠告する。「手の内を見せすぎると、対策を練られる可能性があります」


「そうですね。段階的に見せていきましょう」


## コンテスト当日


翌朝、王都中央広場に設置された巨大な会場に向かった。観客席には数千人の見物客が詰めかけている。


「すごい人ですね...」リーファが緊張している。


「大丈夫。いつも通りにやればいい」


参加者控室で受付を済ませると、他の料理人たちと顔を合わせることになった。


「おや、田中健太さんですね」


声をかけてきたのは、初老の男性だった。


「私は【炎の料理人】フレイム・バーナードです」


「お会いできて光栄です」


「噂の【奇跡の浄化スープ】、興味深く聞かせていただきました。今日はよろしくお願いします」


フレイムは思ったより気さくな人物だった。


「こちらこそ」


その後、他の参加者とも挨拶を交わした。【氷の魔女】アイス・クリスタルは無口だが実力を感じさせる女性、【薬膳の賢者】ハーブ・メディスンは東方の知恵を感じさせる老人だった。


# 予選開始


「皆さん、お待たせいたしました!」


司会者の声が会場に響く。


「第50回全国料理コンテスト、予選開始です!」


観客席から大きな拍手が起こる。


「本日の予選テーマは...【地方の郷土料理を現代風にアレンジせよ】!」


「制限時間は2時間!使用できる食材は会場に用意されたもののみ!」


「それでは...スタート!」


100名の料理人が一斉に動き出した。


## 俺の戦略


俺は会場に用意された食材を素早く確認した。様々な地方の特産品が並んでいる。


「リーファ、あの【山菜】を見てくれ」


「はい!」


リーファが自然魔法で山菜の状態を確認する。


「とても良い状態です。でも、少し苦味が強いかもしれません」


「分かった。それなら【森の恵みスープ】をベースに、現代風のアレンジを加えよう」


森の恵みスープは俺の故郷の郷土料理だった。それを異世界の食材でアレンジする。


まず、山菜の苦味を抑えるために、リーファの魔法で成分調整を行う。次に、ドラゴンポテトを加えて栄養価を高め、最後に独自の調味料でバランスを整える。


「健太、隣の人...」


リーファが隣の調理台を見る。そこではライトニング・スピードが驚異的な速度で調理を進めていた。


「すごい速さですね」


確かに彼の手際は見事だった。まさに【神速】の名に恥じない技術だ。


「でも、俺は俺のペースでやる」


## 他の参加者たちの実力


会場を見回すと、それぞれの参加者の特色が見えてきた。


フレイム・バーナードは文字通り炎を操りながら調理している。その炎は普通の火ではなく、魔法で制御された特殊な炎のようだ。


アイス・クリスタルは氷の魔法を使って食材を瞬時に冷凍・解凍し、独特の食感を生み出している。


ハーブ・メディスンは大量の薬草を絶妙なバランスで配合し、体に良い料理を作り上げている。


「みんな、本当にすごいですね...」エリスが感嘆する。


「ああ。でも、俺たちも負けてない」


## 意外な展開


調理開始から1時間が経った頃、会場に異変が起きた。


「あ!」


ライトニング・スピードが突然手を止めた。彼の料理から黒い煙が上がっている。


「速すぎて失敗したのか...」


どうやら神速すぎて、火加減を間違えたようだ。彼が慌てて料理をやり直し始める。


さらに、別の参加者も食材を床に落として慌てている。プレッシャーに負けて実力を発揮できない者も出てきた。


「健太、集中して」リーファが俺の肩に手を置く。


「ああ、ありがとう」


俺は自分の料理に専念した。


完成


「あと30分です!」


司会者の声に、会場の緊張感が高まる。


俺の【現代風森の恵みスープ】がついに完成した。見た目は美しく、香りも素晴らしい。リーファの魔法によって、栄養価も通常の3倍になっている。


【現代風森の恵みスープ】

- 体力回復:+200

- 魔力回復:+100

- 精神安定効果:あり

- 美味しさ:★★★★☆


「よし、これで勝負だ」

# 審査発表


「時間です!調理終了!」


100名の料理人が一斉に手を止める。


審査員たちが各テーブルを回って試食を始めた。セレスティア王女も審査員の一人として、真剣な表情で料理を評価している。


俺の番が来ると、セレスティアが微かに微笑んだが、すぐに真面目な表情に戻った。


「これは...」


フレイム・バーナードが俺の料理を一口食べて驚く。


「素晴らしい。郷土料理の良さを残しつつ、完全に現代風にアレンジされている」


他の審査員たちも高評価を与えてくれた。


予選結果


1時間後、ついに予選結果が発表された。


「予選通過者20名を発表いたします!」


「1番、田中健太!」


俺の名前が最初に呼ばれた瞬間、観客席から大きな拍手が起こった。


「やったぁ!」リーファが飛び跳ねる。


「おめでとうございます」エリスも嬉しそうだ。


その後、フレイム・バーナード、アイス・クリスタル、ハーブ・メディスンの名前も呼ばれた。


意外だったのは、ライトニング・スピードも通過していたことだ。失敗からの立て直しが評価されたらしい。


「明日は準決勝です」司会者が告げる。「20名から5名に絞られます。皆さん、頑張ってください!」


## その夜


宿に戻った俺たちは、予選通過を祝った。


「健太、1位通過なんてすごいです!」リーファが興奮している。


「まだ予選だよ。本当の戦いはこれからだ」


その時、ドアがノックされた。


「田中健太さん、少しお話があります」


ドアを開けると、そこにはフレイム・バーナードが立っていた。


「どうぞ、お入りください」


「実は...」フレイムが真剣な表情で言う。「明日の準決勝、要注意人物がいます」


「要注意人物?」


「【闇の料理人】ダーク・シャドウ...彼は禁断の料理術を使う男です」


「禁断の料理術?」


「詳しくは言えませんが...気をつけてください。彼の料理は人を魅了し、正常な判断を奪います」


フレイムが去った後、俺たちは顔を見合わせた。


「健太、大丈夫ですか?」エリスが心配そうに尋ねる。


「ああ。どんな相手が来ても、俺たちの料理で正々堂々と勝負する」


でも、内心では不安もあった。禁断の料理術とは一体何なのか?


明日の準決勝が、想像以上に厳しい戦いになりそうな予感がしていた。


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