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第8話【魂の叫び】



 狭間の空はまるで宇宙のように漆黒で、ぼんやり眺めると吸い込まれてしまいそうになる。


 光はなくとも周囲は明るい。

 でも遠くは何も見えない。


「――誰か助けて!!」


 最初は、ただの担任と、ただの話したこともない他のクラスメイトだった。


「――お願い……」


 でも、ここ数日で距離が一気に縮まり、教師や友人の枠を超えて、信頼関係が結ばれた。


 その二人に今、死が近づいている。


 大地らしさを感じない地面に膝をつき、私は誰に懇願しているのか。

 落ち着かないと……。


 瀕死のニッタと湖沼くんを、私が助けないと……!


「わ、私に出来ることはなんだ!! うぅっ……!!」


 泣いている場合じゃない。

 この場に私しか動ける者はいないんだから。


 ――混乱した私の頭に流れてくる、ノバフラの楽曲『ライ』。


 冷静になれ。困った時、悩んだ時はこの曲だ。

 『嘘』はいつだって自分を守る力になる。


 そう、ノバフラはいつだって私の心を落ち着けてくれた。


「――ッ!? わああああああノバフラ!?」


 っかああああバカだ私!!

 何のために、誰のために、私が理解出来なかった歪みを受け入れたと思ってるんだ!!


 私は息を思いっきり吸って、全力で叫んだ。


「ッスゥーーーー……テラ様あああ来てえええええ!!!!」



 ビキッ――



「やあスミカ。昨日の今日で呼んでくれるなんてお姉さん嬉し……なんじゃあこりゃああ!!」


「テラ様!!」


 ゴスロリ調のベースストラップを肩に掛け、楽器と共に降臨したテラ。


 倒れた二人を見て直ぐに現状把握に努めているようだった。


「――すまん、気付けなかった。まだ息はある……早くアジトへ――」


「テラ様お願い! そのベースで今すぐ演奏してください!」


 驚いた様子で私の顔を覗き込むテラは、()()を察してエレキベースを構える。

 内臓アンプに内蔵スピーカー、共に準備が出来ている。


「曲は?」


「ノバディフラワー2026年リリースの『リカバリー』お願いします!」



 ――カッカッ……ドドドドッ、ドドドドドドドッ、ドドドドドドド――



 ベースの重低音が空間に響く。

 そんな中、倒れた二人を目の前に、私は恥ずかし気もなく全力でカバーする。


「『――傷ついた魂の、叫び声を聴いて、助けないヤツなんかこの世にいない~』!!」



 ドドッドドドドッドドッドゥゥゥン――



「(こっ、これは……!?)」


「『――でもわかってるさ、天使の羽がなくても~、俺を救えるのは、俺しかいない』!!」


 サビに差し掛かった時、ニッタと湖沼くんの身体が神々しくも優しい緑色に輝き出す。

 そして私の身体も同時に発光していた。


 光は彼らを包んだまま、心臓の鼓動を響かせる。


 二人はゆっくりと起き上がり――まずは手を、そして互いの顔を見合う。


「「ッ!?」」


 私はテラと共に全力で演奏した。

 それはもう大熱唱だった。


 明らかに回復した様子のニッタと湖沼くんを前に、プロでありノバディフラワー御本人の演奏でド素人が歌うこの絵面が、完全シュールに映っていただろう。



 ――ドドッドドッ、ドッドドッドッ、ドゥーーーン……!



 ――歌い終えた私は、完全に覚醒を自覚した。ぽけ~っとした視線を集めながら。


「おい、説明しろ音咲」


「あ、はい」


 傷付いていた湖沼くんの顔も、青ざめていたニッタの顔も、今では綺麗さっぱり健康的な血色に戻っていた。


「あのですね……その……」


 さっきまでの自分のハイテンションの余韻すら恥ずかしくなった私は、無意識に敬語を使っていた。


「わっ、私の歪んだ理由と言いますか、そのですね」


 ニッタは腕を組んで若干睨んでいた。

 湖沼くんも怪訝な顔をしている。


「恐らくですね、ノバフラを愛するあまり、その愛が爆発してですね、今まで私が聴いてきた楽曲の持つエネルギー的なやつがですね、発揮できるようになったわけでありましてそのつまり覚醒とは――」


「スミカ、周りくどいよ(笑)」


 て、テラ様ぁ!?


「――だぁぁあ! 『推し』よ!! 私の歪みは『推し』ィ!! 推し過ぎてノバフラの楽曲に秘めた力を具現化出来るようになったのよ多分んんんん!! 私の元気の源ノバフラを今後も推して参る!!」


「おまえすっかりキャラ変わってんじゃねーか……とりあえず、治してくれてありがとう音咲」


 湖沼くんも少し照れるように口を開く。


「イキってバトってぼろ負けして、カッコ悪いボクを助けてくれてありがとう。音咲さんカッコいいよ」


「ファッ!?」


 超恥ずかしい!! 超恥ずかしいィィ!!


 テラが手をパンッと叩き、ゲートを出現させた。


「いつまでもここにいても危ないからね、一旦アジトへ行くぞ。みんな、学校は?」


 大人なテラの気遣いがたまらない。


「えっとサボりました」


「サボった」


「代理立ててサボった」


 グッと親指を立て、オーケェと許可が降りたところで全員でゲートへと入った。



 ブゥンッ――



 ――【ノバディフラワー アジト】


 ――【2028年2月29日 AM10:47】


 カチッとライターの火が灯る。

 キッチンの換気扇の下でテラはタバコを吸った。


 覆面から出ている口元は、ホッとしたのか微笑んでいるようだ。


「いまメンバーに一度集まるように声掛けておいたから。昼頃になると思うけれど」


「テラ様……ありがとうございます」


 ふーっと吐き出す妖艶な煙が、換気扇へ吸い込まれていく。


「ふふっ、スミカ。あたいらはもう仲間だよ? いつまで敬語使ってんだ」


「わあああああああ!!!!」


 涙が溢れ出して止まらない、神と仲間になれるなんて!


「音咲はうるせぇな。いや前からか?」


「いいなぁ、ボクも敬語無しで良いんですか?」


 テラは嬉しそうに、一服を満喫しながら答えた。


「あたりまえさ。仲良くしようぜケンタ」


「湖沼くん、私もケンタって呼んでいい?」


 名前を呼ばれてすぐ、彼の顔が赤くなったのを私は見逃さなかった。

 これはきっと照れだな。


「テラ、私のことはニッタでもハルカでも好きに呼んでくれると助かる」


「わかったハルカ。助ける(笑)」


 こうして『似内(にたない)ハルカ』『湖沼(こぬま)ケンタ』『音咲(おとさき)スミカ』改めーー


 『ハルカ(ニッタ)』『ケンタ』『スミカ』はノバフラの仲間になれたのだ。


「みんな疲れただろ。何があったかは後でメンバーが揃ったら話してくれ。あたいは向こうの部屋で休むから、アジト(ここ)を好きに使ってていいよ」


 先の事件の悲しみも、闘い、乗り越えていくと誓う。

 そんな想いも込めて、最推しであり仲間である彼女に伝える。


「ありがとう、テラ!」






あたいはテラ。いいのかなぁ〜? 後書きなんて読んで。早く続きが読みたいんじゃないの?

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価・ブックマーク・いいね・感想・レビューは魂の叫びで。よろしくね、ボクちゃん。

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