第9話【獣たちの会議】
――【2028年 2月29日 AM11:44】
――【ノバディフラワー アジト】
テラからの要請を受け、ノバフラメンバーは各自単独行動からアジトへと戻ってきた。
狭間での襲撃から2時間強。
ニッタとケンタは体調もすっかり回復し、戦闘での傷は消えてなくなっている。
「――話は大体把握した。似内先生、湖沼君、音咲さん、まずは謝らせて欲しい。危険な目に遭わせてしまい、すまなかった……」
リーダーであるケーボーイは、深々と私たちに向かい深々と頭を下げた。
日本……もとい、世界の音楽業界を背負うノバディフラワーのリーダーが頭を下げるなんて、私にとって最大級の事件だ。
ニッタは腕を組み、ケンタは右手で左手首を正面で掴み、リラックスしているように見える。
私はと言うと、ケーボーイの頭を下げる動作を見てから余裕の、コンマ1秒差での土下座。
「むしろ謝るのはこっちさ。私らが勝手に狭間へ行ったからこんなことに……」
「本当にすいませんでした」
二人が謝罪返しすることを見越していた訳ではない。
反射的な無言の土下座は続く。
深い謝罪の後、ケーボーイはようやく言葉を発する。
「僕がもう少し注意を払うべきだったのは間違いないんだ、これからはもう少し計画的に行動しよう。それで――昨日僕たちが伝えていない事柄がいくつかあるから、また説明になるけどいいかな?」
頷き、真剣な瞳になるニッタとケンタ。
「てめェはいつまでそうしてんだコラ」
「ご、ごにょごにょにょ……」
なんかこう、申し訳なさ過ぎて皆様の顔が視れない私。
非常にカッコ悪い。
そんな私を見かねたのか、テラが肩に手を掛けてくれた。神。
「スポーン、一昨日の奴らだ」
「なにィ?」
テラが話し始めたのでちょろっと顔を上げて覗き込む。
「あたいらが遭遇した奴らと特徴が一致している。どうやら、こちらもあちらも特訓が目的のようだった。けど奴らは会話こそ可能だが……殺しに対する抵抗がまるでない」
チィッと大きな舌打ちをしたスポーンは、ドラムスティックを手に取りクルクルと回し始めた。
その間に、ホワイトボードに記入を終えたジータスが唸った。
「うーん……ケーボー、説明する内容はこんな感じでおけ?」
「あぁ、いいね」
①狭間について
②各能力について
③覆面について
④敵対組織について
⑤ジータス恋人募集中
「最後の項目はいらねェ」
「最重要項目っしょ……」
謎の掛け合いを間近で見られる私は幸せ者。
世界の誰もしらないノバフラをもっと堪能したい。
「質問があればどのタイミングでもいい、言ってくれ。ノバフラにとっては再確認になる内容だが、一緒に聴いて欲しい」
会議開始だ。
ケーボーイはおしゃれなパーカーをパンッとはたく。
「まず、前回説明した狭間について、より詳しく伝えるよ。『虚構の世界』は、妖魔が巣くう我々人間が通常知ることのない危険な世界のことで、この『虚構』と『現実』の交じりあった空間・境目のことを、いわゆる『次元の狭間』と僕らは呼んでいる」
相変わらず可愛い羊の覆面で話しているリーダー。
「なぜこのような狭間が存在し、なぜ我々がそれに介入できるのかについて、詳しいことは不明だ。――不明だが、この次元の狭間は現実世界の人間が持つ『歪み』によって行き来可能と判明している」
「質問だ」
ニッタが口を開く。
ジャージの胸元のチャックはちょっと開きすぎている。セクシー。
「狭間での襲撃犯は『ゲート』を使わず、一瞬で目の前に現れたように視えたんだが、知ってるか?」
質問に対し、ケーボーイはジータスを見る。
阿吽の呼吸でジータスが答える。
「狭間へ移動することを『次元の裂け目』って呼んでたけど、『ゲート』の方がスマートでいいっすね。あれは、現実と狭間の想像力が強ければ強いほど、よりリアルに空間と接続できるんすよ。うちらん中だと、ケーボーとテラのふたりは『ゲート』を使わず、現実世界に狭間を上書きするような感じで移動することもできるっす」
「……上書き、か」
私は初めて狭間へ行った時のことを思い出していた。
「そういえば、私が最初に妖魔に襲われた時、なんか『ビキッ』て音聞こえたんだけど、それが世界が変わった瞬間だったのかな」
「音咲さん、おそらく正解だ。ただ、歪んでいるとはいえ現実世界の人間を狭間に送り込み、妖魔に襲わせる存在がいるとしたら、それは④で話す『敵対組織』が関連していると僕らは睨んでいる」
流石はリーダー。色々と事情通みたい。
そして、なんかきな臭い話になりそうな予感。
「もし瞬間的に目の前が狭間に変わったら、それはイコール襲撃だと考えて良いと思う。それも踏まえて②各能力について説明するね」
