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第6話【特訓開始】



 ――【2028年2月29日 AM7:00】


 ――【東京都 新宿区 音咲家】


「ねえパパ、私のヘアゴム知らない?」


 キッチンから良い音と匂いが漂う。


 卵焼き、ウインナー、ブロッコリーにミニトマト。

 朝食の準備が着々と進んでいる。


「ヘアッ!? すまん、いまなんて言った!?」


 調理の音で私の声がかき消されたみたい。


「ヘアゴムーッ!」


 換気扇を一旦止めて、私のパパこと『音咲(オトサキ)トオル』は大きな声でこう言った。


「ベッドの隙間とかソファの下とかぁ! 洗面台んとこのゴミ箱の裏とかにあったぞー!」


「最悪!!」


 せめて拾ってよ。いや、悪いのは私だなぁ。


 音咲家の朝は忙しい。

 私は特に部活には入っていないけど、今日は日直だから早く登校したかった。


 チョークを揃えたり、花に水をやったり。

 案外やることはある。



 ――朝食の準備が整うと同時に、私も登校できる支度ができた。


 箸でミニトマトを摘むと、パパが神妙な顔をしているのに気付く。


「スミカ。パパはおまえのプライベートにはなるべく踏み込まないようにしているんだが――なんだ、その、昨日は帰りが遅かったじゃないか」


 あ、やっべー。

 昨日の出来事なんて一切説明できねぇ。


「嬉しそうにしていたし、心配はしていない。そう、心配ではないが、おっ……男か?」


 必殺、ミニトマト鉄砲炸裂。

 テーブルをワンバウンドして向かいのパパのプレートに収まった。


「ゲホッゲホッ、えっと、なんていうか、その」


 ここで与えられた選択肢はいくつかある。


 ①適当に作り話をする。

 ②笑って誤魔化す。

 ③黙秘。


 どれだ!? どれが正解だ!?


「いや、何も言わなくていい、パパにはわかるぞ。おまえもお年頃だしな」


 強制③!?


