第21話【宣戦布告】
静寂。これが嵐の前の静けさであることは、わかっていた。
「それでは始めましょう、『嘘つきは誰だゲーム』。……タイトルは合っていますか?」
「おーけぇおーけぇ。合ってるよ」
そんなやり取りをただ目で追うことしか叶わない。敵の能力だろう、身動きが全く取れない。
どうしよう、ノバフラの三人も、ニッタもケンタも動けないの!?
このままだと敵の思う壺。何か突破口は無いか。
「先に言っておくけどさ、俺のゲームにはクリアは無いんだ――というか、俺だけがクリアするために用意したゲームなんだよね」
余裕綽々の満面の笑み。少年は語る。
「ってことで、この中に異常な能力を隠し持っている悪い奴らがいる。そいつらを全員炙り出せたらステージクリアで――」
――そんな時だ。獣の覆面が、従来の獣のように毛が騒めいていた。
「(ッあ~クソだりぃ。そもそもどうやってこれだけの人数を空間転移させた? てめェら――)」
「(歪んでない生徒だらけなのに、どうして? アンタたち――)」
「(まさか敵さんの能力? いや、俺らの認識が違うのか? キミらさ――)」
ギィンッッ!!!!
刹那、彼らの全身が輝き、首の動きに合わせて瞳に赤い導線が走る。
狼・狐・猫の獣化は同時に行われた。
「「「何をしたッッ!!!!」」」
疾風の如く超高速で近づき、長く鋭い爪でジータスが。一瞬の跳躍から落雷の如く、アックスキックをテラが。正面から直線上を一気に詰め寄り、硬く握られた拳から放たれるスポーン剛腕のストレート。
ズドォォォンッッーー!!!!
体育館のステージ上に粉塵が舞う。私も覚醒してからは皆の動きが追えるようになったし、今の攻撃が不発に終わったこともわかる。
天井に折りたたまれたバスケットゴールの位置、二階の左右に、敵対する二人が瞬時に移動していた。
まだ動けない教師と生徒が大勢いるというのに、戦闘は始まってしまった。というか私もまだ動けません、はい。
「(上半身は何となく動かせるけど、脚は動かないし声も出ないままだよ! これやばいて!)」
スポーンがどこからともなく取り出したハンドアクスを横に一線、斬撃が空を切り、二階の柵ごと対象を捉え、粉塵が舞い散る。赤く鋭い眼が、帽子の少年目掛けてその場から二階へ跳躍。阿吽の呼吸でジータスも跳躍し、対面のパーマ頭を狙う。
先の攻撃によりステージには大きな破壊跡。円の外側に吹き飛ばされた校長が白目を向いて口をパクパクさせ、泡まで噴いて立ったまま気絶していた。あぁ、校長も動けないのか。その一歩前で、テラは全体を見回している。
「ちょっ、まだルール説明終わってねーだろが! なんでおまえら動けんだよ! ばか! 嘘つき!」
帽子の少年はスポーンと近接格闘を繰り広げている。斧を持つスポーンと渡り合えるなんて、めっちゃ強ない? というかさっき無から斧を取り出してなかった?
ジータスは――
「……ッ!!」
二人の動きが速過ぎてまるでバトル漫画みたいなことになってる!!
身体が柔らかいのだろう、顔面へのハイキックをハイキックで合わせ、左フックを右手の甲で、かと思えば右フックを左手の甲で受け、互いに攻撃がヒットしない。
力が拮抗している!?
「……すごいね! 全部いなされる! 運動部だった?」
「いえいえ、学生時代は帰宅部です。というか割と余裕ないですよ」
会話しとる!!
余裕なのかわからないけど二人ともなんか凄い。
「おい、音咲」
「(ええぇッ!?!?!?)」
気付けば隣にニッタがいた。めちゃくちゃびっくりした。
え、ニッタなんで動けるの?
「おまえもケンタも動けないか――ま、仕方ない。これは恐らく、単純な戦力差だ」
私はただ視線をニッタに向けることしかできない――ので、ただ話を聴かせていただきます、えぇ。
硬直状態をとっくに察しているだろうニッタは、視線を正面のテラに向けたまま私に話しかける。
「ノバフラの彼らは、『獣化』することで個人の能力が飛躍的に強化されている。ここからでも圧倒的な強さをビンビン感じるぞ。だとすれば、相手の能力を上回る力さえあれば、能力を無力化することも出来るってことなんじゃないか?」
はぁ~、と大きな溜め息を吐くニッタ。
「……ってことはよ。今後、私らが覆面を身に着けることが確定しちまったな。断ろうと思ってたのに」
あぁ、えぇ。心配しているのはそこなんだ。ニッタは犬の覆面……ぷぷっ、なんか可愛いな。
「音咲てめぇ今絶対心の中で笑っただろ」
「(!?)」
首を左右に傾け、コキッと音を鳴らした。ニッタも戦う気だ。
……って結局わからなかったんだけど、ニッタは獣化してないのに何で動けるん?