ケーボーイはホワイトボードに書き足す。
こっ、これは……。
「みんな学校だったり音楽活動だったり普段は忙しいだろうから、一人の時に狭間に巻き込まれた場合は即テラを招集すること。心で念じればテラに届くから、そうすればテラから僕ら他のメンバーも呼べる」
「任せときな。……もっと早く教えておくべきだったけどさ」
申し訳なさそうに項垂れるテラ。
ううん、そんなことないよって伝えたかったのに、それよりもボードに書かれた組み合わせを見て困惑していた。
「基本的に、学生メンバーの放課後から夜間に活動する場合、安全のため、必ずペア以上の人数で行動してもらおうと考えている。各々の能力の相性を考慮してチームを決めたけど、どうかな?」
『ジータス&ハルカ(ニッタ)』
『テラ&ケンタ』
『スポーン&スミカ』
スポーンあんど私。
無事死亡確認。
「この半年間で戦闘技術やセンス、そして超能力はどこまでも磨けることがわかっている。新しく入ったみんなは、ノバフラメンバーからその技をぜひスティールして成長して欲しい」
「わ、ワカリマシタ」
緊張していることを見抜かれ、ドラム担当スポーンはスティックをチッチッと鳴らし――
「おいスミカ。てめェの能力、ちょっと魅せてみろ。いくぞ『アンビション』」
テーブルの上にあるテッシュボックスやコーヒーカップをドラムの楽器に見立てて、スポーンはいきなり激しく叩き出した。
ドコドコドコドコドコドコドコドコーー
うおおおおおい!?
全メンバー勢ぞろいの中、私に能力使え(歌え)ってかあぁ!?
だがこのイントロ、超分かる。夢や目標に向かって突き進む歌ーー
ノバディフラワーの『アンビション』だ。
ええい、ままよ――
私のエアマイクが火を噴いた。
「『――ボーイズビーアンビシャス、歌え、響け、魂の叫びを――』」
瞬間、この場にいた全員の身体が薄い黄色のコートに包まれ、気分が高揚した。
「す、凄い……!!」
「いまオレめちゃくちゃ速くギター弾けそう」
「あたいの力が、みなぎってきた……ッ!」
三者三様、身体能力が向上したようだ。
何これ。
くっ、スポーンにもバフが掛かっているようだ。
私は全力で歌い、なぜかサビが終わるまでスポーンは止まらなかった。
「スミカてめェ……」
「なっ、なに!?」
スポーンはグッと親指を立てるも、その狼の覆面のせいで非常に怖い雰囲気が醸し出ている。
「――合格だ。最終的にてめェ独りで能力出せるようになれ」
「うん、頑張る。スポーンよろしくね!」
「てめェ誰にタメ口聴いてんだこらァ!!!!」
あれぇ!? おっかしーなー!?
テラ、話が違うんですけどぉ!?
ショートコントのせいで時間が長引き、正午を過ぎていた。
ケーボーイは再び会議をまとめる。
「相性って大事だからね。楽器が無くても即興可能なのがスポーンだから、音咲さんは彼とペアだ。ふたりとも仲良くしろよ」
「……りょーかい」
リーダーの威厳を保っているのはとても素晴らしいこと。
私も威厳が欲しい。スポーンを手懐けられる程度の威厳でよいので。
「それに音咲さん歌上手だったね。その力、とても貴重だと思う。これからもよろしくね」
嬉しみに溢れる!
本物に褒められるなんてことある!?
「だいぶ脱線してしまったが……あとはそうだ、僕たちの覆面についてだ」
ノバディフラワーの象徴的なその覆面は、獣をモチーフとしていること以外誰も知らない。
私がずーーーっと気になっていたこと。
知りたい!
「――この覆面には秘密がある」
「「な……なんだってー!!」」
ケンタと私はつい勢いよくハモってしまった。
「変身と言ったら大袈裟だが、各々獣の力を宿すことによって、身体能力や精神面、超能力などが大幅に強化されるんだ。これを『獣化』と僕らは呼んでいる」
冷静なニッタはジータスを見つめて述べる。
「初めて会った時のジータスは首から上が完全に猫の獣そのものになっていたが、あれがそうか」
「恐縮っす」
確かに、妖魔の攻撃を喰らったジータスは無傷だった。
ケンタの動きも凄かったけど、あれ以上の力が出せるってことかな。
「僕らはほぼ毎日狭間へと向かい、妖魔退治をしている。今朝もメンバーでそれぞれ狩りをしていたのさ。『獣化』はその要で、妖魔の気配を探知するのにも役立つ。そこで――」
羊の覆面はどこか笑ったような気がした。
「――新メンバーのみんな、好きな動物は何かな?」
マジすか!?
…………スポーンだ。
うるッせぇな! 言えばいいんだろ言えば!
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気合いも忘れんじゃねェぞオラァ!!