青い火のろうそく
昔々、主な灯りがろうそくだった時代がありました。
その頃はテーブルの上で、燭台の上で、シャンデリアの上で、ランプの中で、ろうそくが赤々と人々を照らしていたのです。
ところが、ある時、その赤々とした光の中に、ぽつんと青い光が現れたのでした。
それは、青い火を灯すろうそくの光で、そのろうそくは周りのろうそくから「青火」と呼ばれておりました。
青火の周りのろうそくは言いました。
「やい青火、お前はなんだってそんなに気味の悪い光を出すんだ?」
「そうだそうだ、こっちにまで青色が移りそうだ」
「出てけ、出てけ」
さわぐろうそく達の言った事は、家主も思っていた事だったらしく、ある日青火は屋敷の召使いにつまみ出されて捨てられてしまいました。
それから、ゴミ捨て場にろうそく売りがやってきました。
「聞いたぞ、あの屋敷の主人が気味の悪いろうそくを捨てたそうじゃないか、どんなろうそくでも灯りにさえなれば売れるし使える、なんともったいない」
そう言って、ろうそく売りはゴミの中から青火を見つけると、持ち帰って売り物に加えました。
それから、青火を買ったのは、珍しい物好きの商人でした。
商人は、青火をたいそう気に入り、寝室に置いていつも話しかけていました。
「お前の光は本当に美しい、まるで宝石のようだ」
しかし、そうして過ごしているうちに、商人の目は潰れてしまいました。
「なんということだ、これではろうそくの火を見る事ができない」
商人はたいそう嘆きました。
青火の青い火は、普通の火より強い光を放っているので、それを見つめ続ければ目を悪くしてしまうのは当然なのでした。
商人は泣く泣く青火を売り物にしました。
それから、次に青火を買ったのは、ろうそくの明かりで絵を描いていた画家でした。
「なんと芸術的なろうそくだろう、これこそ私にふさわしい」
そうして青火の明かりで絵を描くようになった画家でしたが、慣れない青い光の中で描く絵はいつもと違う色合いになってしまい、売れなくなりました。
「どうやら、私がお前にふさわしくなかったようだ」
画家は泣く泣く、青火を友人にゆずりました。
その友人は変わり者の料理人でした。
料理人は青火を使って料理をしてみました。
「なんと、このろうそくを使うとなんでも早く焼き上がるし、炊き上がるぞ!きっと普通の炎より熱いのだろう!」
料理人は、青火を使い続けました。
「なんと、このろうそく、まるで縮まないぞ!一体何で出来ているんだろう?」
そう、不思議な事に、青火はどんなに使われ続けても全く縮まなかったのです。
いよいよ青火を気に入った料理人は、青火を肌身離さず持ち歩いていました。
そんな料理人のもとが終の住みかになると思っていた青火でしたが、そうはなりませんでした。
いつしか料理人は年老いて死に、最後まで少しも縮む事の無かった青火は料理人と一緒にお墓に埋められました。
それから、青火を手に入れたのは、墓泥棒でした。
「これがうわさに聞く青い火のろうそくか」
墓泥棒は、青火に火をつけました。
「なんと綺麗な青い火だ、こいつは高く売れる」
青火は、競りにかけられました。
「世にも珍しい青い火を灯し、いつまでたっても無くならない、奇跡のろうそくです!」
そう紹介され、たくさんのお客の前に真っ先に出された青火は、自分の後に盗まれた品々やさらわれた人々が競りにかけられる事を知っていました。
そこで青火は、ぱたりと倒れて、燭台から転げ落ちました。
すると競り小屋は瞬く間に青い炎に包まれて、お客も商人もさらわれた人々も逃げ出しました。
そうして、競りは台無しになりました。
それを、空の上から神様が見ていました。
そして、神様は言いました。
「青火よ、そなたは善き行いをした。その終わりのない体から解放し、天空に召し上げてやろう」
青火はふわりと空へ昇っていき、星にしてもらいました。
どんなに使われても縮む事のなかったろうそくの体は、何兆年か光り続けたらいつしか消える炎の体に変わって、今でも空のどこかで光り続けているそうです。