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 「このゴンドラ途中駅があってさ、そこで降りた様だったからまあ、助かったんだよね」

 知佳の父は笑いながら説明する。

 「上迄行ってたらこんな早く下りて来られなかったよ」

 「このゴンドラは降りるタイミング間違えたら怖いので、次からはあっちのリフトにしますよ」

 雪(まみ)れになった蓮の父は、苦笑しながらそう云ったが、知佳の父は隠袋(ポケット)から取り出したゲレンデマップを見ながら、

 「ああ、柏崎さん、それは駄目だ。あのリフト、さっきの中間駅よりちょっと上に着きますよ」

 「なんですと」

 「それよりは、この中央トリプルリフトってヤツの方が好いかも知れないですね。滑走面も広いし、滑りやすそう」

 「なるほど、ここからちょっと遠いですね。皆でこっちの方に移動しておきませんか」

 「うん、それでもいいし、もう一つ可能性としては――」知佳の父は皆に地図を見せながら、「今いるのがこの、からまつゲレンデってところね。この隣の、鐘の鳴る丘ゲレンデに行けば、ビギナーエリアから出ずに滑っていられるよ」

 「でも如何遣ってそこに行くんですか?」

 「ゴンドラ中間駅で降りて、そこからこっち側に滑って行けば」

 「いや無理でしょ!」知佳が声を挙げる。「最悪私たちは転びながらでも辿り着けたとしたってさ、完太如何するの?」

 「ああ……どうしようかなぁ」

 「お母さん来る迄待てば?」

 「お母さん来るの、如何頑張っても四時半位だろ」知佳の父は鳥渡困惑した様に眉を顰め、「ゴンドラ動いてるの、三時半迄なんだよね。こっちのリフトにしたって四時ぐらいまでで。どうしたって間に合わない」

 「ええ、ダメじゃん、てゆうか仮令(たとえ)今から行ったとしたって、帰り如何するのよ。下手したら帰って来れなくなるんじゃない?」

 「そうだよなぁ……リフト三つ位乗り継いで上の方迄行かないと、こっちに戻れないみたいなんだよな」

 「なにそれ、絶対嫌なんだけど」

 三科親子の口論に柏崎父がおずおずと「好いですよ、ここで」と口を挟んだ。

 「一回この、トリプルってリフト行って来ますよ。多分大丈夫ですよ」

 そしてさっさと移動を始める。蓮がそれに続くので、三科父娘も仕方なく移動をすることにした。

 「完太ー! あっちで橇しよ!」父が完太に声を掛ける。

 「えー、雪達磨作ったのに」

 完太の前には、大小三体の雪達磨が完成していた。何時の間にそんなに作ったのか。小さい物で完太の掌程度、大きい物でも精々頭部が十(センチ)程度だが。

 「んもう、一緒に持って行けば好いでしょ。ほら、橇に載せて!」知佳が急かす。

 「父ちゃんと母ちゃんと、姉ちゃん!」完太は雪達磨を橇に移しながら、そんなことを云う。

 「は?」

 なるほど、大小あるのは、そう云うことなのか。

 「完太はいないの?」

 「これから作ろうとしてたのにぃ」

 「じゃああっちに行ってから、作って」

 「うん」

 完太が橇を引っ張って移動するのだが、余りに雑な引っ張り方をした為に、目的の場所に辿り着いた頃には雪達磨達は跡形も無く崩れ去って仕舞っていた。

 「あーん、父ちゃんと母ちゃんと姉ちゃんが皆殺しだぁ」

 「ちょっと、恐ろしい表現しないでよ! 作り直してあげるから、もぉ」

 知佳が完太と一緒に雪達磨の再構築をしていると、大分スキー慣れしてきた蓮が近く迄滑って来て、二人の作業を覗き込んだ。

 「なんだ、雪達磨作ってるんだ」

 「父ちゃんと母ちゃんと姉ちゃんと、完太!」

 「先刻(さっき)作ってたの、持って来る迄に崩れちゃったから、作り直してるんだよ」

 「ふうん、家族なんだ。ねえねえ、蓮姉ちゃんは?」

 完太は作業の手を鳥渡止めて、まじまじと蓮の顔を見上げると、

 「じゃあこれ、蓮ちゃん」

 と云って、手の中で固めていた雪玉を見せた。

 「それ完ちゃんじゃないの?」

 「蓮ちゃん。だからもっと大きくする」

 雪玉に雪をくっ付けて、大きくしていく。

 「やだ、一番大きくなっちゃうじゃん。知佳姉ちゃんと同じぐらいにしてよ!」

 「むううぅぅ!」

 ダメ出しをされた完太は、やゝ不機嫌になりつつも、知佳雪達磨と同じ位の大きさを目指して作り直す。

 三人でそんなことをしている間、蓮の父は着実にスキーを上達させていった。三科父と一緒にリフトで上がって、子供達の処迄滑り下りて来ると云うことを数回繰り返したところで、母からの連絡が来た。父がその応対をしている間、柏崎父が蓮の様子を見に来た。

 「あーあ、お前たち結局、雪達磨作ってるだけか」

 「あたし少し滑ったよ」

 蓮が若干胸を張って云う。

 「知佳ちゃんは滑った?」

 「あ、あたしは完太見てたんで……ずっと雪達磨作ってましたよ」

 「そうかぁ……なんか悪いことしちゃったな」

 「好いですよ、小父さんが気にすることないです。うちのお父さんはもう少し気にして欲しいけど……」

 そう云って知佳は自分の父親を睨み付けてみるが、本人は何も気付かず、母とのメッセージの遣り取りに忙しそうにしている。

 「お父さーん! お母さんなんだって?」

 知佳が声を掛けると、三科の父は詰まらなさそうに知佳を見遣って、

 「来ても(ほとん)ど滑る時間無いから、宿で待ってるってさ。お母さんは明日からのスキー参加だな」

 「まあしょうがないよ。――雪達磨も作ったし、あたし鳥渡滑る練習する」

 立ち上がりながら、知佳は満足そうに自分達の作品群を見下ろした。

 「父ちゃん写真撮って! 母ちゃんに送って!」

 完太が雪達磨一家の前でVサインのポーズを取る。

 「そんな真正面にいたら、雪達磨写らないよ。横にどけっ」

 「はーい」

 「ハイ、チーズ!」

 「つぎ、姉ちゃんたちも入って!」

 「えー……」

 「あたしも好いの? やったあ!」

 知佳は渋々ながら、蓮はノリノリで、雪達磨の背後に(しゃが)むと、完太と一緒に写真に収まった。

 その後知佳は、父に教えて貰いながら鳥渡だけ滑った。完太から遠く離れる訳には行かないので、リフトには乗らず、近辺で行ったり来たりしただけだったが、それでも多少は様になって来たような気がした。


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