第1話 柊家殺人事件①
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俺には幼馴染というものがいる。名前は柊 夏美。
まぁ正直、可愛いくて優しいという欠点のない幼馴染である。
綺麗な銀色の髪に端正な顔立ち、そしてロシア人の母と日本人の父を持つ。
おまけに父方の家系がこの辺りの地主らしく、一般家庭の俺の家の3倍は大きい家に住んでいる。
そう、幸せで何不自由のない人生を送るはずだった。
あの事件が起きるまでは。
俺たちが10歳になる年にその事件は起きた。
その日、俺はいつも通り近所の「カエデ公園」に遊びに行く。
俺と柊は毎週土曜日10時に会うことにしている。
小学校に上がりたての頃は、その事実を周りにからかわれて無断で行かなかったこともあった。
しかし、柊はその時に泣きながら俺の家を訪ねて来て俺の無事を確かめると心底ホッとした顔を見せた。
そう、来なかったことに怒っているわけではなく俺のことを心配していただけ。
もちろん、母さんからは過去一怒られたが、柊にこれ以上悲しい思いをさせたくないと思い、その日から俺は絶対に土曜日は柊と遊ぶことにしている。
晴れの日は、カエデ公園にまず集まる。雨の日は、どちらかの家に集まるというのが暗黙の了解だった。
曇り空のその日、俺はカエデ公園へ向かった。
公園に着くと、時刻は9時55分だった。柊はだいたいその時間には既にいるので不思議だとは思いつつも、あまり深くは考えずそのまま待つことにした。
待つ間、どんぐり探しに精を出しているといつのまにか30分経っていた。
流石に遅いなと思ったので、俺は自分の家に戻る。あまり天気予報を確認していなかったが、今日はこのあと天気が悪くなるとかで柊は俺の家にまず向かったのかもしれないと考えた。
家に戻ったが柊の姿はなく、母さんに聞いたが連絡も来ていないという。
これが俺なら心配する必要はないが、柊が無断で来ないことはないはず。
心配になり、俺は柊の家に向かった。
近づくにつれ、走るスピードがどんどん上がっていく。
嫌な想像ばかりが頭を駆け巡る。俺は柊の無事を願った。
柊の家に着き、俺はチャイムを鳴らしてみる。
何の反応もなかった。
部屋の明かりはついているので、ひとまずドアに手をかける。
鍵は、かかっていなかった。
家の中に入ると、妙な静けさがあった。俺は恐る恐るリビングへと足を運ぶ。
そこにはテーブル近くの椅子に向かい合うようにして柊のお父さんとお母さんが座っていた。
話しかけたが、返事はない。近くで見ると、2人は血を流していた。当時、ドラマでやっていたのを見よう見まねで救急車を呼ぶことができた。残念ながら、その時にはすでに2人は亡くなっていたらしく、もしもう少し早く来ていれば助けられたかもしれないと後悔した。
救急車を呼んだあと、俺は柊の姿を探す。
柊は、家の裏の庭に倒れていた。
体をゆすり、声をかけると柊は目を覚ました。
「大丈夫か?」
「ゆうと、、、。
ごめん、今日行けなくて。」
「いや、そんなこといいよ。
何があったんだ?
おじさんもおばさんも怪我してるみたいだったけど。
まぁ救急車は呼んだし怪我は大丈夫だ。」
俺は心底無責任なことを言う。
「お父さん、お母さん、、、、。
そ、そうだ私。私のせいであ、あ。
あああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
柊は身体を丸め、聞いたことのない声で泣き叫んだ。
俺はどうしていいか分からなかったが、とにかく柊の体を抱きしめた。
彼女の不安が少しでもなくなればいいと願いを込めて。
10分程度経って、救急車が来た。
3人とも救急車で運ばれていき、俺は自分の家に戻り母さんに事情を話した。
母さんはその場で泣き崩れ、俺の身体を抱き寄せた。
3日後、警察の人が家に訪ねて来て一緒に来て欲しいと言われた。
どうやら警察病院に柊はいるとのことで母さんと一緒に病院へ向かう。
病院に着くと、手続きを母さんが済ませて俺は柊の病室へ。
部屋の前には警官が2名いて、俺たちを連れてきたスーツの警察の人が何か話すと俺だけ部屋に入れてくれた。
部屋に入ると、そこには青い病人用の服を着た柊がいた。
こちらに気がつくと、笑顔を向けられた。
何か違和感を感じつつも、俺は声をかけた。
「大丈夫か?」
「うん、私は大丈夫。
怪我とかなくて、後3日入院して問題なければ退院できるって。」
そして、柊は隣にいた警察官の方を向き言った。
「優斗と2人にしてくれませんか?」
「いや、しかし。」
「大丈夫ですよ、彼は私が最も信頼する人物。
彼が事件に関与していることはありません、何より子供ですし。」
「まぁそうだな、分かった。
終わったら呼んでくれ。
警察官が出て行く。
「まずは助けてくれてありがとう。」
「あ、うん。
その、おばさんたちは?別のとこいるのか?」
「いいえ、2人はもうこの世にはいないの。」
「は?
な、俺救急車呼んで。」
「間に合わなかったそうよ。
でも、気に病む必要はないわ。あなたのおかげで私は助かったわけだし。」
「お、お前。本当に柊か?
柊はおじさんとおばさんが死んじゃったのにそんな平気で居られるやつじゃない。」
柊は再び、笑顔を見せる。
俺は問いかける。
「お前は、誰だ?」
「私は冬美。
彼女の別人格と言ったところかしら。
心配はいらないわ、彼女は今は眠っているだけ。」
「別人格って何だ。
双子だったってことか?」
「ふふ、まぁそれでもいいわ。
そう、私が姉の冬美。妹の願いを叶えるために生まれたの。」
「願い?それって。」
「1つは私の両親を殺害した犯人を捕まえること。」
「そんなもん、警察がすぐに。」
「いえ、私の家に犯人の形跡はなく捜査は難航しているようよ。
警察が話しているのを盗み聞きしたから確かな情報よ。」
「そうか、その犯人許せないな。
俺も協力するよ。」
「ありがとう、でもあなたには別のことを頼みたい。」
「別のこと?」
「夏美を助けてやってほしいの。」
そう言うと、彼女はその場に倒れ込む。
少し経って目を覚ますと、そこにはいつも見ていたあの姿が。
「ゆ、ゆうと。
わ、私のせいでお母さんもお父さんも。」
彼女は大粒の涙を流して、自分を責める。
俺は彼女の頭を撫でながら安心させるような声で言葉を紡ぐ。
「お前のせいじゃない。
おじさんもおばさんもお前のせいだなんて思っちゃいない。
だから思いっきり泣いて、その後は笑おうぜ。」
「う、うん。」
「俺でよければ、お前が嫌って言うまで一緒にいる。
代わりにはなれないけど、いないよりはいいはずだ。」
「う、うん。
ありがとう、ゆうと。
泣いてばかりじゃダメだよね。」
彼女は精一杯の笑顔を作る。
この笑顔を守るために俺に出来ることは全部やろう。
俺はこの時、そう誓った。
次回、二重人格の秘密が語られます。