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 ガランガランと鐘が鳴らされた。皿の上には金色の球が転がっている。

 「おめでとうございます! 一等、スキー旅行に一家でご招待ぃ!」

 サンタクロースの帽子を被って法被(はっぴ)を着た小父(おじ)さんが、ニコニコしながら大きな祝儀袋を差し出す。

 「えっ、なんで、うそでしょ……」

 知佳は思わず蓮と顔を見合せた。

 クリスマスと年末商戦真っ盛りの商店街、その福引コーナーで、二つの家族が立ち尽くしていた。

 「ええと、これ……当てたのどっち?」

 「知佳じゃない?」

 「いや、蓮の分でしょ」

 少女二人がお互いに功績を押し付け合っている。その背後では、三人の大人が微妙な表情で視線を交わし合っている。

 「うちは二人ですし、これ四人分ですよね。三科(みしな)さん是非行って来てください」

 気の弱そうな男性が、夫婦と思われる二人の男女に譲る仕草をする。

 「いや、でも、これ恐らく蓮ちゃんの分を知佳が回しちゃったんですよ。柏崎さんに権利があると思いますよ」

 如何(どう)やら大人も押し付け合っている。

 「うちのじゃないの?」

 女性と手を繋いでいる小さな男の子が、(じっ)と見上げながら()いて来るので、再び全員が固まって仕舞(しま)った。商店街のクジ引き担当の小父さんは、困った様に二つの家族を見渡して、

 「申し訳ありませんが、後ろが(つか)えてますので……ええ、おそらく福引券はこちらの美しいお嬢さんの分だったかと……でもお話し合いは、どうぞあちらのベンチで」

 彼は賞品を蓮に押し付けながら、穏やかな表情で家族等を追い()った。

 当選者達は寛悠(ゆっくり)と移動しながらも、相変わらず押し付け合いを続けている。

 「お父さんが云う通り、うち二人だからさ。知佳の家族で行って来なよ。あたしスキーとかしたことないし」

 「あたしだってないよぉ。蓮の分なのにあたしがうっかり回しちゃっただけなんだから、貰っちゃったら申し訳なさ過ぎるよ」

 「うちの娘もこう云ってますし、如何か三科さんのご家族で……」

 「あの……提案なんですけどね」

 三科と呼ばれていた男性――知佳の父がおずおずと手を挙げながら、「差額を一対二で出し合って、皆で行きませんか?」

 「ええっ、ちょっとお父さん、幾ら掛かるのよ!」

 知佳の母親が狼狽(うろた)えた様に声を上げる。

 「今調べてたんだけどね、商店街の用意するペンションだし、そんなに高くないんだよね。でさ、この賞品は大人三人と子供一人分に使って、子供二人分を追加すれば全員行けるんじゃないかなって思って。小学生二人分の二泊三日だから、合わせても一万二千円ぐらいだよ。うちが八千出せば()いんじゃない? 八千円で二泊できると思えば安いもんだろ。なんなら、元々蓮ちゃんの分だし、うちが全額でも好いんだけど」

 「まあその程度なら……柏崎さん、如何でしょう。イヤでなければ」

 「あ、四千円てことですよね? うちは全然、その程度であれば。回したのは知佳ちゃんですし、うちも全然出しますよ。――ちなみにこの景品って、現地集合ですか?」

 「そうですね……ペンションの宿泊券だけみたいです。スキーレンタルとかのオマケは付いてるけど、交通手段に就いては皆無なんで、自力で行けって感じですね」

 知佳の父は蓮から受け取った封筒の内容を確認しながら、苦笑した。

 「ここの商店街の用意するものだもの、そんなもんでしょ」

 母親が詰まらなさそうに云う。

 「いや、僕はそっちの方が……遠距離バスとか苦手なんですよね」

 蓮の父は頭を掻きながら笑った。

 「知佳! 一緒に行ける! すごい!」

 蓮が知佳の腕を掴んで、ピョンピョン飛び跳ねながら喜んでいる。知佳も弾けんばかりの笑顔で、「すごいすごい!」と云いながら、蓮と一緒に跳んだ。

 「日程が、来年正月の最初の土日……月曜まで? ああ、成人の日ですね。二泊三日。大丈夫ですか?」

 「大丈夫ですよ、仕事始め火曜日なんで」

 「僕もですよ。じゃあうちの車で行きましょうか、無駄に八人乗りなので」

 「お父さん、雪道だよ、大丈夫?」知佳の母親が心配そうに夫を見る。

 「俺は雪国育ちだぞ、心配すんな!」

 「お父さん、スキー教えてね」知佳が父親の腕に(すが)りながら、目をキラキラさせている。

 「おじさん、あたしにも!」反対の腕には蓮がしがみ付いた。

 「任せとけ!」知佳の父親はホクホクしながら、二人の頭を順に撫でた。

 如何やら話は決着し、詳細は追々決めていきましょうと云うことで、二つの家族はそれぞれの家へと帰宅した。

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