 私は戸惑いながらも朝食を食べ終えた。



 ――今日は曇り空。外は冷え込み、雑草には霜が降りている。


「じゃあ、行ってきまーす」


 なんだかんだ時間が無くなり、今日も今日とて小走りで学校へと向かう。


 朝ってなんでこんなに時間がすぐ無くなるんだろうか。


 そして頭の中ではノバフラの楽曲が流れ、マホを見つけて一緒に登校する流れはもはやルーティン。



 ――【都立AP学院 2年A組】


 なんだかんだ友人たちに日直の仕事を手伝って貰った。

 ありがたいなぁ。


 教室では主に男子がうるさく、女子は割と大人しい子が多い。


「ねぇスミちゃ。なんかいいことあった?」


「えっ?」


 親友は私の顔を覗き込むように首を横に傾げる。


「顔がぱないよ?」


「えっ?」


 どういうことか自分ではわからなかったけど、どうやら滅茶苦茶にニヤついていたようだ。


 ノバフラに逢えたことはもちろんナイショだし、誰かに話そうものなら多分スポーンにボコられる。


 それでも頭の中はノバフラでいっぱいになっていた。


 予鈴が鳴ると担任のニッタが教室へ入ってきて、いきなり黒板に二文字だけガリガリと書き込む。


 そして男子どもが歓喜の声を上げた。


「みんな、おはよう。1時限目は自習、以上! すまんがホームルームは省略する。学級委員長は宿題のプリントを集めて、後で職員室の私の机に置いといてくれ」


 それだけを伝えると、教室は一気に盛り上がった。

 ニッタは私のもとへ真っ直ぐ向かってきて、耳打ちする。


「(音咲、今から生徒指導室に来てくれ)」


 後ろの席のマホがまた首を捻っていた。



 ――【都立AP学院 生徒指導室】


 ――【2028年 2月29日 AM8:22】


「おう、来たか音咲。昨日は災難だったな」


「最高の一日だったよ!!」


 どうも反応が食い違う。

 ニッタは窓際へ立つと、カーテンを閉める。


「いいか音咲。おまえはハッキリいってこの闘いにはついていけない……」


 ズーンと気持ちがダウン。


「今はそうかもしれないけれど、妖魔(デーモン)退治はやらないとでしょ!?」


「おまえまだ覚醒していないだろ」


 更にズーンと落ち込む。


 そう、昨晩寝る前に色々と試したけれど、私には何一つ変化がない。


 力が増すでもなく、ジャンプ力が増すでもなく。


「ニッタは今どんな感じなの? 身体が変わったりした?」


 ニッタは腕を組み、窓を背にして真剣にこちらを見ている。


「昨晩、帰り際にテラから教わった力の使い方。これはまだ研究中らしいが、恐らく脳のリミッターを一部解除して超人的な肉体、身体能力を向上させている」


 うんうん、難しい話は苦手かな。

 ニッタは数字の2を表すように顔の前に指を立てる。


「真実かわからないが、人間の脳は、全体のうち僅か2パーセントしか使っていないとされている。これを『歪み』の影響を利用してコントロールするんだ」


「えっと、超能力みたいなやつは? 湖沼くんが出したあのヤバいやつとか……」


 ニッタは私に近づいて、そのまま通り過ぎる。


「能力には個人差がある。それこそ、化け物退治には有効だが、とにかく危険な力さ」


 段々と、ニッタが言いたいことがわかってきた。

 私にとっては寂しい話。


「覚醒したらわかることだが、私の場合は『無限』という『歪み』がキーワードとなって飛躍的に頭が冴えた。『次元の狭間』へ繋ぐ方法も、感覚的に出来るとわかるんだ」


「ねぇニッタ。私の覚醒に必要なものってなんだかわかる? 何が歪んじゃったんだろう……」


 ニッタは振り返り、私の両肩を抱く。


「私さ、音咲や湖沼には死んで欲しくないんだよ。記憶を消してもらって、平和に生きて欲しいんだよ」


「……」


 ニッタの気持ちはよくわかった。


 でも、私の心に誓ったノバフラへの愛は、こんながっつり危険なことでも砕かれたりはしない。



(話は聴かせてもらった!!)



 ーーその瞬間。

 生徒指導室の隅に置かれたロッカーの扉が勢いよく開かれた。


「こっ、湖沼くん!」


「湖沼! おまえいつからそこに!?」


 フフリと笑みを浮かべながら、イケメン湖沼くんが登場した。


 あんたそんなキャラだったっけ!?


「要するに、音咲さんが覚醒してボクやニッタ先生と同じく闘う力を身に付ければいいって話でしょ?」


「おまえ、私の気持ちアッサリ投げんなよ」


 チッと舌打ちするニッタを無視して、湖沼くんは話を続ける。


「覚醒条件についてはジータスから聴いている。歪みを抱え、そこに事象や物質が関わることでその歪みが色濃くなる。そして最も重要なのが、『次元の狭間に行くこと』さ」


「えっ!?」


 私は驚き、そしてニッタは質問する。


「何か矛盾していないか? 感情が高ぶったまま行動したり、トラウマが発動したりして初めて覚醒するんだろ? 狭間に行けるようになるのはその後じゃないのか?」


 チッチッチ、と湖沼くんは指を振る。


「『狭間に行ける条件』は『歪みを持つ者』もしくは『既に覚醒した者が連れて行くこと』。歪みの覚醒はその後、狭間でのみ発生していたんですよ」


 ニッタは顎に手を当て、思い出す。


「……確かに。私はジータスが妖魔(デーモン)を退治した瞬間に……その攻撃音に『無限』を感じた。私の覚醒したタイミングはそこか」


「えっ、じゃあ今から行こうよ、次元の狭間に」


 湖沼くんは髪の毛をかきあげ、ニヤッと笑う。


「ニッタ、今日の授業サボってもいい?」


「ニッタ先生、お願いしますね」


 あちゃーと頭を抱えるニッタは、しぶしぶ声を上げた。


「私も今日は授業する気分じゃなくなったわ……ちょっと代理立ててくるからおまえらここで待っとけ」


 ガラガラと指導室のドアを開けて振り返り、一言。


「音咲、覚醒したらこいつみたいにキャラ変わるかもしれねえからな。覚悟しておけよ」


 あー……湖沼くん随分キラキラしてると思ったらそれが原因かぁ。


 元々はネガティブっぽかったよなぁ。



 ――しばらくして、私と湖沼くんの早退の手続きと、授業の代役を立てたニッタは指導室へと戻り、準備を整えた。


「いいか、狭間への入り口を仮に『ゲート』と呼ぶが、現実と虚構の狭間に繋げた先は、あくまで私の脳内イメージが元になっているはずだ。ちゃんと戻れるように湖沼は体力あんま使うなよ」


「了解」


「ニッタ、よろしくね」


 3人はお互いの顔を見合わせて頷き、決意を高める。


「よし、行くぞ」



 ビキッーー



 ニッタはゲートを創造し、目の前に出現させる。



 ブゥンッ!!



 ――【次元の狭間】


 移動した先はかなり開けた場所で、空き地のような雰囲気だった。


 空はどす黒く、一部が紫掛かっている。照明は見当たらないものの周辺はしっかりと明るい。


「よし、ひとまず成功だ。音咲、来たからにはしっかり特訓するぞ」


「えっと、まずは私が覚醒しなきゃだよね。うーんキーワード? トラウマ? うーん……」


 私が頭の中をぐるぐるさせていた矢先に、地獄のような地響きが鳴動する。



 ズズズズズ…………!!



「な、なんだこの音は――」


 湖沼くんが重心を落とし、警戒する。

 同時にニッタも戦闘態勢をとった。


「え、なに!? なに!?」


「湖沼、おまえは感じとれたか?」


「えぇ」


 湖沼くんはトントンッと地面を片足で蹴り、腰に手を当てる。


「ここってニッタ先生が創造した狭間って訳じゃないんですね。どうやら狭間の世界は共通みたいだ」



 ビキッーー



 一瞬だけガラスにヒビが入ったような音がしたと思ったその時、()()は当たり前のように出現した。



「おや? (ビースト)じゃないですね。これは予想外だ」


「……」


 現れたのは2人。

 しかし、確実に彼らは歪み、能力を行使してくる気がした。


 私の心が騒めく。


「――予想外ですが、想定内です。じゃあ『(ヤマイ)』、さっそく特訓しましょう」


「はい」


 『(ヤマイ)』と呼ばれた青年は、ゆらりと左腕を上げる――






湖沼ケンタです。なんか緊張するなぁ……。

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あ、一発OK? やったね!

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