「音咲とケンタのフォローは私がするからさ、早く状況を打開……ハッ!?」
臨戦態勢のテラの背後。ステージ上に更なる影が出現した。それも追加で二人も!!
茶色のダッフルコートを着た帽子の男が、大きく右腕を上げ、今にも襲い掛かろうとしている。
「テラ!! 後ろだ!!」
ニッタの咄嗟の掛け声に反応出来たテラは、身を捻じり、瞬時にステージから降りた。
「あ~、おしいね」
「……」
背の高い男と対照的な小柄な女。何やら大きめのリュックを背負っているが……敵なんだろうな。
「ハルカ! 動けるのか!?」
「不本意だけど動けちゃうんだな、これが」
これで4対4。全校生徒の目の前で発生した事件に対応できたのが、4人。
新たな敵の出現に気付いたジータスとスポーンが、同時に強烈な蹴りを相手にガードさせ、ステージに向けて吹き飛ばす。
現実と虚構の狭間の世界。一般の生徒や先生には関係のない世界であり、存在の知られていない世界。
ここでの死は、現実の死と同様。邪悪に満ちた空間にいま、私たちがいる。
「『ゲーム』。アナタの支配、どうなっているンです?」
「えっ、失敗したの?」
普通に会話をする敵チーム。こっちは聴くことしかできないってのに。話したい時に声がでないって辛いんだなぁ。
「ちげーし。まだ支配中。何ならリセットしようと思ってたところだよ」
「……まだリセットは早いのでは? もう少し様子を見たいのですが」
少年、イケメンパーマ、長身のコート男、小柄な女。……とてもじゃないが、人殺しをしているようには見えない。ごく普通の、そこら辺を歩いている一般人にしか見えないんだ。
私は胸の奥がズキッと痛んだ。
「いや~、このままだと闘いづらいんだよねぇ~。わたし、本気出すと巻き添えいっぱい出ちゃうよ?」
「『大喰い』。アナタはステージ2に移行するまで待機してくだサイ」
指をパキパキと鳴らす女は、楽しそうに微笑んだ。無表情であるこの男は、どこか無機質な声をしている。
少年がハンドポケットのまま、ぶすっとした表情でコート男に近寄った。
「もうステージ1はクリアしたぜ。ここにいる敵さんは全部で6人だ。次のステージいく?」
「わお♡ こりゃ食べ甲斐があるぞ。獣の他はどこどこどこ?」
おでこに手を横に当て、ステージ上から見下ろす女。
その女の肩に手を置きながら、人差し指を伸ばすイケメンパーマ。
「あの中央にいる赤いジャージの先生と、その隣の長い黒髪の女生徒。あとその斜め奥にいるセンター分けの黒髪男子だね」
み、見られている。そしていつの間にか見つけられている。
こっちは割とバラバラな配置、相手は4人固まっていた。
「じゃあ、ステージ2だ。獣共、覚悟しろよ」
「おいてめェ、そりゃ宣戦布告か?」
その言葉を聴いた直後――
ブゥンッ!!
別の狭間へと飛ばされた感覚が、確かにあった。
広い体育館、ステージ上の闘いの跡だけがくっきりと残る。
ジータス、テラ、スポーン、ニッタの姿は見当たらない。きっとケンタも……。
敵の姿も無く、再び静寂が訪れる。
そう、確かに空間転移の感覚はあったのだが。
「……いや、私だけ置いてけぼりぃ!?」
あっ、やっとしゃべれた。
BOTデス。感想くだサイ。
ブックマークはお好きにどうゾ。あと、ロボじゃないヨ。
「ロボじゃないのはわかりましたが、その……胸の……ブラは何ですか?」
法則! ブラじゃないヨ! 大胸筋矯正サポーターだヨ!
「コートの下がブラってのはちょっと……」
ッッブラじゃないヨ!! 大胸筋矯正サポーターだヨ!!




