第7話【悪意VS殺意】
「おい……今こいつらどうやって現れた?」
「『ゲート』の確認が出来ませんでした。瞬間移動? 我々とは何かが違いますね」
対照から視線を外さないニッタと湖沼くん。
少し離れた距離にいる彼らを、私もジッと見てみた。
まず『病』と呼ばれた青年は、レザージャケットにボトムスの黒いコーデ。タートルネックもブーツも、全身黒の統一カラーで決めている。
全体的にカッコ良く、雰囲気バッチリに仕上がっているね。
次に、後ろに立つシルバースーツの男は、冬にはそぐわないノーネクタイ。
胸元を軽く開き、アダルトな魅力を醸し出していた。
大人の魅力を感じるスマートな印象ね。
――対する私と湖沼くんは、シンプルな紺色のただの制服。
ニッタは上下赤のジャージ姿で、オシャレでは完全に負けだ。
って分析するところたぶん間違ってるよね!?
まずいまずいまずいまずい。
圧倒的に私は戦力にならない。いや、なれない。
早く覚醒しないと……!
でも、きっかけなんてわっかんないよ!!
「ニッタ先生、ボクが前に出ます。何となくですが、そこそこやれる自信あるので」
「ちょっと待て湖沼。あいつら妖魔じゃなくて人間かもしれない」
気合い十分の湖沼くんを制止し、ニッタは声を張り上げた。
「――私らはただの学生と教師だ! 決して怪しいものではない! 話し合う気はあるかッ!?」
遠くて表情が確認出来ない。
だがーー次の瞬間、青年『病』の左腕に禍々しい黒のオーラが纏った。
空間が歪み、それは肉眼で確認できるほどに――
「あ、こりゃダメだ。殺意の塊だ……」
「音咲さん」
低く腰を落とし、前傾姿勢になる湖沼くん。
「は、はい!」
思わず敬語になってしまった。
「初めて狭間に入った時のことを思い出してください。『歪み』のきっかけは、そこにあるはずですから――」
「湖沼くん……」
ーー湖沼くんは病との距離を一気に詰める。
そして地を蹴り宙に跳ね上がると、上体を捻り渾身の蹴りを放つ。
だが、蹴り自体は相手を捉えていない。
放ったのはその蹴りによる衝撃波だ。
たったこれだけの動作で、既に湖沼くんが人間離れしてしまったことがわかる。
ズガガガッッ!!
鈍い衝撃音が鳴り響くが、病の左腕一本で防がれてしまう。
ズズズ……
今度は病の左腕のオーラが湖沼くんを襲った。
跳びつき喰らいつく獣のように、膨張するオーラが湖沼くんを今にも包もうとして――
着地と同時に横に跳ね……いやもうこれどうなってんだろう。
右に左に……上に……いや上というか動きが速すぎてもう私には視えない。
えっと、フックからのアッパー……バク宙……いや、速くてやっぱわからん。
もはや実況不可能。
でも、お互いに力が拮抗しているのだろう。
バッチバチに殴る蹴るの暴行が加えられているが、勢いが収まることはない。
「ニッタ、湖沼くんどうなってるの!? 大丈夫なの!?」
ニッタは両腕を組んだまま闘いを眺めている。
「……私さあ、こんな人間同士の闘いになるって思ってなかったんだよね」
意外にもニッタは冷静だった。
「湖沼も、あの青年も、恐らく戦闘は初めてだろう。なぜ闘うのか――音咲はわかるか?」
「わっ……わかんないよ」
私は闘いとか全く好きじゃない。
音楽聴いたり漫画読んだり、これまでの人生普通にしか過ごしてきていない。
「歪んでしまった人の心ってさ、そのベクトルが怒りや悲しみ、絶望だったりすると……最終的に濃縮されたものは、『悪意』や『殺意』なんだと私は思うんだ」
私はニッタの言葉を上っ面ではなく心で聴いた。
「湖沼は過去に相当傷ついてんだ。それこそ死に執着するほどに。だから、向けられた『殺意』に敏感に反応してんだろうな」
後頭部をぽりぽりとかいている。
「お相手さんもきっと――」
そう言ってニッタは戦闘中の二人に近づいていく。
私は……。
――その時、後方でただ眺めていただけのシルバースーツの男が、声を発する。
「病、その腕だけで対処できないようであれば、別の能力に切り替えてみましょう」
「はい」
ギャリッ!! ズガッ!!
回し蹴りで湖沼くんを吹き飛ばし、左腕のオーラを収めた病。
「『法則』。殺してはダメですよね?」
「もちろんです。あくまでも練習台にしましょう」
法則は左手をポケットに手を入れ、右腕を軽く上げる。
「――まぁ、彼らは獣と同じ種類の歪な存在。遅かれ早かれ……いつかは消すので、ある程度は許容します」
体力を消耗していた湖沼くんのもとへ、ニッタが合流した。
心配だし、私も二人の傍に駆け寄ろう。
「おい、平気か湖沼」
「ハァッ、いえ、ちょっとキツいです。息切れしてるのボクだけですし、ハァッ、普通に身体痛いし吐きそう……」
湖沼くんの肩に手を置き、ニッタは余裕なく相手の方を向く。
「私もやるけど、どうすりゃ終わるんだよこれ」
「ボクの能力使ってみてもいいですかね?」
湖沼くんの判断より早く――病は両腕を前に突き出し、手を大きく広げて構えた。
「――『空 気 汚 染』」
フワッーー
突如として眼前に現れた大量に蠢くものを、瞬時に理解するのは不可能だった。
「ヴッ……!」
「あっ……!」
一瞬だ。
一瞬で二人はその場で崩れ落ちるように地面に突っ伏した。
「湖沼くん!? ニッタ!?」
倒れた二人を見て、私は咄嗟に息を止める。
視えているのは空気中の……これは塵!?
紫とも緑とも言えない邪悪な色の塵が、二人の顔の近くを漂っていた。
意識を失い、目は虚ろで、口から薄っすら血が流れている。
私は震え始める――
「ほう、良いですね。これは毒ですか?」
「うーん、神経毒みたいなものですかね。空気中の塵をそれに変化させてみました。加減がわからなくて、もしかしたら倒れた奴らは死ぬかもしれません」
法則は病の隣に並ぶと、両手をポケットにしまう。
病も腕を降ろし、感情の無い瞳で二人を眺めている。
法則の微笑んでいるような表情が、恐怖に支配されている私の目に飛び込む。
「コイツはどうします?」
「まだ……未覚醒か。しばらく泳がせて、場合によっては――」
ビキッ――
その言葉を残し、二人は消えた。
さっきの塵も今は視えない。
「――うっ、はあっ、ハァッ……ニッタ!! 湖沼くん!!」
急いで駆け寄るが、二人とも痙攣したままどんどん顔色が悪くなっていく。
「ダメッ! ダメだよ!! ふたりともっ……お、起きて!!」
私は涙が止まらない。
命がけの闘いって、こんなにリアルなの?
「嫌っ……!! うわああぁぁぁ!!!!」
一瞬じゃん。
さっきまで元気だったじゃん。
「お、お願い!! 誰か……」
虚空に私の声が虚しく投げられる。
「――誰か助けて!!」
誰かッ……誰か⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価・ブックマーク・いいね・感想・レビューをお願いします!
私は、音咲スミカです! JKです!
って私主人公なんだけど挨拶がこのタイミング!?
うーん、みんなよろしくね!